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●「逢いたい時にあなたはいない........」 第二回(4)

□ 日本医科歯科大学付属病院・小児外科病棟・ナースステーション
「え!? ホントに?」
美代子、顔が綻ぶ。
フテくされた康子が頷く。
美代子 「ホントに代わってくれるの!?」
康 子 「(ブスッと)だって、相手がいなくなっちゃったんだもん」
美代子 「(ニコニコと)そっか、康子ちゃん、フラれちゃったのか」
康 子 「人の不幸を喜ばないで下さい!」
美代子 「ゴメンゴメン。康子ちゃんフるなんてサイテーね!」
康 子 「サイテーサイアク!」
美代子 「早くいい彼見つけなさい」
と言いつつ、どうしても顔が綻んでしまう。
□ 同・廊下
美代子、公衆電話で電話している。
電話の声 「はい、お電話代わりました、野口ですが」
美代子 「(ニコニコ)私」
雄介の声 「! はい。どう言ったご用件でしょう」
美代子 「ゴメンね、会社に電話して........」
雄介の声 「いえ、かまいませんが」
婦長が通りかかる。
美代子、ペコッと頭を下げて背中を向ける。
婦長、ジロッと美代子を一瞥して通り過ぎてゆく。
雄介の声 「もしもし?」
美代子 「(ニコニコ)14日の勤務、代わってもらえた!」
雄介の声 「........」
美代子 「ねえ、13日の夜はどうする? ホテルに泊まるの?」
雄介の声 「(曖昧に)そうですね........」
美代子 「予約してるの?」
雄介の声 「いや、その........」
美代子 「今から取れるかなあ。最近はバレンタインデーも盛り上がっちゃってるから。調べてみるね」
雄介の声 「........」
美代子 「もしもし?」
雄介の声 「申し訳ありません。その件につきましては後ほど」
美代子 「あ、ゴメン。夜電話するから」
雄介の声 「こちらからもいたしますので........」
美代子 「じゃあね。楽しみィ」
□ 同・ナースステーション
美代子、ニコニコと戻ってくる。
あゆみ 「大木さん、電話」
と、受話器を差し出す。
婦長、ジロッと美代子を一瞥。
美代子 「(気にしつつ、小声で)私だけど、ねえ、あのホテルにしない? 名前何だっけ、ホラ去年........」
電話の声 「もしもーし、誰かと間違えてない?」
美代子 「え?」
電話の声 「中西だよ」
美代子 「あ........どうも(と、赤面する)」
中西の声 「実はさ........」
美代子 「(婦長の目が気になって)あのう、今会社ですか?」
中西の声 「そうだけど」
美代子 「こちらから掛け直します。失礼します」
と、電話を切る。
婦 長 「電話ばかりしてないで仕事して下さい」
美代子 「(小さくなって)........はい」
□ 札幌・昭和乳業・営業部フロア
雄介、ため息をついている。
電話が鳴る。
雄 介 「(出て)はい、昭和乳業です」
電話の声 「野口さん、いらっしゃいますか?」
雄 介 「(怪訝に)私ですが」
電話の声 「古川です。ホクエーの受付の」
と、言いつつ、有本をチラッ。
梢の声 「今日、お会い出来ませんか?」
雄 介 「え?」
梢の声 「ご相談があるんです」
雄 介 「(怪訝に)........はあ」
□ 東京・喫茶店・店内
美代子が楽しそうにお茶を飲んでいる。
中西が入って来て美代子を見つける。
美代子、笑顔で会釈する。
中 西 「遅くなってゴメン」
美代子 「いえ........」
中 西 「(その笑顔に)いいこと、あった?」
美代子 「会えるんです、久し振りに。14日、じゃなくて13日の夜に........」
中 西 「それでホテルか、去年行った........」
美代子 「(真ッ赤になって)........」
中 西 「彼、わざわざ会社休んで来るんだ」
美代子 「........はい」
中 西 「バレンタインデーだったら美代子ちゃんがチョコレート持って北海道に行った方がいいんじゃない?」
美代子 「私の誕生日なんです」
中 西 「あ、だから彼が」
美代子 「はい」
中 西 「いくつになるの?」
美代子 「22です」
中 西 「“22歳の別れ”って歌、あったね」
美代子 「(睨んで)ちょっと中西さん」
中 西 「ゴメンゴメン」
美代子、機嫌がよくすぐニコニコ。
中 西 「(そんな美代子を見て)........」
美代子 「あ........この前千秋に会ったんですけど、どっちなんですか? 私たちがうまく行かないって賭けたのは........」
中 西 「それによって左右されるわけ?」
美代子 「そういうわけじゃないですけど」
中 西 「(曖昧に)さあ、どっちでしょうねえ」
美代子 「(首を竦め)ま、いいですけど」
中 西 「じゃ、食事に行こう」
美代子 「あのう........何か相談があったんじゃないんですか?」
中 西 「いや、別に」
美代子 「だって、千秋のことで話があるって........」
中 西 「美代子ちゃんを呼び出す口実だよ」
美代子 「ひどい。心配して飛んできたのに」
中 西 「心は北海道に飛んでるように見えるけど」
美代子 「それはともかく。食事なら食事って誘ってくれれば」
中 西 「来てくれた?」
美代子 「ごめんなさい、今日はちょっと........」
中 西 「そういうと思ったから千秋ちゃんの名前を出したんだ」
美代子 「また今度誘って下さい」
中 西 「ま、食事はどうでもいいんだけど」
美代子 「?」
中 西 「(瞶めて)ボクの用事は、キミを口説くことだから」
美代子 「−−。からかうのはやめて下さい」
中 西 「(瞶めて)本気だよ。キミに初めて会った時に恋の予感を感じた」
美代子 「私は感じませんでした」
中 西 「(瞶めて)感じたことに気付いてないだけなんだ」
美代子 「(苦笑して)強引な展開ですね」
中 西 「(瞶めて)そのうち、きっと気付く」
美代子 「無理だと思いますけど」
中 西 「(瞶めて)気付いたら電話をほしい」
美代子 「(ちょっとドキドキ)やめて下さいよ。中西さんに電話できなくなっちゃう」
中 西 「(瞶めて)電話したいって気持ちがあるってことは、何かを感じたってことだよ」
美代子 「ち、違いますよ、中西さん、千秋の友だちだから........」
中 西 「(微笑で瞶めている)........」
美代子 「(その視線から逃れるように)じゃあもう電話しません」
と、席を立ち、店を出てゆく。
中西、動じず、微笑で見送っている。
□ 札幌・バー“ハーフダイム”・店内
雄介と梢が会っている。
梢、深刻な表情である。
雄 介 「(戸惑っていて)何? 相談って........」
「(迷うが、意を決して)あのう........有本さんのことなんですけど........どう思いますか?」
雄 介 「........どう、って?」
「私に色々言ってたこと........」
雄 介 「........俺、まだ有本さんのことよく知らないから無責任なこと言えないけど、古川さんのことを好きなのはたしかだよね」
「........迷惑なんです」
雄 介 「−−!」
「私、有本さんとお付き合いする気、ないんです」
雄 介 「........有本さんが本気だったら?」
「(首を振る)........」
雄 介 「他に好きな人がいるんだ」
「いえ、今は........」
雄 介 「だったら........」
「(首を振り)転勤で札幌に来た人はダメなんです」
雄 介 「........?」
「........」
雄 介 「........」
「........私が前に付き合ってた人、東京から来た人でした」
雄 介 「........」
「私、本気でその人のこと、好きになりました。その人も私のこと、本気で........そう思ってたんですけど、東京の本社に戻ることになったら突然別れようって........それで色々調べてみたら、結婚を前提に付き合ってる彼女がいたんです。私のことは最初から遊びだったんです」
雄 介 「........ひどい奴だな」
「ですから、もう........」
雄 介 「........判った。有本さんにはうまく言っとくよ」
「お願いします」
と、頭を下げる。
雄 介 「........前の奴とはちゃんと別れたの?」
「(一瞬躊躇があり)........はい」
雄 介 「(気持ち、察して)........」
「(なるべく明るく)野口さんは札幌で浮気なんかしないで、東京の彼女のこと、大切にしてあげて下さいね」
雄 介 「........ウ、ウン」
梢の淋しそうな微笑。
雄 介 「........」
□ 看護婦寮・美代子の部屋
壁に、カレンダー兼スケジュール表が貼ってある。2月14日に○印が、7日まで×印が付けられている。
美代子、鼻唄混じりに楽しそうにマジックを取り、8日に×印を書き込む。
テーブルの上に、チョコレートの包みが置いてある。
□ 昭和乳業・札幌支社・営業部フロア
若林部長が顔をしかめて−−
「なんだって?」
雄 介 「ですから、来週の出張、メンバーから外して下さい」
若林部長 「で、有給とるってか?」
雄 介 「........はい」
有本、浩子たち、二人のやりとりを見ている。
若林部長 「で? 東京に帰りたい」
雄 介 「前からの約束がありますので........」
若林部長 「女か」
雄 介 「(迷うが)........はい」
若林部長、ビックリ。
浩 子 「(軽蔑の笑いで)恋人に会うために仕事をキャンセルする気なの?」
雄 介 「........」
若林部長 「(雄介に)バレンタインデーってそんなに大事か?」
雄 介 「それだけじゃないんです」
若林部長 「野口くんの売り込みも目的の一つなんだよ、今度の工場行きは」
有 本 「........」
若林部長 「キミには期待してるんだ。これ以上失望させないでくれ」
雄 介 「........」
□ 看護婦寮・玄関ロビー
「え!?」
電話に出ていた美代子が絶句する。
美代子 「(驚きの中で)帰れないって........飛行機の切符、取れなかったの?」
雄介の声 「(苦しそうに)得意先連れて、□□の工場に行かなくちゃいけないんだ」
美代子 「(泣きそうに)........楽しみにしてたのに」
雄介の声 「........ゴメン」
美代子 「(落胆して)........」
雄介の声 「もしもし?」
美代子 「........淋しい」
雄介の声 「美代子........」
美代子 「(涙が溢れて)淋しくて死んじゃうから........」
雄介の声 「困らせないでよ。俺だって帰りたいんだから........」
美代子 「(泣いて)........」
雄介の声 「泣くなよ」
美代子 「(フクれて)勝手でしょ」
雄介の声 「美代子」
美代子 「(泣いて)........」
雄介の声 「いい気持ちしないだろ? 電話口で泣かれたら」
美代子 「笑えばいいの? 雄介が帰ってこなくたって平気、って笑ってれば満足!?」
雄介の声 「近いうちになんとか時間作って帰るから」
美代子 「........いつ?」
雄介の声 「........まだ判らないけど、4月になったら必ず........」
美代子 「(ア然と)4月!?」
雄介の声 「年度末の決算で忙しくなると思うんだ。もちろん、それまでに時間が取れたら........」
美代子 「知らない!」
ガチャン! と電話を切ってしまう。
□ 東京の街
冷たい風が吹いている。
通勤のサラリーマンたちがコートの襟を立てて歩いてゆく。
□ 看護婦寮・美代子の部屋
−−朝。
美代子、ベッドでゴロゴロしている。
美代子 「........最悪」
壁のスケジュール表、13日まで×印が付けられている。
美代子、起き上がる気力がない。
美代子 「(呟く)........来ない........なんて言って........突然来て驚かそうなんて........」
ドアを見る。
美代子 「(ため息で)........来るわけないか」
と−−ドアにノックの音。
美代子、!
「大木さん、電話ですよ!」
美代子 「はい!」
弾かれたように起き上がる。
□ 同・玄関ロビー
美代子、階段を駈け降りてきて、受話器を取る。
美代子 「もしもし!」
電話の声 「あ、お母さん」
美代子 「(ガクッ!)........なんだ」
□ 美代子の実家・居間
瑞穂が電話している。
瑞 穂 「あら、随分なご挨拶ね。せっかく電話したのに」
美代子の声 「ごめんなさい」
瑞 穂 「(優しく)美代子、誕生日、おめでとう」
□ 看護婦寮・玄関ロビー
美代子 「........ありがとう」
瑞穂の声 「ヒマがあったら帰ってらっしゃい」
美代子 「........ウン」
瑞穂の声 「プレゼント、用意して待ってるわ」
美代子 「........ウン。帰る時は電話するから........じゃあね」
と、電話を切る。
美代子 「(呟く)........“どこでもドア”が欲しい」
美代子、受話器を取り上げ、ダイヤルする。
0、1、1........。
電話の声 「はい、昭和乳業です」
美代子 「あのう、野口さん、いらっしゃいますか?」
電話の声 「野口は出張中で、明日出社の予定ですが」
美代子 「休みを取ってるわけじゃないんですね」
女子社員の声 「はい、出張ですが」
美代子 「........どうも」
と、切る。
美代子 「(ため息で)........」
再びダイヤルする。
電話の声 「はい、□□です」
美代子 「すいません、浅川さんをお願いします」
電話の声 「浅川は本日お休みをいただいておりますが」
美代子 「........休みですか?」
□ 雅子のマンション・中
雅子、出掛ける準備をしながら−−
雅 子 「(ウキウキと)そうなのよ、今から大阪に行くの」
普段着の美代子が羨ましそうに膝小僧を抱えて見ている。
雅 子 「こんな日に働いてるの、バカバカしいよね」
美代子 「........いいなあ、簡単に休めて」
雅 子 「美代子も休んでるじゃない」
美代子 「........」
雅 子 「やっぱり、バレンタインデーに独りでいるのって淋しすぎるよね。野口さんによろしく。もうすぐ来ンでしょ?」
雅 子 「........」
雅 子 「なるべく早い新幹線に乗りたいから........」
と、美代子を追い立てるようにして玄関へ向かう。
美代子 「........」
雅 子 「あ、これを忘れちゃ........」
と、台所に戻ってテーブルの上から手作りらしきチョコレートの包みを抱える。
美代子 「........」
□ 同・近くの駅前
美代子がブラブラ来る。
所在なく喫茶店に入ろうとして、立ち止まる。
店頭でバレンタインデー用のチョコレートやケーキを販売しており、アベックや女の子たちが群がっている。
美代子 「(ムッ)........」
□ 同・近くの電話BOX
受話器を取り上げた美代子、ダイヤルしようとして、躊躇する。
が、ダイヤルする。
呼び出し音、途切れて−−
電話の声 「はい、日本旅行!」
美代子 「........中西さん、ですか?」
中西の声 「その声は美代子ちゃんだな」
美代子 「........はい」
中西の声 「どうしたの」
美代子 「........(どうしたんだろ、私)」
中西の声 「........彼は?」
美代子 「........」
中西の声 「(察して)........そうか。俺、6時まで会社にいなくちゃいけないんだ。その後ならOKだから、食事しよう」
美代子 「........(どうしよう)」
中西の声 「えーと、どうすりゃいいかな」
美代子 「........(どうしよう)」
中西の声 「美代子ちゃん、今どこにいるの?」
美代子 「........寮の近くです」
中西の声 「じゃあ、寮に戻ってて。決めたら電話するから」
と、電話、切れてしまう。
美代子 「........」
□ 看護婦寮・玄関ロビー
美代子、帰ってくる。
□ 同・廊下
やって来た美代子、!?
美代子の部屋の前に、花の籠が置いてある。
−−籠から溢れそうな花、花、花。
美代子、ア然と花々を眺める。
その前にしゃがみ込み、陶然と匂いを嗅ぐ。
そして、メッセージカードを発見する。

−−美代子が淋しい時は、俺も淋しい。美代子が会いたい時は、俺も会いたい−−
美代子 「(胸に詰まり)........雄介」
□ 同・玄関ロビー
美代子が階段を降りてきて、はずしてある受話器を取る。
美代子 「もしもし、大木です」
中西の声 「中西だけど、じゃあ6時に........(と、喋りかける)」
美代子 「........ごめんなさい」
中西の声 「え?」
美代子 「........行けなくなりました」
中西の声 「!」
美代子 「........」
中西の声 「........彼、来てくれたんだ」
美代子 「........」
中西の声 「判った。じゃ、また」
美代子 「........ごめんなさい」
電話、切れる。
美代子 「........」
美代子、再びダイヤルする。
呼び出し音、途切れて−−
電話の声 「はい、野口です。ただいま留守にしております。ご用のあるかたは留守番電話にどうぞ」
信号音が鳴る。
美代子 「美代子です........」
美代子、言葉が胸につかえ、絶句してしまう。
美代子のM 「また言葉が出なくなっちゃった。ありがとう........一言、そう言いたかったのに........」
受話器を握りしめている美代子で−−
□ −−TO BE CONTINUED−−
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