| □ 圭太のマンション・廊下〜玄関 |
| 圭太、ため息で帰ってくる。 |
| 圭 太 | 「ただいま」 |
| と、ドアを開けると、騒々しい笑い声が耳をつく。 |
| 圭 太 | 「(ムッと)……」 |
| □ 同・リビング |
| 圭太が入ってくると―― |
| 誰もいない。いや、ベランダにみんな集まっている。 |
| 圭太、怪訝。 |
| 絵 恋 | 「(圭太に気づき)あ、圭太。早く!」 |
| 圭 太 | 「何?」 |
| 絵 恋 | 「いいから早く来て」 |
| □ 同・ベランダ |
| 圭太が出てくると―― |
| バーベキューセットでエプロン姿の山田が何かを焼いている。 |
| 圭 太 | 「バーベキューセット買ったの!?」 |
| 絵 恋 | 「マモンがテレビショッピングで」 |
| 圭 太 | 「(呆れて)また……」 |
| 絵 恋 | 「それより見て」 |
| 焼かれているのは、巨大な肉塊である。 |
| 圭 太 | 「(驚いて)どうしたの」 |
| 山 田 | 「お肉屋さんのイラスト描いたらさ、ギャラは現物支給。嬉しいような嬉しくないような」 |
| 絵 恋 | 「さすがに二人じゃ食べきれないからって」 |
| 圭 太 | 「なんか、悪いね」 |
| 山 田 | 「いいよいいよ。いつもお世話になってるから」 |
| 朗 | 「なってる?」 |
| 肉の脂が落ちて炎が上がる。 |
| 絵恋たち、面白がって見ている。 |
| 圭 太 | 「……」 |
| □ 同・リビング |
| 山田が肉塊を切り分けている。 |
| 香恋たち、目を輝かせて―― |
| | 「凄い」 |
| 山 田 | 「こういうの、フランスにはないでしょ」 |
| 未 恋 | 「仔豚や小羊の丸焼きはあるけど……」 |
| 山 田 | 「(ビックリ)そっちのほうが凄いじゃない。負けた」 |
| 朗 | 「……勝ち負けじゃないだろ?」 |
| 山 田 | 「そう、みんなで楽しく食べるのが一番」 |
| 香恋たち、盛り上がる。 |
| 絵 恋 | 「(ニコニコ)ね、圭太」 |
| 圭 太 | 「悪い、僕パス」 |
| 絵 恋 | 「え? 一緒に食べないの?」 |
| 圭 太 | 「うん。食べてきたし、仕事持って帰ってきちゃったんだ」 |
| 絵 恋 | 「(残念そうに)そうなんだ」 |
| 圭 太 | 「(笑顔を作って)じゃ、ごゆっくり」 |
| と、リビングを出て行く。 |
| □ 同・書斎 |
| 入ってきた圭太、ため息をつこうとして、!? |
| 少女コミックなどが散らかっている。 |
| 圭 太 | 「ったく、この部屋に入るなって言っただろ」 |
| リビングから楽しげな声が聞こえてくる。 |
| 圭太、ムカムカしながら片づける。 |
| □ 同・リビング |
| みんな、食べながら―― |
| 香 恋 | 「美味しい!」 |
| 山 田 | 「(ニコニコ)よかった」 |
| 世 恋 | 「今度は魚屋さんのイラスト描いて下さい」 |
| 絵 恋 | 「世恋、図々しい」 |
| 山 田 | 「(ニコニコ)いいかも」 |
| 絵 恋 | 「あ、山田さん、ビールかワイン、飲みます?」 |
| 山 田 | 「いや、僕も高村くんほどじゃないけど、お酒苦手で……」 |
| 香 恋 | 「たくさん飲みそうに見えるけど」 |
| 山 田 | 「私ゃウワバミか」 |
| 香恋たち | 「(キョトンと)何、それ……」 |
| 朗 | 「ウワバミって、大きな蛇のこと。大酒飲みって意味もあるんだ」 |
| 未 恋 | 「へえ、朗くん、頭いいんだ」 |
| 朗 | 「常識だよ」 |
| 朗、香恋たちを意識して、料理を零してしまう。 |
| 山 田 | 「お、朗、緊張してるなあ」 |
| 朗 | 「(突慳貪に)してないよ」 |
| 山 田 | 「するよなあ、三人とも可愛いから」 |
| 絵 恋 | 「三人? 四人ですよね?」 |
| 山 田 | 「(笑って)あ、そうです」 |
| 絵恋、ニコッ。 |
| 香 恋 | 「絵恋、図々しい」 |
| 絵 恋 | 「朗くん、恋人いるの?」 |
| 朗 | 「(突慳貪に)いないよ」 |
| 山 田 | 「(ニコニコと)こいつね……」 |
| 朗 | 「(ジロッと)オヤジ、言うなよ」 |
| 山 田 | 「世恋ちゃんが好きなんだって」 |
| みんなビックリ。 |
| 朗 | 「(怒って)オヤジ、ホント口軽いな! 体重重いクセに!」 |
| 絵 恋 | 「うまい」 |
| 世 恋 | 「え……私って言った?」 |
| 朗、恥ずかしそうに下を向いてしまう。 |
| 世恋、露骨に嫌そうな顔をする。 |
| 絵 恋 | 「世恋」 |
| 未 恋 | 「(ムッと)なんで私じゃないの?」 |
| 朗 | 「!? あ、じゃあ……」 |
| 未 恋 | 「私、興味ないけどね」 |
| 朗、ガクッ。 |
| □ 同・書斎 |
| 圭太、敷きっぱなしの布団の上に転がっている。 |
| 圭 太 | 「……」 |
| □ フラッシュ |
| ――ファミレス“ベル・ファミーユ”・店内。 |
| 佐々木と久保が子供にあたふたする圭太を見ている。 |
| □ 元の書斎 |
| 圭太、ため息で寝返りを打つ。 |
| 圭 太 | 「……」 |
| と――机の下に就職情報誌が落ちている。 |
| 圭太、引っ張り出す。 |
| いくつもの付箋が挟まっている。 |
| 圭 太 | 「……」 |
| その時―― |
| 山田の声 | 「お邪魔しました!」 |
| 続いて、香恋たちの声。 |
| | 「行ってきまーす」 |
| 圭 太 | 「(怪訝)行ってきます?」 |
| 玄関のドアの開閉の音。 |
| □ 同・リビング |
| 圭太、やってくると、絵恋が一人台所で片づけものをしている。 |
| 圭 太 | 「あれ? みんなは?」 |
| 絵 恋 | 「山田さんち。イラスト見せてもらうんだって」 |
| 圭 太 | 「そういえば、お義母さんは?」 |
| 絵 恋 | 「そこ、あるでしょ?」 |
| 棚の上に、“キュベ・リエープロジェクト”(例えば)の企画書がある。 |
| 圭 太 | 「(見て)……」 |
| 絵 恋 | 「SGフーズの杉田さんに紹介してもらった酒屋さんとかレストランを回ってるんだって」 |
| 圭 太 | 「へえ。大変そうだ」 |
| 絵 恋 | 「圭太、仕事は?」 |
| 圭 太 | 「大丈夫。絵恋……」 |
| と、絵恋に密着。 |
| 絵恋もニコッと密着し―― |
| 絵 恋 | 「なに?」 |
| 圭 太 | 「いや、みんないるとゆっくり話せないからさ……」 |
| 絵 恋 | 「いいじゃない、気にしなくて」 |
| 圭 太 | 「いちいち突っ込まれるのも辛いし……」 |
| 絵 恋 | 「なに?」 |
| 圭太が話そうとした時、世恋と未恋がバタバタと駈け込んでくる。 |
| 世 恋 | 「絵恋、来て来て!」 |
| 絵 恋 | 「なによ」 |
| 未 恋 | 「いいから!」 |
| と、絵恋を引っ張っていく。 |
| 絵恋、圭太を気にしながら引っ張られていく。 |
| 圭 太 | 「(ため息で)……」 |
| □ 夜の繁華街 |
| 理衣があるレストランからソムリエに送られて出てくる。 |
| 理 衣 | 「ありがとうございました」 |
| ソムリエ | 「よろしくお願いします」 |
| と、店内に戻っていく。 |
| 理衣、頭を下げる。 |
| 顔を上げる時、フラッとなる。 |
| 理 衣 | 「……飲みすぎ」 |
| と、フラつきながら歩き出す。 |
| 少し行き、あれ? となる。 |
| 見覚えのある看板がある。 |
| スポーツバーである。 |
| 理衣、怪訝。 |
| □ そのスポーツバー・店内 |
| 理衣、入ってくる。 |
| 空席を探して店内を見回すと――冴子がいた。 |
| 理 衣 | 「(微笑で)今晩は」 |
| 冴 子 | 「(驚いて)あら……」 |
| 理 衣 | 「あ、思い出した。ここでお会いしたんですよね?」 |
| 冴 子 | 「(笑顔で)私も今思い出しました」 |
| 理 衣 | 「そうそう、ここで会って、“ベル・ファミーユ”で会ったのに判ンなかった」 |
| 冴 子 | 「(頷き)お互い」 |
| 理衣、フラつき、冴子の隣の席に腰掛ける。 |
| 冴 子 | 「酔ってらっしゃるんですか?」 |
| 理 衣 | 「仕事絡みで飲まなきゃいけなくて……」 |
| 冴 子 | 「お水もらいます?」 |
| 理 衣 | 「せっかくあなたに会えたのに、淋しいわね」 |
| 冴子、ニコッ。 |
| × × |
| 理衣と冴子、ショットグラスでスピリッツを一気飲み。 |
| 理 衣 | 「(更に酔いが進んで)いいねえ、女だねぇ」 |
| 冴 子 | 「あなたも……えーと、お名前は?」 |
| 理 衣 | 「理衣。店長さんは?」 |
| 冴 子 | 「野々村冴子です。店長はやめて下さい」 |
| 理 衣 | 「あ、ごめんなさい。でも、40なの? 独身なの?」 |
| 冴 子 | 「……はい」 |
| 理 衣 | 「全然見えないよ」 |
| 冴 子 | 「理衣さん、おいくつなんですか?」 |
| 理 衣 | 「あなたと同じよ」 |
| 冴 子 | 「(一瞬間があるが)そうなんですか」 |
| 理 衣 | 「(ニコッと)女40、正念場ね。いろんな意味で」 |
| 冴 子 | 「……もう過ぎちゃった気もします」 |
| 理 衣 | 「そお?」 |
| 冴 子 | 「35になった時にマンションを買ったんです。結婚を捨てたって同僚に言われました。そんなつもりはなかったのに……」 |
| 理 衣 | 「……」 |
| 冴 子 | 「理衣さんは結婚は?」 |
| 理 衣 | 「してるよ。子供も四人」 |
| 冴 子 | 「四人!?」 |
| 理 衣 | 「一人産んじゃえば二人も四人も変わらないわ」 |
| 冴 子 | 「そんなもんですか?」 |
| 理 衣 | 「結婚はやり直しがきくけど、母親になることはね、途中でやめるわけにいかない……」 |
| 冴 子 | 「……そうですね」 |
| 理 衣 | 「結婚しなくても、子供は作った方がいいかも」 |
| 冴 子 | 「(自嘲気味に)……相手が必要ですから」 |
| 理 衣 | 「モテるでしょう、冴子さん」 |
| 冴 子 | 「とんでもない」 |
| 理 衣 | 「私が男だったらほっとかない」 |
| 冴 子 | 「私、アプローチされるとダメなんです。自分から好きにならないと」 |
| 理 衣 | 「タイプは?」 |
| 冴 子 | 「ないんいです。でも、会った瞬間にビビビってくるんです」 |
| 理 衣 | 「運命論者?」 |
| 冴 子 | 「でも、大抵間違いなんです」 |
| 理 衣 | 「なんだ」 |
| 冴 子 | 「思ってるような性格の人じゃなかったり、結婚してたり」 |
| 理 衣 | 「40じゃ、結婚してる確率は高いでしょう」 |
| 冴 子 | 「私、不倫は嫌なんです。でも、好きになっちゃて……」 |
| 理 衣 | 「修羅場、色々?」 |
| 冴 子 | 「(首を振り)それは避けてきました」 |
| 理 衣 | 「もしかして、会った時に泣いてたのは、恋愛絡みで?」 |
| 冴 子 | 「……ええ、まあ」 |
| 理 衣 | 「そうだったの」 |
| 冴子、バッグから青いハンカチを取り出して見せる。 |
| 冴 子 | 「彼の……彼氏彼女の彼じゃなく……彼が貸してくれたんです。私が泣いてたら」 |
| 理 衣 | 「よく泣く人なのね」 |
| 冴 子 | 「すみません。ストレス解消法なんです」 |
| 理 衣 | 「ふうん、じゃあ今はそのハンカチの人が気になってる?」 |
| 冴 子 | 「……ええ。でも……」 |
| 理 衣 | 「アタックすればいいじゃない」 |
| 冴 子 | 「でも……」 |
| 理 衣 | 「結婚してたって、見せかけだけで家庭内別居してる場合だってあるし」 |
| 冴 子 | 「きっとラブラブです」 |
| 理 衣 | 「そう言ってるだけかもよ」 |
| 冴 子 | 「……そうでしょうか?」 |
| 理 衣 | 「……妻のほうはラブラブでも、夫の気持ちが離れてる場合もあるし」 |
| 冴 子 | 「……?」 |
| 理 衣 | 「……笑っちゃうけど」 |
| 冴 子 | 「何か?」 |
| 理 衣 | 「人生何があるか判らない。大事なのはその時の自分の気持ちに従うこと」 |
| 冴 子 | 「……」 |
| 理 衣 | 「行動しないで後悔するより、行動して後悔したほうがよくない?」 |
| 冴 子 | 「後悔はしたくないですけど……」 |
| 理 衣 | 「後悔しないで済む確率は、行動したほうが高いよ」 |
| 冴 子 | 「……そうでしょうか?」 |
| 理 衣 | 「じゃ、やめれば? はい、この話、終了」 |
| 冴 子 | 「あ、ちょっと待って下さい……」 |
| 理 衣 | 「じゃ、行動するの?」 |
| 冴 子 | 「(迷って)……」 |
| 理 衣 | 「冴子さん」 |
| 冴 子 | 「判りません」 |
| 涙が溢れそうになる。 |
| 理 衣 | 「泣かないで」 |
| 冴 子 | 「すみません、鬱陶しくて」 |
| 理 衣 | 「泣いたら発散しちゃうでしょ? その気持ちを溜めて、ぶつかるのよ!」 |
| モニター画面の魔裟斗のパンチがヒット! |
| ――C・M―― |