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●喰いタン 第4回 (1)

□ ホームズ・エージェンシー・全景
□ 同・社内
涼介、寛いでパソコンをいじっている。
京子も寛いでお茶を飲んでいる。
そこへ、大きな荷物を抱えた初老の婦人(山田房枝)が入ってくる。
涼介、京子、? 怪訝に見る。
房 枝「(社内を見回し)ここ、探偵事務所?」
京 子「!(涼介に)お客様」
涼介、慌てて姿勢を正す。
京 子「(満面の笑みで)はい、ホームズ・エージェンシーです。調査のご相談ですか?」
房 枝「(涼介を見て)頼りなさそうね」
と、出て行こうとする。
京 子「(と、慌てて引き止めて)うちにもちゃんとした探偵がいます。どうぞ」
と、房枝の荷物を持ち、ソファへ誘導。
涼 介「(ブチブチ)俺はちゃんとしてないのかよ」
京 子「それで、どういったご相談でしょうか?」
房 枝「孫を探していただきたいの」
と、財布の中から写真を取り出して京子に渡す。
涼介、覗き込む。
いかにも好青年、といったイメージの男の写真。
房 枝「山田幸平。26歳。半年前まで横浜のスポーツ用品店で働いてました。でも急に連絡が取れなくなって……」
涼 介「(房枝に)ちょっとすみません」
と、京子を引っ張って離れたところへ。
京 子「何?」
涼 介「(小声で)行方不明者探しはやめといたほうがいいんじゃない?」
京 子「なんで?」
涼 介「時間と手間がかかって割りのいい仕事じゃないって」
房 枝「(そんな二人を見て)とりあえず200万円あればいいかしら」
と、鞄の中から札束を鷲掴みにして取り出し、テーブルの上に置く。
涼介、京子、!
そこへ、聖也が帰ってくる。
聖 也「ただいま。涼介くん、京子ちゃん。ホクホクですよ!」
聖也、抱えきれないほどの石焼き芋を持っている。
聖 也「(房枝に気づき)あ、お客様でしたか。失礼しました。私、リーダーの高野聖也です」
と、札束を無造作に退けて焼き芋の包みを置く。
聖 也「どうぞ」
と、房枝をはじめみんなに焼き芋を配る。
房枝、ポカンと受け取る。
聖 也「さ、食べましょう。いただきます」
と、焼き芋にかぶりつく。
聖 也「美味しいッ」
房 枝「(見惚れて)喰いっぷりがいいわね」
聖 也「ありがとうございます」
房 枝「食べ終わったらすぐに動いて下さい。一日でも早く、いえ、今日中にでも孫を見つけて下さい」
聖 也「(京子に)人探しですか?」
涼 介「今日中に見つけられれば、一日で400万、ですね?」
房 枝「もちろん。その代わり、見つけてくれるまでここに泊り込みます」
京 子「(舞い上がって)もう全然かまいません! 高野さん、野田さん、お願いしますッ」
涼 介「了解!」
房 枝「お願いします。幸平が、人を殺すかもしれないんです」
聖也、涼介、京子、!
□ タイトル
□ 横浜みなと署・表
涼介のバイクが停車している。
□ 同・取調室
涼介が独り、イライラといる。
ドアが開き、五十嵐刑事が入ってくる。
涼 介「五十嵐さん、俺容疑者じゃないんですから応接室に通して下さいよ」
五十嵐刑事「ただでさえ忙しいのに時間割いてやってンだぞ、ありがたく思え」
涼 介「それは感謝してますけど……」
五十嵐刑事「(書類を見ながら)山田房枝さんね、たまたま俺が対応したよ」
涼 介「孫の幸平さんが人を殺すかもしれないって?」
五十嵐刑事「(頷き)しかしなぁ、殺されるって言うんならパトロールしたり、トラブルの相手にアプローチしたり動きようもあるだろ? だけど誰を殺すかも判らないし、殺す理由も判らない、それに当事者さえどこにいるか判らない、じゃね」
涼 介「そうですね」
五十嵐刑事「うちの管内で一日一つ以上変死体が上がるんだよ」
涼 介「そんなに!?」
五十嵐刑事「ま、ほとんどは病死だったり事件性ないんだけどね、そうと判るまでが大変なのよ」
涼 介「はあ……」
五十嵐刑事「というわけで、自分たちで調べて」
と、席を立つ。
涼 介「――」
□ スポーツ用品店・表
涼介、展示品の陳列をチェックしている店員に――
涼 介「え? 株をやってたんですか? 幸平さん」
店 員「ビギナーズラックでかなり儲けたらしくて、はまっちゃってたなあ」
涼 介「で、ここやめて株一筋?」
店 員「やめさせられたの。使えないでしょ、相場のラジオ聞きながら接客なんて」
涼 介「半年前にやめて、それからは?」
店 員「全然連絡なし。結局失敗して借金膨らんで苦しんでるって噂は流れてきたけど……」
涼 介「誰か連絡を取ってる人いませんか?」
□ 住宅街
涼介がメモを片手にやってくる。
涼 介「(番地を確認して)……ここか」
涼介、木造アパートの外階段を上がってゆく。
□ アパート・廊下
やってくる涼介、ある部屋の前までやってくる。
壁には、“金返せ!”“泥棒!”などと言った張り紙やサラ金の督促状が山のように貼ってある。
手書きの表札――“山田”
涼 介「(確かめて)……」
□ 同・近くの大衆食堂・表〜店内
涼介、入って行き、店員に幸平の写真を見せて、
涼 介「この人、ここのお客さんでしたか?」
店 員「ああ、そうだよ」
涼 介「ホントですか!?」
と、勢い込んで訊こうとした時、テーブル一杯に料理を並べて食べている聖也が目に入る。
涼 介「(ビックリ。店員に)すみません(と、聖也のところへ行き)なんでここにいるの」
聖 也「ここ、旨いんですよ」
涼 介「偶然?」
聖 也「(それには答えず)成果は上がってますか?」
涼 介「幸平さん、借金まみれ。ヤミ金のヤバい金にも手を出して、2000万円以上借りてるみたい」
と、家のドアに貼ってあったサラ金のチラシ数枚を見せる。
その中に、“更級金融”がある。
聖 也「蕎麦屋みたいな名前ですね」
涼 介「さらきゅう?」
聖 也「さらしな、です。辞書引いて下さい」
涼 介「更級金融、略してサラ金。おちょくってるなあ」
聖 也「サラ金も資金回収に必死でしょう。何か情報を持っているかもしれません。ここは私に任せて、行ってください」
涼 介「ラジャー!」
と、店を出て、ン?
涼 介「なにを任せるんだ??」
聖也、食欲旺盛に食べている。
□ ホームズ・エージェンシー・社内
テーブルの上に食料でパンパンの買い物袋が置かれる。
京 子「(ビックリして)房枝さん……」
房 枝「私のために働いてくれてるんだからね、美味しいものを作ってあげようと思って」
京 子「(恐縮して)そんな、気を遣って……いただけて嬉しいです(と、笑顔になる)」
房 枝「じゃ、野菜を洗っていただけるかしら」
京 子「はい」
     ×     ×
京子と房枝、鍋の用意をしている。
聖也と美雪を抱いた金田一少年が帰ってくる。
聖 也「ただいま」
金田一少年「ただいま」
京 子「お帰りなさい」
房 枝「幸平、見つかった?」
聖 也「まだです。でも、涼介くんが精力的に頑張ってくれています」
京 子「……大丈夫かなあ」
房 枝「この子は?」
京 子「一くん。お父さんが仕事で留守がちなのでよく一緒に食事をするんです」
房 枝「お母さんはいないのね」
金田一少年「金田一です」
房 枝「(微笑で)山田房枝です」
聖 也「ほお、鍋ですか」
房 枝「手を洗ったらお願いします」
と、聖也と金田一少年に大根を一本ずつ渡す。
聖也、金田一少年、?
     ×     ×
カウンターの上で丸くなっている美雪。
聖也と金田一少年、大量に大根をすり下ろしている。
京子と房枝は鍋の仕込み具合を確認している。
金田一少年「(聖也に)疲れた」
聖 也「美味しく鍋をいただくためです。頑張りましょう」
と、擦る。
金田一少年も作業を再開。
そこへ、涼介が帰ってくる。
涼 介「うー、寒」
房 枝「お帰りなさい」
京 子「丁度よかった。お腹空いてるでしょ?」
涼 介「うん。房枝さん、幸平さん、誰を殺すって言ってたんですか?」
房 枝「(首を振り)最後に電話で話した時に、『あいつだけは許せない』って……」
聖 也「……あいつ?」
涼 介「幸平さん、かなり借金があったみたいだけど、誰かの連帯保証人になったとか、騙されたとか、そういうんじゃないんですよ。恨む相手がいないんですよ」
房 枝「相手を探すより幸平を探してちょうだい」
涼 介「いや、相手が判ったほうが見つかる確率が……」
房 枝「とにかく早く!」
涼 介「(神妙に)はい」
房 枝「……ごめんなさい。つい昂奮してしまって……食べましょうか」
聖 也「(ニコニコ)食べましょう、食べましょう」
涼介、ニコッと食卓に付こうとすると――
京 子「手を洗ってきて下さいッ」
     ×     ×
大きな鍋を囲む、聖也、涼介、京子、金田一少年、房枝。
蓋をした鍋がグツグツと煮えている。
聖 也「(涎を垂らしそう)まだですか!」
房 枝「よく煮ると大根の辛味が抜けて甘味が増すんです。そろそろかな」
と、蓋を取る。
涼介たち、歓声を上げる。
大根おろしたっぷりの雪見鍋。
金田一少年「雪みたい」
房 枝「雪見鍋っていうの」
みんな、手を合わせて――
「いただきます!」
房 枝「まあ、みんなお行儀がいいのね」
みんな、食べ始める。
聖 也「美味しいッ!」
京 子「(ニコニコ)やっぱり鍋は大勢でつつくのが美味しい。私最近流行りの一人鍋ばっかりだから」
涼 介「言ってくれれば付き合うのに」
京 子「(無視)」
房 枝「私も久しぶり」
聖 也「息子さん夫婦と一緒にお住まいですよね?」
房 枝「(ため息まじりで)家族で鍋を囲んだの、いつだろ」
聖也たち「……」
房枝、金田一少年の箸遣いを見て――
房 枝「お箸はね、こう(と実演しながら)下のお箸を薬指と親指の根本で固定して、もう一本を親指と人差し指と中指で押さえて、人差し指と中指を動かすの。(箸を動かして)ほら、こうすると挟みやすいでしょ?」
と、おかずを摘んでみせる。
金田一少年、やってみるが、うまく出来ない。
涼 介「こうだよ」
と、やってみせる。
金田一少年、ぎこちない。
房 枝「お箸は持ち方だけじゃなくて使い方も気をつけないと。(やってみせながら)迷い箸……移り箸……拝み箸……刺し箸……みっともないでしょ?(説教臭くなく言う)」
みんな、興味を引かれて聞いている。
京子、取り皿の中に、大根の根の先端を見つけ、避けようとする。
房 枝「あら、そこ残しちゃもったいないわよ」
京 子「え?」
房 枝「大根は土の中で大きくなるでしょ? このさきっちょで重たい土をかき分けていくの。エネルギーが一杯詰まったところなの。食べればその元気をもらえるわ」
京 子「……」
房 枝「大根の葉っぱだって太陽の光をエネルギーに換える役割があるでしょ? だから無駄にしちゃいけないの。食べるってことは、その命をいただくってことだから」
聖 也「(深く頷く)その通りですね。いただきます」
と、改めて手を合わせる。
京 子「いただきます」
と、大根の根の先端を食べる。
     ×     ×
京子、目を輝かせて――
京 子「駆け落ちしたことあるんですか!?」
房 枝「(頷き)それも、初めて好きになった人と……」
京 子「(興味津々)ドラマチックぅ。どこに行ったんですか? 海外?」
房 枝「国内を転々。冬の海を二人で見ているとね、悲しくなって、心中することにしたの」
金田一少年「(涼介に)心中?」
涼 介「辞書引け」
房 枝「死ぬならちゃんとしなきゃ……宿に戻って遺書を書いた。食事の時間になった。……宿が用意してくれたのが、雪見鍋だったの」
京子、!
房 枝「二人とも黙って食べた。美味しくて、自然に頬が緩んできて……食べ終わる頃には、二人とも心中のことなんか忘れてた」
京 子「……」
房 枝「(微笑で)大根の根が生きるエネルギーをくれたのね、きっと」
金田一少年「(食べようとして)あ、僕のにも入ってた」
涼 介「くれ」
金田一少年「ヤダ」
と、大根の根の先をパクリ。
笑いが起きる。
房 枝「(遠い目で)……もう40年前の事」
京 子「(そんな房枝を見て)……」
チェロが奏でるメロディ。
――例えば、“小さな恋のメロディ”。
□ (例えば)山下公園(深夜)
聖也、チェロを気持ちよさそうに弾いている。
そのすぐ近くに焼芋屋の車。開店休業状態である。
聖也、弾き終わる。
焼芋屋のオヤジ、拍手する。
聖 也「ありがとうございます」
焼芋屋のオヤジ「さて、そろそろ店じまいするか。余りもんだけど、持ってく?」
と、焼芋を見せる。
聖也、ニマーッと笑顔になる。
□ 同・近くの道
聖也が焼芋の袋を手にやってくる。
通りを横切るが、? 戻ってきて、見る。
ある豪邸の前に人影。
目を凝らすと――房枝だ。
聖也、怪訝。
房枝、豪邸を見上げている。
聖也、声をかけようとして、躊躇う。
房枝、今までに見せたことのない鋭い視線を豪邸に注いでいる。
聖 也「……」
――C・M――
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(2)へ続く

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