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●喰いタン 第6回 (1)

□ 横浜の街(夜)
聖也たちの声「いただきまーす」
□ あるレストラン・店内
例によってテーブル一杯に並んだ料理の数々。
聖也、涼介、京子、金田一少年が食べている。
聖 也「(満足そうに)美味しい!」
涼 介「うん、美味しい美味しい。最近ずっと京子ちゃんの手作りだったから余計……」
京子、ジロッ。
涼 介「あ、いや、京子ちゃん毎日ご苦労さまだからたまには美味しいものを……」
京 子「どーせ美味しくないですよ」
涼 介「そ、そうじゃなくて、家事から解放されるために……」
京 子「私がご飯を作ってるのは、お金がないからです」
聖 也「稼いで下さいよ、涼介くん。(店員に)すみません、オムライス三つ追加で」
京 子「(ムカッ)高野さんもです! 働かざるもの食うべからず! ご存じですか? ことわざ」
聖 也「腹が減っては戦が出来ぬということわざもあります」
京 子「お腹が一杯になっても戦う戦がないんです」
金田一少年「今日は僕が奢ります。日頃お世話になってるし」
涼 介「(思わず)ご馳走さまです」
聖 也「一くんが自分で稼ぐようになったらご馳走して下さい」
京 子「(涼介に)小学生にたかるなんてサイテー」
涼 介「いや、誤解だよ、京子ちゃん……」
隣のテーブルで食事をしている初老の紳士が声をかけてくる。
初老の紳士「お食事中に大変失礼なのですが……あなたが、“喰いタン”ですか?」
京 子「!? ご存じなんですか?」
初老の紳士「やはりそうですか。先程から拝見していたのですが、見事な健啖ぶり」
涼 介「何、ケンタンって」
金田一少年「たくさん食べること」
聖 也「ありがとうございます。もしかして、何かお困りですか?」
初老の紳士「……ええ」
京 子「あの、この喰いタン、高野聖也は、“まかせて安心・各種調査からトラブル解決いたします”、ホームズ・エージェンシー所属の探偵です」
と、名刺を差し出す。
□ ホームズ・エージェンシー・表(翌日)
聖也、涼介、京子、金田一少年、表に立っている。
京 子「嬉しい! 私もご一緒に、だって」
涼 介「なんで金田一も?」
金田一少年「僕もホームズ・エージェンシーの一員です」
聖 也「(ワクワク)何をご馳走してくれるんでしょう」
涼 介「ていうか、誰なの、あの太っ腹なオジさん」
京 子「(名刺を見て)野々村重蔵さん。野々村フードチェーン会長、だって」
金田一少年「昨日のレストランも系列ですね」
涼 介「へえ」
そこへ、車体がとんでもなく長いリムジンがやってくる。
みんな、ビックリ。
リムジン、4人の前に停車。執事が降りてきて――
執 事「ホームズ・エージェンシーのみなさま、お迎えにあがりました」
□ 走るリムジン・車内
豪華な内装設備。
涼 介「(圧倒されていて)……どういう金持ちよ」
京 子「……」
聖也と金田一少年は、備えつけのミニバーのつまみを食べている。
リムジンは高級住宅街の坂を上がってゆく。
□ 豪邸・邸内
豪華な門扉が開き、入ってゆくリムジン。
しばらく走り、玄関の車寄せに到着する。
待機していたメイドたちが聖也たちを迎える。
メイドたち「いらっしゃいませ、お客様」
涼 介「(ワクワク)本物のメイドだあ」
□ 同・廊下
聖也たち、歩いてゆく。
涼 介「(期待に胸を膨らませ)久々の豪華料理だね」
京 子「(もワクワク)フォアグラ、トリュフ、キャビア……フカヒレもいいなあ」
廊下の向こうから、服装はちゃんとしているが眼光鋭い男(須藤守)がやってくる。
聖也たち、軽く会釈するが、ブ然とした表情の須藤は無視してすれ違う。
が、立ち止まり、フト、振り返る。
□ 同・ダイニング
弦楽四重奏団が演奏している。
豪華な内装。巨大なテーブル。
聖也たち、それぞれの席につく。
が、セッティングされているのは、1枚の皿とナイフ・フォーク一セットだけである。
みんな、?
そこへ、初老の紳士(野々村重蔵)が現れる。
野々村「ようこそいらっしゃいました」
聖 也「お招きいただき、ありがとうございます」
野々村「では、早速……」
給仕に合図する。
調理場から、給仕たちが銀のクロッシュ(ドーム型の蓋)をした皿を運んでくる。
それぞれの前に置かれる皿。
みんな、ワクワク。
聖也、シャキーン! と、マイ箸を取り出す。
涼介、京子、金田一少年、ナイフフォークを構えて待ち構える。
野々村「お召し上がり下さい」
給仕たち、一斉にクロッシュを開ける。
いざ食べようとした聖也たち、あれ? となる。
皿の上には、シンプルな小判型のコロッケ一個。
涼 介「……これって、コロッケ?」
野々村「そうです」
京 子「もしかして、フォアグラ入り?」
金田一少年「フカヒレ入りかも」
野々村「いえ、中身はじゃがいもと挽肉です」
京 子「挽肉が年代ものとか」
涼 介「なんだよ、それ。ワインじゃないんだから」
京 子「あのう、なにが特別なんですか?」
野々村「まあ、お召し上がりください」
みんな、食べる。
聖 也「(ニコニコ)美味しい!」
涼 介「普通の……コロッケだよね?」
野々村「私の専属シェフに作らせた中では一番の出来です」
聖 也「すみません、お代わりいただけますか?」
と、空になった皿を給仕に差し出す。
野々村「(給仕に)全部持ってきなさい。実は、これによく似たコロッケを探し出してほしい。それが私の依頼です」
涼 介「コロッケ探し!?(京子に)探偵の仕事じゃないでしょ。断わろ」
聖 也「(興味津々で)涼介くん、話は最後まで聞きましょう」
給仕が大皿に山盛りのコロッケを運んで来る。
聖 也「改めて、いただきます」
と、手を合わせて食欲旺盛に食べ始める。
執 事「(やってきて)あのう、須藤様がもう一度会っていただきたいそうですが……」
野々村「(ムッと)今大事な話をしてるんだ。帰ってもらえ」
執 事「かしこまりました(と、下がる)」
みんな「……」
野々村「中断して申し訳ありません。実は、20年前に食べたコロッケが忘れられないのです。もう一度食べたくて随分探し歩きました。でも見つからない。うちの優秀なシェフたちに再現させたのですが、どうにもダメで……」
聖 也「今どきの荒いパン粉のついたコロッケではなく、細かいパン粉で、外側が固めに揚げてある」
野々村「(頷き)中のじゃがいもは柔らかめ。合い挽き肉が絶妙のバランスで入っている」
京 子「味付けはごく普通」
聖 也「刻んだパセリがほんの少し入ってますよね?」
野々村「さすが喰いタン!」
涼 介「え? 入ってた?」
と、コロッケの断面を見る。
金田一少年「(首を傾げて)どこかで食べたような気が……」
聖也、?
野々村「このコロッケには判りやすく入っています。私が探し求めているコロッケは、パセリが入っているとは気づかせないのです。それが独特の旨味になっている。1個でやめておこうと思っても、2個3個と手が伸びてしまう。そんなコロッケなんです」
聖 也「(涎を垂らさんばかりに)た、食べたい!」
野々村「私は世界中旅をし、グルメを究めたつもりです。その私が死ぬ前に、最後の晩餐で食べたいのは、そのコロッケなんです」
聖 也「ますます食べたい! 探しましょう! 全力で!」
□ タイトル
□ 高層ビルが立ち並ぶ場所
聖也と涼介がやってくる。
聖 也「どこですか?  狸橋商店街は」
涼 介「ここ」
聖 也「何もないじゃないですか」
涼 介「野々村さんの説明聞いてました? 野々村さんが狸橋商店街の亀屋ってコロッケ屋に通っていたのは、20年前。再開発でこうなっちゃったんです」
聖 也「商店街のみなさんはどこに行ったんですかね」
涼 介「どこか別の土地に移って商売してるか、転業、廃業、ってとこじゃないですか?」
聖也、鼻をクンクンさせ、歩き始める。
聖 也「コロッケの匂いがします」
□ 同・近くの商店街
涼介、聖也を追いかけてやってくる。
涼 介「へえ、すぐ近くに商店街があったんだ」
先行した聖也、肉屋の店先で紙に包んでもらったコロッケを食べている。
聖 也「美味しい! 涼介くんの分」
と、コロッケを差し出す。
涼 介「(受け取り)どうも」
聖 也「お金よろしく」
涼 介「え……(肉屋に)いくらですか?」
肉 屋「二つで160円」
涼 介「160円くらい出せよ(と、ブチブチ言いながら金を払う)」
聖 也「(肉屋に)じゃあ、狸橋商店街のみなさんとは、今は全く交流ないんですか」
肉屋「10年一昔、20年二昔だからね、みんなどこに行ったのか……」
聖 也「判りました。コロッケあと3つ下さい」
涼 介「違うんだから食べなくたっていいでしょ」
聖 也「ここはここで美味しいです」
聖也、コロッケを受け取ると、一つを頬張りつつ歩き出す。
涼介、240円を払って聖也を追いかける。
聖 也「(口ずさむ)♪今日もコロッケ、明日もコロッケ……♪」
涼 介「?」
聖 也「大正時代に流行った歌ですよ」
涼 介「なんでそんなもん知ってるんですか?」
聖 也「(首を竦め)その頃からコロッケは一般的にも食べられるようになったんです」
涼 介「どうでもいいけど、食べながら歩くのってお行儀悪くないですか?」
聖 也「でも、これが楽しいんですよ。懐かしいなあ、学校帰りに友だちとコロッケを食べながら歩きました。涼介くんはそんなことしませんでしたか?」
涼 介「俺たちが学校の帰りに寄るのはハンバーガー屋。ポテトつまみながら語り合ってたけど」
聖也、肉屋を見つけ――
聖 也「あったあった。(と駈け寄り)すみません、コロッケ3個下さい。(涼介に)1個は涼介くんのですからね」
涼 介「俺、別の商店街行ってコロッケ買ってきます。一緒に行動するより効率的でしょ?」
聖也、フト、振り返る。
涼 介「どうしたんですか?」
聖 也「……誰かが僕のコロッケを狙っている」
と、辺りを見回す。
涼 介「誰も狙いませんって。じゃ……」
と、去ってゆく。
聖也、まだ辺りを気にしている。
     ×     ×
――少し離れた物陰。
聖也の視線を避けて身を隠した人物がいる。
その足許。
□ ホームズ・エージェンシー・社内
京子、パソコンに向かい、ネットの掲示板に書き込んでいる。
“狸橋商店街にあった亀屋というコロッケ屋さんの情報求む!”
電話が鳴る。
京 子「(出て)はい、ホームズ・エージェンシーです」
電話の声「(ありがちな電気処理した声)……手を引け」
京 子「はい?」
電話の声「コロッケ探しをやめるんだ」
京 子「あのう、どうしてコロッケを探しちゃいけないんですか?」
電話の声「やめないと後悔することになるぞ」
京 子「後悔? あの、仰言ってることが判りません。失礼します」
と、切ってしまう。
京子、気にせず、ネットの書き込み作業に戻る。
□ また別の商店街
涼介、肉屋を見つけ、入っていく。
涼 介「すいませーん」
と、先客がいた。五十嵐刑事である。
     ×     ×
二人、歩きながら――
五十嵐刑事「(食べながら)聞き込み張り込みの時の定番なんだよ」
涼 介「! じゃ、詳しいですよね? 横浜のコロッケ」
五十嵐刑事「まあね」
涼 介「狸橋商店街ってありましたよね?」
五十嵐刑事「狸橋……懐かしい名前だな」
涼 介「そこの亀屋ってコロッケ屋さん、知ってます?」
五十嵐刑事「ああ、あそこは旨かったなあ」
涼 介「商店街がなくなってどうなったか知りませんか?」
五十嵐刑事「いや……(と、考える)」
涼 介「(その様子に)どうしたんですか?」
五十嵐刑事「ン……」
     ×     ×
少し離れた場所から2人を窺っている男の足。
□ ホームズ・エージェンシー・社内
涼介、京子、金田一少年が買ってきたコロッケを皿に並べながら――
京 子「ふうん、コロッケ、五十嵐さんにも思い出の味なんだ」
涼 介「京子ちゃんも買い食いした?」
金田一少年「僕はベーカリーのイート・インで……」
涼 介「お前に聞いてない」
京 子「クレープ! 御徒町に美味しい店があったの! あそこのクレープもう一回食べてみたい」
涼 介「なんで御徒町? 原宿じゃないの?」
聖也が帰ってくる。
聖 也「ただいま」
京 子「お帰りなさい。見つかました?」
聖 也「(ため息で)20年……時間の壁は厚いですね」
テーブルの上には、小皿に乗ったコロッケが沢山並んでいる。
聖 也「(笑顔)おお、買い集めてくれたんですね」
京 子「一くんも頑張ってくれました」
涼 介「俺も頑張ったよ」
金田一少年「コロッケってどれも同じかと思ってたけど、並べて見るとかなり違う」
聖 也「そうですね。一くんも食べて下さい」
金田一少年「僕はいいです」
聖 也「頼りにしてるんです。パセリ入りが判ったのは一くんだけですからね」
涼介・京子「すいません、判らなくて」
金田一少年「栄養が偏りそうで……」
聖 也「京子ちゃん、野菜ありますか?」
京 子「はい。さっき必死にカットしましたよ」
と、大皿に山盛りのキャベツの千切りを持ってくる。
聖 也「いいですねぇ、コロッケやトンカツにはキャベツが相性ぴったり。いただきます」
と、食べ始める。
金田一少年も食べる。
玄関のチャイムが鳴り、「お待たせしました!」と入ってきたのは、蕎麦屋の出前。
蕎麦屋の出前「力うどん10個ですね。8000円になります」
京 子「頼んでませんけど」
再びチャイムが鳴り、「□□ピザでーす!」と、ピザの配達員が入ってくる。
京 子「ピザも頼んでませ!ん」
蕎麦屋の出前・ピザの配達員「えーッ、高野聖也さんって方から注文受けたんですけど」
京子たち、聖也を見る。
聖 也「頼んでませんよ。でも、ピザコロッケ力うどん……食べると美味しいかも」
     ×     ×
京子、ため息で――
京 子「……また無駄なお金が出ちゃった」
涼 介「やっぱり自分で頼んだんだよ。見てよ、あの食べっぷり」
聖也、うどん、ピザをおかずに(?)コロッケを食べている。
京 子「……昼間、脅迫電話みたいなのがあったの」
涼 介「脅迫?」
京 子「コロッケ探しから手を引け、って」
涼 介「じゃ、嫌がらせで出前を……」
京 子「全然嫌がらせになってないみたいだけど」
聖 也「(ニコニコ)そうですね」
涼 介「(考え)そいつ、なんでコロッケ探して欲しくないわけ?」
京 子「判ンない」
聖 也「きっと独り占めしたいんですよ。どれだけ美味しいんでしょ、幻のコロッケ(と、ワクワク)」
京 子「……なんかイヤなことが起こりそう」
□ 横浜みなと署・刑事課フロア
五十嵐刑事、ある事件の捜査記録を読んでいる。
五十嵐刑事「(真顔で)……」
桃がやってくる。
桃  「五十嵐、何をやってるんだ」
五十嵐刑事「ちょっと昔のことを思い出しまして……」
桃  「(資料の日付を見て)20年前の事件じゃないか。行くぞ」
五十嵐刑事「はい」
桃と五十嵐刑事、出て行く。
五十嵐刑事のデスクの上に置かれた捜査資料。
□ また別の商店街
聖也、ホクホク揚げたてのコロッケに齧りつき――
聖 也「美味しい!」
涼 介「(呆れ顔で)今日も元気ですねえ」
聖 也「はい(と、食べる)次に行く商店街調べて下さい」
涼 介「了解!」
涼介、少し離れたところに停めたバイクのところへやってくる。
地図帳を取り出かけ、あれ? となる。
しゃがんで、顔を歪めて悲鳴を上げる。
聖也、何事かとやってくる。
聖 也「どうしました?」
見ると、両方のタイヤが鋭利な刃物で切り裂かれている。
涼 介「(怒り心頭で)ふざけんなよ! ローンいくら残ってると思ってンだよ!」
聖 也「いくらなんですか?」
涼 介「そうじゃなくて! 誰がやったんだよ!」
と、辺りを見回す。
聖 也「……これもコロッケ絡みの嫌がらせなんでしょうか?」
涼介、泣いている。
――C・M――
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(2)へ続く

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