| □ ある地方都市・全景 |
| ――東京近郊の海沿いの街である。 |
| □ 桜咲く道 |
| 若く美しい田中七瀬(19)が、花びらの舞う中を自転車で走る。 |
| 七瀬の声 | 「その時私はまだ、本当の自分に目覚めていなかった」 |
| □ 七瀬は目覚める |
| テレパスとして目覚めてしまう七瀬―― |
| その戸惑い、葛藤、そして孤独な戦いなど、未来の断片が鮮やかにモンタージュされる。 |
| □ タイトル |
| □ ある老人ホーム・個室〜廊下 |
| 七 瀬 | 「(入ってきて、元気よく)篠塚さん、デイルーム行きましょう」 |
| ベッドの老人(篠塚)、答えない。 |
| が、七瀬は意に介さず、篠塚を抱き抱えて車椅子に移す。 |
| ――その様子、テレビカメラで撮影されている。 |
| 取材スタッフ | 「かなり重労働ですね」 |
| 七 瀬 | 「(笑顔で)体力には自信ありますから」 |
| 七瀬、篠塚の乗った車椅子を押していく。 |
| 取材スタッフ | 「介護の仕事をやってる人って、やっぱりお年寄りが好きだったりするんですかね」 |
| 七 瀬 | 「え……」 |
| 七瀬の心の声 | 「質問ワンパターン」 |
| 七 瀬 | 「楽しいですよ、昔のいろんなお話を聞けて」 |
| 取材スタッフ | 「昔からおばあちゃんやおじいちゃんの世話をしたり?」 |
| 七 瀬 | 「祖父も祖母もいません。小学生の時に父が亡くなって、母とずっと二人暮らしです」 |
| 七瀬の心の声 | 「そんなことまで聞かれてないか」 |
| 取材スタッフ | 「恋人は?」 |
| 七 瀬 | 「(笑って)ご想像にお任せします」 |
| 七瀬の心の声 | 「いません!」 |
| □ 同・デイルーム |
| 寛いでいる老人たち。篠塚はテレビの前にいる。 |
| 老女(渡辺)が後ろから七瀬の手を引っ張り―― |
| 渡 辺 | 「うちの孫の就職が決まったんだって」 |
| 七 瀬 | 「(笑顔で)おめでとうございます、渡辺さん」 |
| 渡 辺 | 「あなたのお蔭よ」 |
| と、七瀬の手を握る。 |
| 七瀬、あれ? と、渡辺の脛を見る。 |
| 七 瀬 | 「足、痛くないですか? ちょっといいですか?」 |
| と、渡辺のパジャマの裾をめくる。 |
| 脛に打ち身の跡がある。 |
| 渡 辺 | 「昨日転んだの」 |
| 七 瀬 | 「ダメですよ、ちゃんと治療しなきゃ……」 |
| と、渡辺に肩を貸す。 |
| 渡 辺 | 「年寄り扱いしないでよ、七瀬ちゃん」 |
| 七 瀬 | 「歳は関係ありませんッ」 |
| と、連れて行く。 |
| 取材スタッフ、その様子を撮影している。 |
| × × |
| 老人の入浴を手伝う七瀬。 |
| × × |
| 働く七瀬のすぐ近くで院長が取材スタッフのインタビューを受けている。 |
| 院 長 | 「田中さんは、若いのによく気がつくんですよ。お年寄りの気持ちが判るっていうか……(と、続く)」 |
| 七瀬、聞こえてないふり。 |
| 七瀬の心の声 | 「あー、くすぐったい」 |
| 別の老人が | 「七瀬ちゃん」と呼ぶ。 |
| 七 瀬 | 「はーい」 |
| と、呼んだ老人のところへ。 |
| 篠塚、じっとテレビを見ている。 |
| □ テレビ画面 |
| パトカーが数台停車し、制服警官が野次馬を整理している。 |
| レポーターがカメラに向かって―― |
| レポーター | 「(続いていて)また通り魔です。狙われたのは、前回同様帰宅途中のOLでした。犯人は鋭利な刃物で背後から切りつけ……(と、続く)」 |
| □ 東京・品川近辺 |
| ――現場検証中の事件現場。 |
| 周囲は野次馬だらけである。 |
| 高村刑事と江藤刑事が第一発見者に話を聞いている。 |
| 制服警官 | 「(野次馬に)下がって下さい!」 |
| 高村刑事、気を削がれ、野次馬に目をやる。 |
| 第一発見者に目を戻しかけ、!? |
| 一人の青年の顔が歪んでいる。 |
| 歯を食いしばり、必死に涙を押さえようとしている。 |
| 高村刑事、怪訝。 |
| 江藤刑事 | 「(も気づき)遺族ですかね?」 |
| 高村刑事 | 「(ジロッ)被害者は死んでないだろ」 |
| 江藤刑事 | 「あ、そうでした」 |
| 高村刑事、青年に目を戻すが――いない。 |
| 高村刑事、! 慌てて周囲を見回すが、いない。 |
| 高村刑事 | 「……」 |
| × × |
| その青年・岩渕恒介、現場に背を向け、零れる涙を拭わず、歩いていく。 |
| 恒 介 | 「……」 |
| 不意に―― |
| □ フラッシュ(恒介の予感) |
| 走る電車。 |
| 赤い傘を手にした女性――七瀬。 |
| その手が取られる。 |
| 引っ張られ、電車を降りかける七瀬。 |
| □ 元の路上 |
| 恒 介 | 「――」 |
| □ 老人ホーム・ベランダ |
| 休憩中の七瀬が、携帯で電話している。 |
| 七瀬の声 | 「(相手が出て)もしもし、お母さん? 留守電聞いたけど、風邪、大丈夫?」 |
| □ 水産加工工場・廊下 |
| 七瀬の母・静子が電話をしている。 |
| 静 子 | 「(顔色悪く)早引けさせてもらうわ」 |
| □ 老人ホーム・ベランダ |
| 七 瀬 | 「そんなに悪いの!?」 |
| ――以下、カットバック(あるいは画面分割)で。 |
| 静 子 | 「みんなに迷惑かけちゃ悪いから」 |
| 七 瀬 | 「じゃ、その足で医者に行って」 |
| 静 子 | 「一晩寝れば治るよ」 |
| 七 瀬 | 「私に移されたら困るんですけど」 |
| 静 子 | 「……判った。夕飯は……」 |
| 七 瀬 | 「私が作るから。鶏大根ね」 |
| 静 子 | 「うん、食べたいと思ってた」 |
| 七 瀬 | 「(笑って)でしょ?」 |
| □ 地方都市・商店街(夕方) |
| 仕事帰りの七瀬が買い物をしている。 |
| 八百屋のおばちゃん | 「七瀬ちゃん、七瀬ちゃん」 |
| と、手招きする。 |
| 七 瀬 | 「こんにちは」 |
| 八百屋のおばちゃん | 「聞いたわよ、テレビに出るんだって?」 |
| 七 瀬 | 「どうして知ってるんですか!?」 |
| 八百屋のおばちゃん | 「どうする? スカウトされたら」 |
| 七 瀬 | 「(笑って)あり得ないあり得ない」 |
| 八百屋のおばちゃん | 「息子の嫁に、とか、孫の嫁に、なんて」 |
| 七 瀬 | 「そんな時代じゃありませんって。大根下さい!」 |
| 八百屋のおばちゃん | 「おばちゃんの足?」 |
| 七 瀬 | 「(笑って)鶏と一緒に煮込んじゃいますよ」 |
| 八百屋のおばちゃん | 「いい出汁出るわよ」 |
| と、大根を二本渡す。 |
| 七 瀬 | 「一本で大丈夫」 |
| と、一本受け取る。 |
| その時、不意に―― |
| ズキン! 衝撃が七瀬を襲う。 |
| 七瀬の体が硬直する。 |
| 七瀬の心の声 | 「……何」 |
| 八百屋のおばちゃん | 「(怪訝に)七瀬ちゃん?」 |
| 七瀬、顔を歪め、頭を抱え、その場に崩れ落ちる。 |
| 七 瀬 | 「……痛い……助けて……」 |
| 八百屋のおばちゃん | 「七瀬ちゃん!」 |
| 地面に倒れる七瀬、頭を押さえて衝撃に耐える。 |
| □ 同・大通り |
| 七瀬と同じ恰好で地面に倒れている――静子。 |
| その手に病院で処方された薬袋。 |
| 街路樹に衝突して大破した車が煙を上げている。 |