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●冗談じゃない! 第1回 (1)

□ 巨大コンベンションセンター・全景
パソコンの新製品が一堂に会する“マイクロマシンショー”が開かれている。
□ 同・中
広いフロアに、各企業のブースが並んでいる。
――パシフィック電機のブース。
カラフルな外観の小型ノートパソコン(プティアミ)が展示され、パシフィック電機のユニフォームを着た社員たちが客に応対している。
一角では、司会者が男(高村圭太)にインタビューしている。
上司の佐々木が見ている。
その様子は、展示されているノートパソコンの画面にも映し出されている。
テロップ――“戦略デジタル商品開発研究所・機構設計グループ主幹技師・高村圭太”
圭太、プティアミを掌に乗せて――
圭 太「(自信満々に)携帯電話と同じようにノートパソコンを持ち歩く時代がやってきました。ご覧になってお判りのように、従来のパソコンにはなかったデザインとサイズ。我々機構設計グループには軽量化、耐衝撃性のアップが至上命令でした」
司会者「このサイズで従来モデルと比較して各機能のスペックが25%以上も向上しています」
圭 太「(頷き)このサイズの中に、マザーボードや光ディスクとライブ、電源ユニットなどすべてを収めるためには、設計段階から各ブロックの領域にかなり突っ込む必要があり、話し合いながら作業を進めました。ほぼすべてに新規設計を行わなければなりませんでしたから」
司会者「時間も限られていますし、大変でしたね」
圭 太「大変?(ニヤッと自信に満ちた笑顔で)大好きなんですよ、新しいことにチャレンジするのが。『無理だ』とか『不可能だ』……そう言われると燃えますね。トラブルや困難は大歓迎です」
□ 同・表
圭太が佐々木に送られて出てくる。
佐々木「ご苦労だったね、高村くん」
圭 太「うちのブース、かなり人が集まってましたね」
佐々木「ああ。色々注目されてるパシフィック電機だからね」
圭 太「“プティアミ”、起死回生のヒットになるでしょう」
佐々木「じゃないとパシフィック電機の経営再建は難しい」
圭 太「(自信を持って)大丈夫、いいものは必ず売れます」
佐々木「だといいけど……(と、悲観的)」
圭 太「部長……冗談じゃないですよ、自信持って下さい(と言いつつ、時間を気にする)」
佐々木「(気づいて)ああ、新婚旅行当日に申し訳なかった」
圭 太「違いますって。あちらのご両親に許可をもらいに行くだけです」
佐々木「といっても南仏だろ? 地中海だろ?」
圭 太「ええ」
佐々木「羨ましいねぇ、20歳の嫁さんもらうなんて」
圭 太「(笑って)今まで独身だったご褒美ですかね」
その時、圭太の携帯電話の呼出音。
画面表示――絵恋。
佐々木「(覗き込んで)えれん? 奥さんか」
圭 太「(出て)もしもし、折り返しかけるから」
と、切る。
佐々木「いいの?」
圭 太「大丈夫です。じゃ……」
と、佐々木に頭を下げて歩き出す。
     ×     ×
圭太、振り返る。
佐々木、センターの中へ入っていく。
圭太、急いで携帯電話を取り出してかける。
圭 太「(平身低頭)もしもし、ゴメン!」
絵恋の声「もぉ! なに今の!」
圭太の声「間違えたんだ、他の人からの電話……」
□ 成田国際空港・全景
絵恋の声「どこ?」
□ 同・表
絵恋が携帯で電話している。
――美人だが幼さが残っている。
絵 恋「(ビックリ)えーっ! まだそんなとこ!?」
□ 都心
圭 太「ギリギリになるけど間に合うから」
絵恋の声「間に合わなかったら殺す」
圭太、電話を切り、近くの駅へ急ぐ。
圭太のモノローグ(以下、M)「幸せになりたい、なんて口にする男は信用できない。誰かを幸せにすると約束する男はもっと信用できない」
□ 電車・車内
圭太、乗っている。
圭太のM「(続いて)自分が幸せだと公言する男は? 現実が見えないだけ」
□ 成田国際空港・出発ロビー
圭太がやってくる。
絵恋が退屈そうにソファに座っている。
気づいた圭太、自然と顔が綻ぶ。
圭太のM「そう、現実が見えないから幸せでいられる」
絵恋も圭太に気づいた。弾かれたように圭太に駈け寄り――
圭太のお腹に寸止めパンチ。
圭太、ウッと顔を顰めて身を折る。
二人、笑い合う。
圭太のM「この時の僕は幸せだった」
□ タイトル
□ 南仏・ニース
ホテルのビーチ。
圭太と絵恋がデッキチェアで寛いでいる。
ウェイターが飲み物とフルーツを運んでくる。
絵 恋「(流暢なフランス語で)ありがとう」
ウェイター、圭太と絵恋を見比べて何事か話す。
絵恋、笑顔で応対。
ウェイター、笑って去っていく。
圭 太「(判らず)なんだって?」
絵 恋「(笑いながら)親子か、って」
圭 太「(ムッと)……」
絵 恋「しかたないよ。圭太も私も年相応だけど、フランス人からは日本人女性はとーっても若く見えるから。私なんか中学生に思われてるんだから」
圭 太「(苦笑して)それはないだろ」
絵 恋「高校生って言われたよ」
圭 太「(微笑)見えないことはないね」
絵 恋「でもちゃんと言ったよ、新婚旅行だって」
圭 太「だから新婚旅行じゃなくて……」
絵 恋「(遮って)はいはい、けじめをつけに来たんだよね」
圭 太「ご両親、反対なさってるんだろ? ちゃんと許しをいただかないと……」
絵 恋「だって、フランスは結婚するの親の許可いらないし」
圭 太「僕たちは日本で結婚するんだろ?」
絵 恋「もう一緒に棲んじゃってるし」
圭 太「そうだけど」
絵 恋「(ブツブツ)そういうところが40って感じだね」
圭 太「え?」
□ 街を歩く圭太と絵恋
キスしているカップルがいる。
絵恋、立ち止まり、目を閉じる。
圭 太「!? いいよ」
絵 恋「つまんない」
圭 太「つまんなくない」
絵 恋「じゃ、ニースの中心で愛を叫んで」
圭 太「冗談……(言えない)」
絵 恋「(大仰に)圭太、愛してる!」
圭 太「(慌てて口を塞いで)日本人いたらどうするの」
いた。日本人カップルが二人を笑って見ている。
圭太、バツが悪いが、絵恋はVサイン。
□ ニースの点描
□ 街
圭太と絵恋が歩いていく。
絵 恋「ね、どうして今まで独身だったの?」
圭 太「――」
絵 恋「今まで結婚したいと思った人はいなかったの?」
圭 太「いない」
絵 恋「40年間一度も?」
圭 太「ああ(というが、考える)」
絵 恋「あれ? 何?」
圭 太「いや……一応過去をスキャンしてみたの」
絵 恋「なかったでしょ?」
圭 太「ああ」
絵 恋「あったら許さないから」
圭 太「(苦笑して)物騒だな。過去はしょうがないだろ?」
絵 恋「もちろん、現在も未来もダメ」
圭 太「判ってる判ってる」
絵恋、指鉄砲で圭太の脇腹をつつく。
圭太、ビックリして身をよじる。
絵 恋「(見据えて)マジだからね」
圭 太「(ホールドアップして)はい」
絵 恋「私、意外と恐い女かも」
圭 太「はいはい、覚悟してます」
絵 恋「でも悔しい。もっと早く会えてれば……」
圭 太「さすがに十代だったら恋愛の対象には見なかったよ」
絵 恋「うーん」
圭太、愛おしそうに絵恋を見る。
絵恋、そんな圭太の両頬を摘んで広げる。
圭太、変な顔になる。
圭 太「おもひゃひするな(おもちゃにするな)」
絵恋、笑ってキスする。
圭太、! 周囲を気にする。
太ったオバさんがニコニコと見ている。
圭太、微苦笑。
□ 夕暮れ
□ 街角
圭太と絵恋、寄り添って歩いている。
絵恋、あるショップに入ろうとする。
圭太、! 立ち止まる。
ランジェリーショップなのだ。
絵 恋「(笑って)いいじゃない」
圭 太「勘弁してよ」
絵 恋「つまんなーい」
圭 太「あそこのカフェで待ってるから……」
絵 恋「判った」
と、ショップの中に入っていく。
     ×     ×
圭太、ジュエリーショップから出てくる。
その手に、小さな包み。
圭太、カフェに向いかけ、フト振り返る。
視線を感じたのだ。
通りは観光客たちで溢れている。
圭 太「……?」
圭太、一旦視線を戻し、すぐにまた振り返る。
と――建物の陰から顔を出した人物がすぐに引っ込める。
圭太、気になり、近寄る。
その人物は女性。さり気なく通りに戻る。
女性の横顔が見えた。40過ぎの日本人女性だ。
圭 太「(首を傾げ)……」
女性、人込みに紛れ、圭太から離れて行こうとする。
圭太、怪訝。しかし、踵を返しかけ――アッとなる。
圭 太「……ウソだろ」
その時、人込みの中で女性が振り返った。
圭太と女性、目が合う。
圭 太「――!」
女性、驚いた表情になる。
圭太、! 女性に近寄ろうとする。
女性、逃げるように足早に行く。
圭太、思わず追う。
女性、更に足を早め、小走りに去っていく。
圭太、走り出す。
女性、角を曲がる。
□ 同・交差点
やってきた圭太、女性の姿を探して左右を見る。
が、女性の姿はない。
圭 太「……」
諦めて来た道を戻りかけ、ビックリする。
建物の壁に女性が張りついていたのだ。
圭 太「理衣、さん……だよね?」
女 性「(戸惑いの中で)……久しぶり」
――女性は、理衣である。
圭 太「――」
□ 同・カフェ
絵恋が入ってくる。
店内を見回す。
が、圭太の姿はない。
ギャルソン「(フランス語で)待ち合わせですか?」
絵 恋「(フランス語で)日本人の男、来なかったですか?」
ギャルソン、首を竦める。
絵 恋「……?」
□ 同・別の街角
圭太と理衣。
圭太、驚きの中で理衣を瞶めている。
理 衣「……そんなに見ないでよ、溶けちゃうから」
圭 太「――」
理 衣「フフ。昔よく言った気がする」
圭 太「……20年だよ」
理 衣「……」
圭 太「20年前、キミが突然いなくなった」
理 衣「……そうだっけ?」
圭 太「フランスに留学したことは後から知った」
理 衣「……よく覚えてるわね」
圭 太「思い出したんだ、さっき」
理 衣「もともと決まってたのよ、留学することは」
圭 太「どうして話してくれなかったんだ」
理 衣「今更聞いてどうするの?」
圭 太「……」
理 衣「結婚してるんでしょ?」
圭 太「……もうすぐ」
理 衣「二回目?」
圭 太「いや」
理 衣「へえ、ずっと独身だったんだ。昔の恋人が忘れられなくて?」
圭 太「――。関係ない。全然関係ない」
理 衣「(笑って)変わらないね、すぐムキになるとこ」
圭 太「――」
理 衣「新婚旅行なんだ」
圭 太「あちらのご両親に挨拶に来た」
理 衣「40歳初婚、相手はマドモアゼル……素敵ね」
圭太、後ろを気にする。
理 衣「ひょっとして一緒なの?」
圭 太「ああ」
理 衣「じゃ、私は……(と、去ろうとする)」
圭 太「(思わず)待てよ」
理 衣「挨拶するのも変でしょ?」
圭 太「……」
圭太、手を差し出す。
理衣、怪訝に圭太を見る。
圭 太「もう会うことはないだろ?」
理 衣「もしまた会ったら運命かもね」
理衣、握手する。
圭 太「20年前に言えなかったことを伝えたい」
理 衣「何かしら」
圭 太「さようなら。幸せに」
理 衣「……」
圭太、理衣に背中を向け、歩き出す。
圭 太「……」
圭太、振り返る。
理衣の後ろ姿。振り返らず、歩いていく。
圭 太「(見送って)……」
その圭太の肩が叩かれる。
振り向いて、ビックリ。
絵 恋「圭太、何してるの?」
圭 太「あ、いや……」
と、振り向くが、理衣の姿はもうない。
絵恋、怪訝。
圭 太「(笑顔を作り)何でもない。お腹空いたね」
絵 恋「うん。何食べる?」
圭 太「さあ、何にしようか」
と、明るく言って絵恋の肩を抱いて促す。
絵恋、??
圭 太「……」
□ ――C・M――
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(2)へ続く

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