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| □ 七海津波の顔 | |
| ――大人の美しさがある。 | |
| 息を弾ませ、爽やかな汗を流している。 | |
| ジョギングしているのだ。 | |
| その、軽快なフットワーク。 | |
| そして―― | |
| 津波と並んで走っている、萌子。 | |
| ――津波の妹。整った顔立ちをしている。 | |
| 二人の後ろから、自転車に乗り、毛むくじゃらの大きな犬を連れて走ってくる、栞。 | |
| ――津波の一番下の妹。少女ではないが、無垢な可愛らしさがある。 | |
| 栞、二人を抜いてゆく。 | |
| 萌子、負けじとスピードを上げてゆく。 | |
| 津波は、マイペースで走ってゆく。 | |
| そこは―― | |
| □ 湘南 | |
| ――海沿いの道路。 | |
| 朝日に波頭がキラキラと輝いている。 | |
| 三人姉妹が、潮の匂いの中を駈け抜けてゆく。 | |
| □ 江ノ電が踏切を通過してゆく | |
| 遮断器が上がり―― | |
| 走り出す津波と萌子、急な坂を駈け上がってゆく。 | |
| 栞、犬(ポパイ)に引っ張り上げられるように自転車を押してゆく。 | |
| □ 七海家・表 | |
| ――古い一軒家である。ガレージがあり、小型車と自転車が一台、停めてある。 | |
| 栞、ポパイを連れてガレージの横を抜けてゆく。 | |
| □ 同・庭 | |
| “ポパイの家”の表札のある、立派な犬小屋がある。 | |
| ――七海家は高台にあり、春霞の中、江ノ島が近くに見えている。 | |
| □ 同・食堂 | |
| バスローブ姿の津波が髪の毛を乾かしながらやってくる。 | |
| 津波と同じスタイルの萌子が、朝刊をチェックしながらフルーツ(例えばパパイヤ)を食べている。 | |
| 津 波 | 「(顔をしかめて)萌子ォ、またそんなもン食べてる」 |
| 萌子、無視して新聞を読んでいる。 | |
| 台所から、栞が津波の朝食を運んでくる。 | |
| ――こちらは、御飯に味噌汁、焼魚に納豆という純和風である。 | |
| 津 波 | 「ホラ、萌子、こっち」 |
| と、栞が置いた焼魚などを萌子の前へ―― | |
| 萌 子 | 「(ウンザリ顔で)もう、いちいちウルサイなあ」 |
| 津 波 | 「あんたの体心配して言ってンのよ。最近残業多いでしょ? ちゃんと栄養とらないと、バテちゃうわよ」 |
| 萌 子 | 「判ってるって」 |
| 津 波 | 「判ってないじゃない」 |
| 萌 子 | 「ったくお姉ちゃんはお節介なんだから........」 |
| 津 波 | 「(ムッと何か言おうとする)........」 |
| 栞 | 「(遮って)いいじゃない、お姉ちゃん。それより、洗濯機、買い換えていい? ガタガタうるさいの」 |
| 津 波 | 「(萌子を気にするが)いちいち相談しなくていいよ、家の中のことは栞に任せてるんだから」 |
| 栞 | 「でも、お金がない」 |
| 津 波 | 「萌子、出しなさい」 |
| 栞 | 「あッ、萌子姉ちゃん、今月分まだもらってない」 |
| 萌 子 | 「(一転媚びて)結婚式続いてピンチなんだ。見逃して」 |
| 津 波 | 「ダメよ」 |
| 栞 | 「ちゃんと入れてくれないと困る」 |
| 萌 子 | 「だって........」 |
| 栞 | 「困るッ」 |
| 津 波 | 「(同時に)萌子」 |
| 萌 子 | 「(ブスッと)........判った」 |
| 津 波 | 「(ニコッと)いただきまーす」 |
| と、食べ始める。 | |
| □ 江ノ電・□□駅ホーム | |
| 電車が到着する。 | |
| ラフな服装の津波と、ビシッとしたスーツの萌子、通勤客に混じって乗り込む。 | |
| □ 七海家・洗面所 | |
| 栞、洗濯機に汚れ物を放り込み、スイッチを入れる。 | |
| ガタガタと物凄い音を立てて動き始める洗濯機。 | |
| □ 鎌倉駅・横須賀線快速ホーム | |
| 待っている津波と萌子。 | |
| 通勤客の数、増えてゆく。 | |
| □ 走る快速電車 | |
| ――多摩川を渡ってゆく。 | |
| □ 丸の内・オフィス街 | |
| 東京駅から吐き出されるサラリーマン、OLの群れ。 | |
| その中に、萌子がいる。 | |
| 平河商事――のビルに入ってゆく。 | |
| □ 平河商事・□□課フロア | |
| 「お早うございます」 | |
| と、入ってゆく萌子。 | |
| ――課長、同僚の斉藤敦、OLの広瀬早紀他数名の部署。 | |
| 萌子、自分のデスクにつき、仕事の準備を始める。 | |
| □ 山手線・大崎駅(例えば) | |
| 津波、駅前のオフィスビルに入ってゆく。 | |
| □ オフィスビル・あるフロア | |
| エレベーターを降りた津波、ドアを押して、中へ。 | |
| ――ドアに、“宮田歯科”の文字。 | |
| □ 七海家・玄関 | |
| 栞がいそいそと出てくる。 | |
| 自転車に跨がると、坂道を滑るように降りてゆく。 | |
| □ 鎌倉駅前 | |
| 自転車に乗った栞がやってくる。 | |
| ビルの上部階の窓ガラスに、“□□調理師専門学校”の文字。 | |
| 栞、眩しそうに見上げる。 | |
| □ 宮田歯科・受付 | |
| え? と、振り返る津波。 | |
| ――白衣姿が色っぽい。 | |
| 受 付 真奈美 | 「七海先生に是非診ていただきたいって........」 |
| 津 波 | 「誰の紹介?」 |
| 真奈美 | 「飛び込みです」 |
| 津 波 | 「(怪訝に予約票を見て)伊達正人........どういう人?」 |
| 真奈美 | 「(ニコニコと)あたし、タイプ」 |
| 津 波 | 「(ジロッと)........」 |
| □ 同・診療室 | |
| ――診療台が十台ほどある規模である。 | |
| マスクをした津波、やってくると―― | |
| 目指す診療台に腰掛けていた男が振り返る。 | |
| 一見冷たい印象の男だが、津波を認め、笑顔を作る。屈託のない笑顔だ。 | |
| 津波、しかし会った覚えはない。 | |
| 男 | 「(嬉しそうに)今日は」 |
| 津 波 | 「........今日は」 |
| 男、口を開ける。 | |
| 津波、口内鏡で見る。 | |
| 津 波 | 「(感心して)綺麗な歯ですねえ」 |
| 男 | 「歯には自信あるんです」 |
| 津 波 | 「え?」 |
| 男 | 「あ、いや........歯石を取ってもらおうかな、と思って」 |
| 津 波 | 「(準備しながら)前にどこかでお会いしました?」 |
| 男 | 「いえ、初対面です」 |
| 津 波 | 「........」 |
| 男 | 「七海って、珍しい苗字ですね。津波........名前も素敵です」 |
| 津 波 | 「(ちょっと気味悪く)どうして私の名前を........」 |
| 男 | 「名札........」 |
| 津波の胸に名札がある。 | |
| 津 波 | 「あ、そうですね、失礼しました」 |
| と、治療にかかる。 | |
| 男、じっと津波を瞶めている。 | |
| 二人の顔は数センチ以内にある。 | |
| 津波、男の視線に緊張しながら治療を続ける。 | |
| □ 平河商事・廊下 | |
| 書類を抱えた萌子が歩いてゆく。 | |
| その肩が叩かれる。 | |
| 背広の似合うすっきりとした顔立ちの青年の笑顔がある。 | |
| ――柴崎天。 | |
| 萌子、自然に顔が綻びかけるが、真顔を保つ。 | |
| 天、萌子と歩調を合わせ、前を向いたまま―― | |
| 天 | 「(さり気なく)今夜八時、いつものとこで」 |
| 萌子が何か言おうとした時―― | |
| 天の肩が叩かれる。 | |
| 斉藤だ。 | |
| 斉 藤 | 「(親しげに)よお、柴崎」 |
| 天 | 「斉藤........忙しそうだな」 |
| 斉 藤 | 「お互い様。たまには飲もうぜ」 |
| 天 | 「ああ。誘ってくれよ」 |
| と、斉藤の背中をポンと叩くと、チラと萌子に視線を送り、角を曲がってゆく。 | |
| 萌 子 | 「(振り返らず)........」 |
| □ ビストロ“ロンディーノ”・表 | |
| ――海沿いにある、小さなビストロ。 | |
| 栞が自転車でやってくる。 | |
| ドアに“準備中”の札。 | |
| □ 同・店内 | |
| マダムの中上久子と、夫でシェフの慶三が開店準備に忙しい。 | |
| 栞 | 「(元気に)今日は」 |
| と、入ってくる。 | |
| 慶 三 | 「(気風よく)お早う!」 |
| 久 子 | 「ご苦労さん」 |
| 幼稚園の制服姿の娘・綾が遊んでいる。 | |
| 栞 | 「(笑顔で頭を撫でて)今日は、綾ちゃん」 |
| 久 子 | 「調理師学校、申し込んできた?」 |
| 栞 | 「(笑顔で)あ、はい」 |
| 久 子 | 「頑張ってね」 |
| 栞 | 「(心配げに)あのう、姉さんたちには内緒に........」 |
| 久 子 | 「(ニコッと)判ってるって」 |
| 栞 | 「お願いします」 |
| ペコリと頭を下げる。 | |
| 電話が鳴る。 | |
| 栞 | 「(出て、テキパキ)お電話ありがとうございます、ビストロ“ロンディーノ”でございます」 |
| □ 都心の繁華街 | |
| ――夜の賑わい。 | |
| □ バー“シャコンヌ”・店内(夜) | |
| 天、ポツリ、カウンターにいる。 | |
| 時計を見る。 | |
| ――約束の8時はとっくに過ぎている。 | |
| 天、首をひねっている。 | |
| □ ゴルフ練習場 | |
| ――打ちっぱなしを楽しむサラリーマンやOLたち。 | |
| その中に、萌子もいる。 | |
| 萌子は、ストレスをぶつけるようにゴルフボールを引っぱたいている。 | |
| □ ビストロ“ロンディーノ”・店内 | |
| ――閉店間近。 | |
| 津波が食欲旺盛に食事をしている。 | |
| 「ありがとうございました」 | |
| 久子と栞がアベックを送り出す。 | |
| 客は津波だけになった。 | |
| 久子、津波のテーブルにやってくる。 | |
| 久 子 | 「ねえ、津波。今度の日曜日、ヒマ?」 |
| 津 波 | 「まあね」 |
| 久 子 | 「オトコ、いないの?」 |
| 津 波 | 「(首をすくめ)食事友だち、ゴルフ友だちなんかはたくさんいるけど、日曜日にわざわざ会うほどの男はね」 |
| 久 子 | 「最近、しゃっくり出ないんだ」 |
| 津 波 | 「え?」 |
| 久 子 | 「判りやすいじゃない、七海家の三姉妹の場合。一目惚れするとしゃっくり」 |
| 津 波 | 「忘れてた。(しみじみため息で)最近全然だわ。いい男、どっかにいない?」 |
| 久 子 | 「(ニッと)いる」 |
| 津 波 | 「どこよ?」 |
| 久 子 | 「日曜日に会わせてあげる」 |
| 津 波 | 「??」 |
| 久 子 | 「どこかで津波を見初めたらしいのよ。ボクの理想の人だ、嫁さんにしたい、って」 |
| 津 波 | 「ちょっと待って。じゃ、見合いってこと?」 |
| 久 子 | 「そう」 |
| 津 波 | 「パス! 結婚する気なんかないよ」 |
| 久 子 | 「いい人よ」 |
| 津 波 | 「あ、じゃあ萌子。あの子も今年25だし、そろそろちゃんと考えてやらないと........」 |
| 久 子 | 「お姉ちゃんが世話焼かなくても結婚相手ぐらい見つけるわよ。それよりあんた」 |
| 津 波 | 「私は、もう........(結婚は結構)」 |
| 久 子 | 「(ニッと)まだ悠作さんに未練があるんだ」 |
| 津 波 | 「――(口を尖らせて)バカ言わないで」 |
| 久 子 | 「フフ。ね」 |
| と、栞と微笑み合う。 | |
| 津 波 | 「(ムキになって)違うってば」 |
| 久子、フフ。 | |
| 津 波 | 「(自棄で)判ったわよ、会えばいいんでしょ、会えば」 |
| 久 子 | 「そうよ、会えばいいのよ」 |
| 津 波 | 「(気乗りせず)でもねえ........」 |
| □ 七海家・津波の部屋(朝) | |
| 津波、外出の準備をしている。 | |
| 萌子と栞が入ってくる。 | |
| 萌 子 | 「あれ?(着ている洋服)買ったの?」 |
| 津 波 | 「(ポーズを取って)素敵でしょ?」 |
| 萌 子 | 「ホントは見合いにノッてるんだ」 |
| 津 波 | 「みだしなみ」 |
| 栞 | 「相手、どういう人?」 |
| 津 波 | 「綾ちゃんが行ってる幼稚園の跡取り息子ですって」 |
| 萌 子 | 「オイシーじゃない」 |
| 津 波 | 「男は金じゃないわ」 |
| 萌 子 | 「(受けて)顔よ」 |
| 津 波 | 「心よ、心」 |
| 萌 子 | 「それが目に見えないから、悲劇は尽きないのよねえ」 |
| 津 波 | 「(ジロッと)........誰のこと言ってンの?」 |
| 萌子、首を竦める。 | |
| 表で、車のクラクション。 | |
| □ 同・表 | |
| 三人が出てくると―― | |
| 玄関前に高級外車が停まっている。 | |
| 萌 子 栞 | 「(笑顔で)お義兄さん」 |
| 運転席にいるのは、細面のいい男・牧原悠作。 | |
| 悠 作 | 「(微笑で)久し振り」 |
| 津 波 | 「(突慳貪に)何か用?」 |
| 悠 作 | 「仕事でね、近くに来たから........」 |
| 萌 子 | 「お姉ちゃん、これから見合いなの」 |
| 津 波 | 「!(萌子をつついて)余計なこと、言わないの」 |
| 悠 作 | 「!(動揺あるが、皮肉な笑いで)へえ........どういう気紛れかね」 |
| 津 波 | 「(ムッと)本気。本気で再婚考えることにしたの」 |
| 悠 作 | 「キミには幸せになって欲しいな」 |
| 津 波 | 「(ツンケン)なってやるわよ」 |
| □ 走る悠作の車の中 | |
| 津波が助手席にいる。 | |
| 津 波 | 「(ブスッと)冗談じゃないわよ、別れた亭主の車で見合いに行くなんて........」 |
| 萌 子 | 「(悠作に)どーいう仕事してるとこんな車乗れるワケ?」 |
| 悠 作 | 「これが仕事なんだ。外車専門の中古車ディーラー。車を売りたいというお客さんがいると買い付けに行き、買いたいというお客さんがいると、こうやって届けに行く」 |
| 津 波 | 「(フン、と)やくざな仕事」 |
| 悠 作 | 「ちゃんとした会社員だよ」 |
| と、津波に名刺を渡す。 | |
| 津 波 | 「(関心なさそう眺めて)どうせ長続きしないんでしょ」 |
| 悠 作 | 「いや、結構性に合ってるみたい」 |
| 萌 子 | 「(津波に)車、買い換えようよ」 |
| 栞 | 「洗濯機が先」 |
| 萌 子 | 「車が先」 |
| 津 波 | 「今の車で充分よ」 |
| 悠 作 | 「何ツンケンしてンの?」 |
| 津 波 | 「別に」 |
| 悠 作 | 「見合いだろ? スマイルスマイル」 |
| 津波、ますますムッ。 | |
| □ ホテル・正面玄関 | |
| 津波たちを下ろした悠作の車が発車する。 | |
| 津波たち、見送る。 | |
| 萌 子 | 「残念ね、お姉ちゃん」 |
| 津 波 | 「何が」 |
| 萌 子 | 「見合いなんかやめろ、俺ともう一度やりなおそう........なーんて言って欲しかったんでしょ」 |
| 津 波 | 「――。バカなこと言わないで」 |
| と、ホテルに入ってゆく。 | |
| □ 同・ティールーム | |
| 津波たちが入ってくると―― | |
| 窓際の席で立ち上がる男がいる。 | |
| 栞 | 「あの人?」 |
| 津波、首を傾げる。 | |
| 津波たち、男の席へ行く。 | |
| 男 | 「(緊張して)先日は失礼しました」 |
| 津 波 | 「(キョトンと)は?」 |
| 男 | 「歯」 |
| と、口を開け、歯を見せる。 | |
| 津 波 | 「(思い出し)あ!」 |
| 男 | 「今日まで待ち切れなくて、会いに行ったんです」 |
| 津 波 | 「そうだったんですか(悪い気はしない)」 |
| 萌子と栞には、二人のやりとりは、?? | |
| 男 | 「伊達正人です、よろしく」 |
| と、改まって挨拶する。 | |
| 津 波 | 「七海津波です。すいません、妹たち、勝手について来ちゃって........」 |
| 正 人 | 「とんでもありません」 |
| 萌 子 | 「(淑やかに)次女の萌子です」 |
| 栞 | 「三女の栞です」 |
| と、言った途端、しゃっくりをする。 | |
| 津波、萌子、驚いて栞を見る。 | |
| 栞、口を押さえ、赤面する。 | |
| 正 人 | 「? じゃあ、お昼食べに行きましょうか」 |
| 津 波 | 「はあ。じゃ、萌子たちは........(言いかけると)」 |
| 正 人 | 「一緒にいいじゃないですか」 |
| 萌 子 | 「え........でもォ」 |
| と、遠慮がちに栞と顔を見合わせる。 | |
| □ 同・レストラン | |
| 萌子と栞、食欲旺盛に食べている。 | |
| 津波、ったく........という顔で見ている。 | |
| 栞、正人の様子をチラチラ窺っている。 | |
| 正人、ぎこちない。 | |
| 津 波 | 「(その様子に)どうかなさったんですか?」 |
| 正 人 | 「いえ、噂には聞いてましたけど、揃いも揃って美人なので........緊張してます」 |
| 津 波 | 「(照れて)またァ」 |
| 正 人 | 「津波さんはとてもお医者さんには見えません。初めて会った時、女優さんかモデルだと思いましたよ」 |
| 津 波 | 「(嬉しく)またまたァ」 |
| 栞 | 「伊達さん、姉の性格、よくご存知ですね」 |
| 萌 子 | 「年増もおだてりゃ木に登る」 |
| 津 波 | 「栞、萌子!」 |
| 正 人 | 「いえ、ホントにそう思います」 |
| 津 波 | 「(ジロッ)木に登る、ですか」 |
| 正 人 | 「ち、違います。女優さんかモデルだって........」 |
| 津 波 | 「(ニコニコ)ありがとうございます」 |
| 正 人 | 「津波さん、ご趣味は?」 |
| 津 波 | 「そうですねえ。これと言ったものは........」 |
| 正 人 | 「休みの日はどうされてるんですか?」 |
| 津 波 | 「もっぱらストレス解消ですね」 |
| 正 人 | 「スポーツですか?」 |
| 津 波 | 「ええ。一日中座りっぱなしで患者さんの口の中を覗いてるので、運動不足になりがちで........。毎朝ジョギングをしてるんですけど、休みの日にはゴルフをしたり、テニスをしたり........」 |
| 正 人 | 「あ、そうですか。実はボクも最近ゴルフ始めたんです。今度教えて下さい」 |
| 津 波 | 「そんな、それほどの腕前じゃありませんわ」 |
| 正 人 | 「とにかく是非、ご一緒に........」 |
| 津 波 | 「ええ」 |
| なかなかいい雰囲気の津波と正人である。 | |
| 萌子と栞、そんな二人を見ながら食べている。 | |
| □ 同・庭園内の噴水 | |
| □ 同・ティールーム | |
| 萌子と栞がお茶を飲んでいる。 | |
| 萌子、フフ、と笑う。 | |
| 栞 | 「........なあに?」 |
| 萌 子 | 「栞さんのご趣味ですか? ああいうタイプ」 |
| 栞 | 「(動揺して)え、えーッ」 |
| 萌 子 | 「自分の見合いのように緊張なさって」 |
| 栞 | 「変なこと言わないで」 |
| 萌 子 | 「しゃっくりしてたし」 |
| 栞 | 「――。そういうんじゃないもん」 |
| 萌 子 | 「久し振りじゃない? 栞がしゃっくりしたの」 |
| 栞 | 「違うもん」 |
| 萌 子 | 「しかし、肝心のお姉ちゃんは出なかったなあ」 |
| 栞 | 「私のは違うって」 |
| 萌 子 | 「栞のことはいいの」 |
| 栞 | 「よくない」 |
| 萌 子 | 「(根負けして)判った判った。それより、お姉ちゃん、本気で再婚、考えてンのかな」 |
| 栞 | 「(考え込んで)........」 |
| 萌 子 | 「ま、いいけどね」 |
| 栞 | 「(ポツリ)お義兄さんとやり直せばいいのに」 |
| 萌子、! 栞を見る。 | |
| 栞 | 「萌子姉ちゃんも好きでしょ? お義兄さんのこと」 |
| 萌 子 | 「(微妙に)........」 |
| 栞 | 「楽しかったよね、お義兄さんが一緒に住んでた頃」 |
| 萌 子 | 「そういう問題じゃないでしょ。お姉ちゃんがイヤなんだから」 |
| 栞 | 「........」 |
| 萌 子 | 「........お姉ちゃんの結婚なんだから」 |
| □ 同・庭園 | |
| 津波と正人が散歩している。 | |
| 正 人 | 「不思議だなあ、津波さんのような素敵な人が今まで独りだったなんて........」 |
| 津 波 | 「!(表情が曇る)」 |
| 正 人 | 「(キザに)ひょっとして、それはボクと会うため?」 |
| 津 波 | 「――」 |
| 正 人 | 「(照れて)なんちゃって。似合わないですね、こんな科白」 |
| 津 波 | 「あのう........今は、独身ですけど」 |
| 正 人 | 「(言ってる意味が判らず、ニコニコ)はい」 |
| 津 波 | 「ええ、ですから........今は」 |
| 正 人 | 「(ピンと来ず)今は?」 |
| 津 波 | 「(言いにくそうに)つまり、昔一度........」 |
| 正 人 | 「?」 |
| 津 波 | 「バツ一なんです」 |
| 正 人 | 「あ........(ようやく判った)」 |
| 津 波 | 「........久子、何も言ってませんでした?」 |
| 正 人 | 「(ショックで)はあ........」 |
| 津 波 | 「(恐縮して)御存知だと思っていたので、(見合い)お受けしたんですが........」 |
| 正人、考え込んでしまう。 | |
| 津 波 | 「(心から)申し訳ありません........」 |
| 正人、顔を上げ―― | |
| 正 人 | 「かまいません」 |
| 津 波 | 「は?」 |
| 正 人 | 「離婚歴なんて気にしません。(改まって)津波さん」 |
| 津 波 | 「........はい」 |
| 正 人 | 「(キッパリ)結婚を前提に付き合って下さい」 |
| 津波、戸惑う。 | |
| その時―― | |
| 「お話し中すいません」 | |
| と、声。 | |
| 津波、! | |
| 悠作が遠慮がちに声をかけてきたのだ。 | |
| 悠作、目が合った正人に軽く会釈をし、津波を手招きする。 | |
| 悠 作 | 「津波さん、ちょっと」 |
| 津波、ムッ。 | |
| 正 人 | 「(怪訝に)........どなたですか?」 |
| 津波、困る。 | |
| 悠 作 | 「(遠慮がちに寄ってきて)牧原です。こいつの元亭主の........」 |
| 正 人 | 「――!」 |
| 津 波 | 「(カッとなって)ちょっと........」 |
| と、悠作を離れたところへ連れていこうとする。 | |
| 悠 作 | 「(正人に)あ、誤解しないでください、もうなんでもないんですから。ちょっと気が強いですけど、いい女ですよ、津波は」 |
| 正 人 | 「........」 |
| 津波、無理矢理悠作を引っ張ってゆく。 | |
| 悠 作 | 「痛いなあ」 |
| 津 波 | 「邪魔しにきたの!?」 |
| 悠 作 | 「へえ、気に入ったの」 |
| 津 波 | 「大きなお世話。帰って」 |
| 悠 作 | 「(言いにくそうに)いや、ちょっと頼みがあるんだ」 |
| 津 波 | 「(不機嫌)何よ」 |
| 悠 作 | 「実はね、車の買い付けに行ったんだけど、金額が折り合わなくて、手持ちじゃ足りないんだ。........五万円、貸してくれないか?」 |
| 津 波 | 「会社に取りに行けばいいでしょ」 |
| 悠 作 | 「時間があったらそうしたいんだけど........頼む」 |
| 津 波 | 「........」 |
| 正人、胡散臭そうに悠作を見ている。 | |
| 悠 作 | 「(カワイク手を合わせて)三万円でもいい」 |
| 津波、ブ然と財布から三万円を出して渡す。 | |
| 正人、! | |
| 悠 作 | 「(大袈裟に)助かったァ。今度、倍にして返すから。愛してるよ」 |
| 無造作にズボンのポケットに札を突っ込むと、正人に丁寧に頭を下げて去ってゆく。 | |
| 津 波 | 「何が愛してるよ、よ。........ウソツキ」 |
| ため息で見送る。 | |
| □ ――C・M―― | |
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