| □ ホームズ・エージェンシー・全景 |
| チェロの音色が流れている。 |
| “おなかのへるうた” |
| □ 同・社内 |
| 涼介、台所でゴソゴソやっている。 |
| 聖也、演奏を中断し、二階から降りてくる。 |
| 聖 也 | 「涼介くん、お腹空きましたね」 |
| 涼 介 | 「冷蔵庫も冷凍庫も空っぽ。たしか炒飯が残ってたはずなんだけど……」 |
| 聖 也 | 「あ、それは昨日いただきました」 |
| 涼 介 | 「じゃ、もうないじゃん、作り置き」 |
| 聖 也 | 「涼介くん……」 |
| 涼 介 | 「俺じゃなくて高野さんでしょ!? 京子ちゃん、一ヶ月は持つって量作ってくれてたんだよ。それを一週間で食べちゃうなんて……」 |
| 聖 也 | 「だって美味しかったんだもん」 |
| 涼 介 | 「どーすんのよ、今日から」 |
| 聖 也 | 「外に食べに行きましょう!」 |
| 涼 介 | 「お金がありません」 |
| 聖 也 | 「あ、京子ちゃんの台詞言ってる」 |
| 涼 介 | 「(ため息で)言いたかないよ」 |
| ドアが開閉する音。 |
| 聖也、涼介、! |
| 涼 介 | 「京子ちゃん、帰って来た!?」 |
| が――入ってきたのは、山内署長と段ボール箱を持った桃。 |
| 山内署長 | 「やあ、喰いタン。元気かい?」 |
| 聖 也 | 「はい。多分あと数時間は」 |
| 涼 介 | 「食べ物がないんです」 |
| 山内署長、ニッと段ボール箱を開ける。 |
| 中には野菜がたくさん入っている。 |
| 聖也、涼介、! |
| 聖也・涼介 | 「! 差し入れ、ありがとうございます!」 |
| 桃 | 「(山内署長に)私、行きます」 |
| 山内署長 | 「桃ちゃん、警察手帳貸して」 |
| 桃 | 「え……」 |
| 戸惑うが、渡す。 |
| 山内署長 | 「最近手品を覚えてね……」 |
| 山内署長、♪オリーブの首飾り♪を口ずさみながら、桃の警察手帳を両手に挟んでこする。 |
| すると、警察手帳が消えてしまう。 |
| 聖 也 | 「(驚いて)凄いですね、署長!」 |
| 涼介、桃も驚いている。 |
| 山内署長 | 「喰いタン、差し入れの代わりにやってもらいたいことがある」 |
| 聖 也 | 「はい、なんでもやります!」 |
| 山内署長 | 「桃ちゃんをしばらく預かってくれ」 |
| 聖也、涼介、! |
| 桃 | 「署長!」 |
| 山内署長 | 「もう何年も有休取ってないだろ?」 |
| 桃 | 「いりません、そんなもの」 |
| 山内署長 | 「ちょくちょく点滴を打ちに行ってることは知ってるよ」 |
| 桃 | 「――。だから大丈夫です」 |
| 山内署長 | 「疲れると判断力が鈍る。捜査にミスは許されない。京子ちゃんの料理を食べて元気になって復帰してほしい」 |
| 涼 介 | 「あのう……」 |
| 桃 | 「(涼介は無視で)しかし、捜査中の事件が……」 |
| 涼 介 | 「ちょっと……」 |
| 山内署長 | 「(涼介は無視)五十嵐刑事も他の捜査員も頑張ってるんだ。休みなさい」 |
| 桃 | 「嫌です!」 |
| 山内署長 | 「(厳しい表情で)これは命令だ」 |
| 桃 | 「――」 |
| 聖 也 | 「署長!」 |
| 山内署長 | 「なんですか?」 |
| 聖 也 | 「京子ちゃん、オーナーと一緒にフランスです」 |
| 山内署長 | 「え……聞いてなかった。ま、いい。取り敢えず桃ちゃんを頼む」 |
| 聖 也 | 「判りました」 |
| 桃、みんなに背中を向けている。 |
| 山内署長、出て行く。 |
| 聖 也 | 「桃ちゃん……」 |
| 桃 | 「(背中を向けたまま)緒方だ。桃と呼ぶな」 |
| 聖 也 | 「お腹空きませんか?」 |
| 桃 | 「(背中を向けたまま)空かない」 |
| 聖 也 | 「これ(差し入れ野菜)で何か作って下さい」 |
| 桃 | 「料理なんか時間の無駄だ」 |
| 聖 也 | 「だって、食べないと……」 |
| 桃 | 「時間の無駄だ」 |
| 聖 也 | 「無駄に出来る時間、出来たじゃないですか」 |
| 桃 | 「――」 |
| 聖 也 | 「せっかくだからお腹一杯食べてのんびりしましょう」 |
| 桃 | 「ウルサイ! 勝手に食え!」 |
| 聖 也 | 「言われなくても食べますけどね」 |
| と、差し入れの野菜を齧る。 |
| 聖 也 | 「美味しーい!」 |
| □ 横浜の街 |
| 桃、ズンズン歩いていく。 |
| 涼介、追ってくる。 |
| 涼 介 | 「桃ちゃん、いいの? 署長の命令無視して」 |
| 桃 | 「(キッと)桃と呼ぶな!」 |
| 涼 介 | 「え……もう桃ちゃんって定着してるじゃない」 |
| 桃 | 「ついてくるな!」 |
| 涼 介 | 「桃ちゃんが追っかけてる事件は俺たちが解決しますって」 |
| 桃 | 「お前らには無理だ」 |
| 言い捨てて歩いていく。 |
| □ 住宅街 |
| 涼介、桃を追いかけてやってくる。 |
| と――前から金田一少年がやってくる。 |
| 金田一少年 | 「あれ? 涼介くんに桃ちゃん」 |
| 涼 介 | 「涼介さん、だろ!?」 |
| 桃 | 「緒方警部、だろ!?」 |
| 涼 介 | 「金田一、こんなとこで何してるんだよ」 |
| 金田一少年 | 「うち、すぐそこですよ」 |
| 涼 介 | 「あ、そうだったな。黎ちゃんは? 振られたか?」 |
| 金田一少年 | 「風邪で休んでます。涼介くんは振られる相手もいませんもんね」 |
| 涼 介 | 「ウルサイな、さんだろ、さん」 |
| そこへ、聖也が追いかけてくる。 |
| 聖 也 | 「一くん、涼介くんたちヒドイんですよ。私を置いて二人だけで食べに行こうと……」 |
| 涼 介 | 「(遮って)してません、って」 |
| 聖 也 | 「あれ? 桃ちゃんは?」 |
| 桃、さっさと行ってしまっている。 |
| 聖也たち、桃が行った方向へ―― |
| 角を曲がり、ドキリとなる。 |
| そこには、ほぼ全焼した一軒家がある。 |
| 桃、厳しい表情で焼け跡を見ている。 |
| 涼 介 | 「……連続放火事件追いかけてるんですか」 |
| 桃 | 「(怒りの表情で)……一家四人が犠牲になった。下の子はまだ三つだった」 |
| 涼 介 | 「……」 |
| 金田一少年 | 「ここ一ヶ月で十軒以上狙われてるんです。たいていは小火(ぼや)で終わってるんですけど……」 |
| 桃 | 「……犯人はまたやる。(強い決意で)その前に必ず捕まえる」 |
| 涼 介 | 「……」 |
| 金田一少年 | 「でも、どうしてまたここに来たんですか? もう何度も現場検証してるんでしょ?」 |
| 桃 | 「現場百回。捜査に行き詰まったら現場に戻れという教訓だ。何か見落としていることがあるはずだ」 |
| 聖 也 | 「桃ちゃん!」 |
| 見ると、聖也は焼け跡に踏み入って何かを見つけた様子。 |
| 桃、! |
| みんな、聖也のところへやってくる。 |
| 聖也が立っているのは台所だった場所。焼け焦げたコンロの上には、大鍋がかかったまま。 |
| 聖也、蓋を取るが、黒こげである。 |
| 聖 也 | 「……夕飯はカレーだったんですね」 |
| 桃 | 「……」 |
| 聖 也 | 「……食べられなかったカレー、悲しいです」 |
| 桃 | 「――」 |
| 聖 也 | 「カレーを燃やすなんて、許せません!」 |
| □ タイトル |