![]() |
|
|
| □ 夜空 | |
| 旅客機が飛んでいる。 | |
| JALのフランスからの帰国便。 | |
| □ 飛ぶ旅客機・機内 | |
| ――照明が落されている。 | |
| 客室乗務員が、ミールプレートに、おでん、ラーメン、うどん、鰻丼などを乗せて運んでゆく。 | |
| そして、一つだけ読書灯の点いた席へ―― | |
| テーブルに置かれた空のプレートを下げ、運んできた料理を男性客の前に置く。 | |
| 声 | 「嬉しいです。おかわり自由だなんて」 |
| ――その男性客、おしゃれなスーツ姿で、所作が美しい。顔は見せずに。 | |
| 客室乗務員 | 「二度目のお食事はフリースタイルです。お好きな時にお好きなだけお召し上がり下さい」 |
| 男性客 | 「ありがとう」 |
| 男性客、食欲旺盛に食べ続ける。 | |
| そんな男性客を、通路を隔てた斜め後ろの席から外国人の男の子が見ている。 | |
| 男性客、その視線に気づき、振り返る。 | |
| 男の子、じっと男性客を見ている。 | |
| □ 横浜の街 | |
| 快晴の空の下に広がる大都市の風景。 | |
| 横浜ランドマークタワーが近くに見える一角に、以前倉庫だった建物がある。 | |
| 大型バイクに跨がった若い男がやってくる。 | |
| バイクを降り、ヘルメットを脱ぐ――野田涼介。 | |
| 涼介、髪型を気にしながら、建物の中へ入ってゆく。 | |
| □ その建物の中 | |
| “ホームズ・エージェンシー”の看板がかかった一室がある。 | |
| □ ホームズ・エージェンシー・社内 | |
| 涼介、デスクの前に座ると、早速パソコンを立ち上げる。 | |
| ――アンティークな調度品の広めのワンフロア。その一角には襖で仕切られたスペースもある。 | |
| そのデスクがバンッと叩かれる。 | |
| 眦(まなじり)を吊り上げて苛立つ――出水京子。 | |
| 京 子 | 「涼介くん! なにノンビリしてるんですか!」 |
| 涼 介 | 「まあまあ、落ち着こうよ、京子ちゃん」 |
| 京 子 | 「チーフもサブも引き抜かれたんですよ!?」 |
| 涼 介 | 「大丈夫だって」 |
| 京 子 | 「大丈夫じゃないです! お金がないんです!」 |
| 涼 介 | 「お金、一杯にしましょう、僕がホームズ・エージェンシーを立て直しましょう!」 |
| 京 子 | 「涼介くんには無理です」 |
| 涼 介 | 「はっきり言うなぁ」 |
| 京 子 | 「だってそうでしょ?」 |
| 涼 介 | 「見損わないでほしいなぁ」 |
| 京 子 | 「じゃ、どうして涼介くんは引き抜かれないんですか?」 |
| 涼 介 | 「あいつらに見る目がないの」 |
| 京 子 | 「……(そうは思わない)」 |
| 涼 介 | 「(大仰に)京子ちゃん、二人でこの危機を乗り越えよう。そして見事ホームズ・エージェンシーを立て直して、ゴールイン!」 |
| 京 子 | 「どこに?」 |
| 涼 介 | 「だから、俺たち……」 |
| 京 子 | 「あの、はっきり言っていいですか?」 |
| 涼 介 | 「(慌てて)あ、言わないで」 |
| 京 子 | 「(キッパリ)あり得ませんから」 |
| 涼 介 | 「――」 |
| 京 子 | 「(ため息で)それよりどうやって立て直すんですか?」 |
| 涼 介 | 「(パソコンを操作して)今事件探してるから。で、華麗に解決する」 |
| 京 子 | 「押しかけ探偵じゃお金にならないでしょう?」 |
| 涼 介 | 「でもホームズ・エージェンシーの名前は売れるよ。そしたら依頼者殺到! で、僕がリーダー!」 |
| その時、入口のチャイムが鳴る。 | |
| 涼 介 | 「お!? 依頼者か!?」 |
| と、ドアを開けると―― | |
| 配達員 | 「お届けものでーす」 |
| と、大きな荷物を抱えて入ってくる。 | |
| 涼 介 | 「(宛名を見て)こんな人、うちにはいませんけど?」 |
| 配達員 | 「ホームズ・エージェンシー宛ですし、住所も間違ってませんよね?」 |
| 京 子 | 「誰から?」 |
| 涼 介 | 「(差出人を見て)高野聖也」 |
| 京子、!? | |
| □ 飛ぶ旅客機・機内(朝) | |
| まだ食べ続けている男性客――高野聖也。 | |
| 聖也、ラーメンを食べ終わると、ギャレーを伺う。 | |
| 客室乗務員が手ぶらでやってくる。 | |
| 聖也、あれ? | |
| 客室乗務員 | 「高野様、申し訳ございません。まもなく着陸いたしますので、お食事のほうは……」 |
| 聖 也 | 「(悲しそうに)そうですか」 |
| 斜め後ろの外国人の男の子、じっと聖也を見ている。 | |
| 聖也、気づいて、首を竦める。 | |
| 男の子、真似て首を竦める。 | |
| 客室乗務員、聖也が食べ終わったプレートを下げようとする。 | |
| 聖 也 | 「これ、“マイ箸”(プレートの箸を取り)ごちそうさま」 |
| と、手を合わせる。 | |
| 男の子 | 「(真似て)ゴチ……サマ」 |
| 聖 也 | 「(ゆっくり)ごちそうさま」 |
| 男の子 | 「ゴチソウサマ」 |
| 聖也、ニコッ。 | |
| □ ホームズ・エージェンシー・社内 | |
| 送られて来た荷物の中身は、チェロ。 | |
| 京子、ケースからチェロを取り出し、首をひねっている。 | |
| 涼介、パソコンを操作しながら―― | |
| 涼 介 | 「“チェロ”“高野聖也”で検索したけど何も出ないよ」 |
| 京 子 | 「……って、どういうこと?」 |
| その時、ファックスの着信。 | |
| 京子、通信文を見て、! | |
| 京 子 | 「オーナーからだ」 |
| 涼 介 | 「! なんだって?(と、覗き込む)」 |
| 達筆の毛筆文字。 | |
| 京 子 | 「(文面を読んで)『新しく人を雇いました。頼りになる男です。彼をリーダーにホームズ・エージェンシーを立て直して下さい。今日そちらに着くはずです。名前は高野聖也』……」 |
| 涼 介 | 「(チェロを見て)そいつか」 |
| 京 子 | 「(ホッとなり)よかった」 |
| 涼 介 | 「よくないでしょ。オーナー何考えてンの? そんな大事なことファックス一枚で。ホームズ・エージェンシー最大のピンチだよ。取るものもとりあえず駆けつけるのが普通でしょ?」 |
| 京 子 | 「ずっと海外ですから」 |
| 涼 介 | 「ファックス送れるんだったら電話しろっての」 |
| 京 子 | 「どんな人なんだろ、高野聖也さんって」 |
| 涼 介 | 「オーナーの話してるの。俺、入社して一年だけど一回も会ってないんだけど」 |
| 京 子 | 「(期待して)イケメンのハードボイルド? ちょい不良(ワル)中年?」 |
| 涼 介 | 「聞いてる?」 |
| 京 子 | 「金田一耕介みたいなタイプ?」 |
| 涼 介 | 「(クサって)金田一少年だったりして」 |
| その時、チャイムが鳴る。 | |
| 京 子 | 「来た!」 |
| ドアを開けると――蝶ネクタイに眼鏡の小学生の男の子が立っている。 | |
| 涼 介 | 「名探偵コナン!?」 |
| 京子もビックリ。 | |
| 少 年 | 「よく言われる」 |
| 涼 介 | 「意識してるでしょ、蝶ネクタイ」 |
| 京 子 | 「もしかして高野さん?」 |
| 少 年 | 「金田一(かねだはじめ)」 |
| 涼 介 | 「かねだはじめ!?」 |
| 少 年 | 「金の田に数字の一」 |
| 涼 介 | 「金田一(きんだいち)少年じゃん」 |
| 金田一少年 | 「それもよく言われる」 |
| 涼 介 | 「だったら金田一少年の恰好しろよ」 |
| 金田一少年 | 「(涼介は無視。京子に)猫、探して」 |
| と、デブ猫の手配写真を差し出す。 | |
| 涼 介 | 「(ガクッ)猫探しかよ」 |
| 京 子 | 「探してあげてもいいけど、それにはお金が必要なの。お母さんと一緒に……」 |
| 金田一少年、ポケットから無造作に一万円札を取り出す。 | |
| 京子、! | |
| 涼 介 | 「お前小学生だろ?」 |
| 金田一少年 | 「中学生に見える?」 |
| 涼 介 | 「じゃなく、親は知ってるのかって」 |
| 金田一少年 | 「足らない?」 |
| 涼 介 | 「だからそういう問題じゃないの」 |
| 京 子 | 「引き受けたわ」 |
| と、金田一少年から一万円札を受け取る。 | |
| 涼 介 | 「京子ちゃん、猫探しなんて……」 |
| 京 子 | 「(遮って)今の一万円は貴重です。やって下さい」 |
| 涼 介 | 「……判ったよ。(手配写真を見て)猫の名前、美雪!? まんまじゃん」 |
| 金田一少年 | 「文句ある?」 |
| 涼 介 | 「お前、生意気だなあ」 |
| その時、突然ドアが開き、二十枚ほどの蒸籠を持って中国人販売員が入ってくる。 | |
| 京 子 | 「(ビックリして)頼んでませんよ」 |
| 中国人の後ろから、聖也が現れて―― | |
| 聖 也 | 「ああ、そこ(デスクの上)に置いて下さい」 |
| 中国人、置く。 | |
| 涼 介 | 「ちょっと、頼んでないって言ってるでしょ」 |
| 聖 也 | 「みなさんも遠慮しないで食べて食べて」 |
| 蒸籠を開けると、蒸したての中華まんから湯気が上がる。 | |
| 聖 也 | 「うーん、ほかほか。いただきまーす」 |
| スーツの胸ポケットから“マイ箸”をシャキン! と取り出し、中華まんに乗ったチャーシューをパクリ。 | |
| 京 子 | 「あの、高野聖也さんですか?」 |
| 聖 也 | 「(口一杯に中華まんを頬張り)そふへふ(そうです)」 |
| 涼 介 | 「(顔を顰め)こいつが?」 |
| 中国人 | 「お金下さい」 |
| 聖 也 | 「いくらですか?」 |
| 中国人 | 「一万円」 |
| 聖 也 | 「はいはい」 |
| と、京子の手にある一万円札を取って中国人に渡す。 | |
| 京 子 | 「あ……」 |
| 中国人 | 「ありがとうございました」 |
| と、去っていく。 | |
| 聖 也 | 「(食べなから)どうぞ、遠慮なく(と、三人に中華まんを勧める)」 |
| 京 子 | 「一万円、返して下さい」 |
| 聖也、社内を見回し―― | |
| 聖 也 | 「ここは、不動産屋ですか? 広告代理店ですか? どちらにも見えませんね」 |
| 襖を開けて、和室を確認したり。 | |
| ――和室には、仏壇や床の間もある。 | |
| 京 子 | 「(怪訝)探偵事務所ですけど」 |
| 聖 也 | 「探偵?」 |
| 京 子 | 「ホームズ・エージェンシーのホームズは、シャーロック・ホームズのホームズです」 |
| 聖 也 | 「なるほど、エッチ、オー、エル、エム、イー、エスのほうですね」 |
| 涼 介 | 「あんた、帰っていいよ。オーナーには連絡しとくから」 |
| 京 子 | 「涼介くん」 |
| 涼 介 | 「素人に探偵なんて無理でしょ」 |
| 聖 也 | 「(金田一少年に)キミもここのメンバー?」 |
| 金田一少年 | 「依頼主(と、猫の手配写真を渡す)」 |
| 聖 也 | 「OK、高野聖也に任せて下さい」 |
| と、中華まんを渡す。 | |
| 金田一少年 | 「頼むよ(と、中華まんを食べようとする)」 |
| 聖 也 | 「“いただきます”は?」 |
| 金田一少年 | 「はあ?」 |
| 聖 也 | 「いただきまーす」 |
| と、中華まんを頬張る。 | |
| 金田一少年 | 「じゃ、いらねえよ」 |
| と、中華まんを突き返して出て行く。 | |
| 聖 也 | 「……」 |
| 京 子 | 「高野さん、オーナーとはどこで知り合ったんですか?」 |
| 聖 也 | 「行きましょうか」 |
| 涼 介 | 「はぁ?」 |
| 聖也、出口へ向かう。 | |
| 京 子 | 「ちょっと待って下さい」 |
| □ 同・近くの道(中華街) | |
| 聖也、中華まんを食べながら飲食店を物色している。 | |
| 涼介と京子も中華まんを持たされ、聖也に引きずられるように歩いている。 | |
| 京 子 | 「どこに行くんですか?」 |
| 聖 也 | 「食事です」 |
| 涼 介 | 「今食べてるじゃない」 |
| 聖 也 | 「これはおやつです」 |
| 涼 介 | 「俺たち、さっき昼食べたとこだし……」 |
| 京 子 | 「ちゃんとお話を伺いたいんですけど」 |
| 聖也、唐突に京子に顔を近づける。 | |
| 京子、ドキッ。唇が触れ合いそうな距離だ。 | |
| 聖也、くんくん。 | |
| 聖 也 | 「なるほど、お昼はコンビニのミックスサンドイッチ。それにベジタブルスープですか。美味しかったですか?」 |
| 京子、慌てて口を押さえる。 | |
| 聖也、涼介にも顔を近づけ、くんくん。 | |
| 涼 介 | 「……」 |
| 聖 也 | 「ラーメンと炒飯のセットですね。豚骨系ではなく、煮干し系の店」 |
| 涼介、ビックリ。 | |
| その時、「待て!」と、声。 | |
| 見ると、通りの向こうで追跡劇。必死に男が逃げ、中年男と制服警官数人が追っている。 | |
| 涼 介 | 「あ、五十嵐さん……」 |
| 中年男・五十嵐刑事 | 「待てー!」 |
| 聖 也 | 「(動きを追いながら)待つわけないのに」 |
| 京 子 | 「確かに」 |
| 五十嵐刑事 | 「停まれー!」 |
| 聖 也 | 「停まらないって」 |
| 男、聖也たちの方へ逃げてくる。 | |
| 京 子 | 「キャッ」 |
| 涼 介 | 「! 捕まえてやる!」 |
| と、突進していく。 | |
| 聖 也 | 「(醒めていて)無茶しちゃダメですよ」 |
| 涼介、両手を広げて男の行く手を阻もうとする。 | |
| が、走ってきた男に簡単に跳ね飛ばされてしまう。 | |
| 涼 介 | 「(転んで)痛テ」 |
| 男、聖也達の方へやってくる。 | |
| 京 子 | 「高野さん、捕まえて!」 |
| 聖 也 | 「アクションは苦手です」 |
| と、身を引いて男をやりすごそうとする。 | |
| 男、すれ違いざまに聖也の中華まんを奪う。 | |
| 聖也、! スイッチ・オン! | |
| 聖 也 | 「待てーッ!」 |
| と、男を追う。 | |
| 京 子 | 「(ポカン)待たないって」 |
| 聖也、足が速い。追いつき、男に飛びかかる。 | |
| 聖也、男から中華まんを取り戻し、ホッ。 | |
| 男、再び逃げようとするが、追いついた五十嵐刑事たちに取り押さえられる。 | |
| 聖也、捕り物劇には無関心。 | |
| ――C・M―― | |
| 番組データへ | (2)へ続く |
(C)Copyright 2001 Kazuhiko Ban. All rights reserved.