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●恋する京都 第5回 (2)

□ 先斗町・歌舞練場・ロビー
志乃がやってくる。
と、他の舞妓と話していた桃香が飛んでくる。
桃 香「志乃さん姉さん、お客さんと何かあったんどすか?」
志 乃「?」
桃 香「きっとその人の奥さんか、娘さんどす」
志 乃「何の話や」
桃 香「女の人から訊かれたんどす、志乃さん姉さんのことを根掘り葉掘り」
志 乃「(ドキッと)……」
桃 香「アッ……」
桃香、歌舞練場の玄関を見て、固まる。
その女性が入ってきたのだ。
志 乃「――」
その女性、じっと志乃を見据えてやってくる。
女 性「志乃さんですね?」
志 乃「へえ」
女 性「佐竹圭吾のことでお話があります」
志 乃「(緊張して)……」
女 性「(見据えて)どういうつもりで付き合ってらっしゃるんですか?」
志 乃「(困惑して)どういうつもり、て……」
女 性「本気ですか? それともゲーム?」
志 乃「ゲーム?」
女 性「芸妓さんにとって、恋はゲームみたいなもんなんでしょ?」
志 乃「(きっぱり)違います」
女 性「兄を迷わせるのはやめて下さい」
志 乃「迷わせる、て……(と、言いかけ、気づく)兄!?」
女性は、圭吾の妹・奈緒子である。
□ 遊山寺・境内
圭吾が驚いて――
圭 吾「奈緒子のやつ、庵主さんにも会いに来たんですか?」
遊 心「(頷き)説得してほしいて頼まれたんや」
圭 吾「……」
遊 心「一ぺん戻ってお父さんと話し合うてみたらどないや?」
圭 吾「(首を振り)……」
遊 心「ほんまにええのんか? このまま店を閉めることになっても」
圭 吾「……」
□ 先斗町・喫茶店・店内
志乃と奈緒子。
志乃、驚きの中にいる。
奈緒子「去年の夏、父は体調を崩して入院しました。過労でした。命に関わるようなことはありませんが、それ以来元気をなくしてしまって店を閉めてるんです」
志 乃「(困惑して)……」
奈緒子「祖父が亡くなった時、父と兄は畑を売る売らないで喧嘩になったんです。それで兄はこっちに来て……それ以来、父とは断絶状態なんです」
志 乃「……圭吾さんに戻ってきてほしい」
奈緒子「(頷き)父は口では反対のことを言ってますが、本音では兄にお店を継いでほしいんです」
志 乃「……けど、圭吾さんは京都で野菜を作りたいんやないですか?」
奈緒子「それは意地なんです。父に対する……」
□ 遊山寺・境内
圭 吾「……たしかに最初は意地やったかもしれへん。けど、やればやるほど京野菜にはまりました」
遊 心「……料理をやりたい気持ちもあるんやろ?」
圭 吾「(一瞬絶句するが)けど……五年やって、やっと自分の野菜作りが見えてきたところなんです」
□ 先斗町・喫茶店・店内
奈緒子「兄が京野菜にこだわるのは、父への意地だけじゃないかもしれない」
志 乃「……?」
奈緒子「京都を離れられないのは、あなたがいるから……」
志 乃「----」
奈緒子「お願いします。兄を父の許に返して下さい」
と、頭を下げる。
志 乃「(困惑して)……」
□ 八坂通り
志乃が歩いてゆく。
志 乃「(考えて)……」
□ 沢井写真館・スタジオ
志乃、壁に飾られた太郎の写真を見ている。
志 乃「……」
そこへ、耕造がやってくる。
耕 造「なんや、志乃さん、帰ってたんか」
志 乃「……へえ」
耕造、機材の点検を始める。
志 乃「……お義父さん、太郎さんはなんで素直に写真館を継がはらしまへんどしたん?」
耕 造「なんや、藪から棒に……」
志 乃「……すんまへん」
耕 造「写真館は毎日同じような写真ばっかり撮ってる、自分の撮りたいもんがある、いうて日本を飛び出して行きよった」
志 乃「……お義父さんは継いでほしかったんどすな?」
耕 造「そう思わん親はおらへんやろ。自分の仕事に誇りを持ってやってるんや」
志 乃「……」
耕 造「……親に逆らうんは子供の仕事みたいなもんや。あいつ、海外でいろんなもん撮って、野仏に興味持って、人の顔に興味持って、写真館の仕事も面白いかもしれへんて思うた。その頃志乃さんと知り合うたんやな」
志 乃「……へえ」
耕 造「志乃さんのお蔭や。あいつが戻ってきて、いろんな話出来たんは」
志 乃「……」
耕 造「けど、あないにに早く逝くとは思わへんかった……」
と、淋しそうな笑顔で太郎の写真に目をやる。
志 乃「(そんな耕造を見て)……」
□ 先斗町・歌舞連場・全景(翌日)
鼓の音色が聞こえている。
□ 同・稽古場
志乃が鼓の練習をしている。
志 乃「(考えて)……」
□ 同・ロビー
志乃が稽古場から出てくる。
と――そこに圭吾が待っていた。
志 乃「(一瞬屈託があるが、笑顔を作り)どないしはったんどすか?」
圭 吾「(真顔で)妹が失礼なこと言ったんやないですか?」
志 乃「いえ……」
□ 鴨川べり
志 乃「……なんで東京に行かへんのどすか?」
圭 吾「もう料理人に戻る気はない。東京に行くのんは時間の無駄や」
志 乃「けど、お父さんのこと、心配やありまへんか?」
圭 吾「大丈夫や、妹がいるんやから」
志 乃「(フト)圭吾さん、もしかして怖いんやないですか?」
圭 吾「怖い?」
志 乃「料理を作ってはる時……お寺の料理教室でも晶の学校でも、圭吾さん、楽しそうやった。ほんまは料理をやりたい思ってはるんやありまへんか?」
圭 吾「――。そんなことない」
志 乃「お父さんと会うたら料理人に戻りとうなる。そやから会わんと……」
圭 吾「(遮って)違う」
志 乃「妹さんに言われました。圭吾さんが東京に行かへんのんは、うちがおるからやないか、て……」
圭 吾「……!」
志 乃「うち、イヤどす。料理に未練を残してはるのにうちのために京都に残らはるやなんて……」
圭 吾「そんなことない」
志 乃「そやったら東京に行ってきとくれやす」
圭 吾「……」
志 乃「……お父さんに会うてきとくれやす」
圭 吾「……判った。東京に行って、親父とちゃんと話してくる」
志乃、ホッとなる。
圭 吾「そして、必ず京都に戻ってきます」
志 乃「(頷き)待ってます」
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