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●七瀬ふたたび 最終回 (2)

□ 藤子の祖母の家・全景
――日が暮れかかって。
□ 同・台所
七瀬たち、役割分担して食事の準備をしている。
七瀬、考えながら米を研いでいる。
朗とヘンリーは野菜を刻んでいる。
藤子はカレーのパッケージの作り方を見ている。
ヘンリー「藤子さん、カレーも作ったことないの!?」
藤 子「(突慳貪に)研究一筋!」
朗  「僕だって作れるのに」
藤 子「(ムッと)だったらもっとちゃんと剥いて。なに、これ」
と、皮が分厚く剥かれたじゃがいもを七瀬に見せる。
七瀬、微苦笑。
ヘンリー「なんか楽しいなあ。林間学校みたいで」
藤 子「(笑って)キャンプファイア、やる?」
お湯が沸き、薬罐がカタカタと暴れる。
朗、ガス台から薬罐を降ろそうとして――
朗  「熱ッ!」
みんな、!
七 瀬「大丈夫?」
朗  「平気平気、ちょっと触っただけだから……」
見ると、手首が赤くなっている。
ヘンリー「藤子さん、薬!」
藤 子「ない。それぐらいだったら唾を付ければ治るよ」
朗  「唾!?」
七瀬、朗の手を取り、患部を流水に晒してやる。
七 瀬「私も、火傷や怪我をした時には父が唾をつけてくれた」
藤 子「お腹壊した時は手を当ててくれたり」
七 瀬「ええ」
ヘンリー「それで治ったんですか?」
藤 子「(頷き)“手当て”。病気や怪我の治療をすることをそう言うでしょ?」
ヘンリー「あ、そうか」
七 瀬「……」
□ □□病院・全景
□ 同・病室
瑠璃がベッドの上に起き上がっている。
瑠 璃「(ため息で)……」
ナース「(入ってきて)お見舞いの方がいらっしゃいましたよ」
瑠璃、! 
入ってきたのは――増田店長。
増田店長「やあ、瑠璃ちゃん。その後どお?」
瑠 璃「……ええ」
増田店長、その様子に、怪訝。
瑠 璃「……」
□ フラッシュ(回想)
――病室で。
七 瀬「だから、瑠璃が刺されたのは私のせいなの。もう瑠璃が狙われることはないし、とばっちりを受けるようなことは……」
瑠 璃「……バケモノ」
七 瀬「――!!」
瑠 璃「……ずっと私の心を覗いてたんだ」
□ □□病院・病室
瑠璃と増田店長。
増田店長「(納得して)なるほど、そうだったのか」
瑠 璃「!? 店長、驚かないんですか!?」
増田店長「確かにいい気持ちはしない」
瑠 璃「というか、怖くて」
増田店長「判るよ。でも七瀬ちゃんも怖かったんじゃないかな」
瑠 璃「え?」
増田店長「相手の考えてること、知りたくなくても判ってしまう……私だったら耐えられない」
瑠 璃「……」
増田店長「七瀬ちゃん、瑠璃ちゃんの心を覗きたかったわけじゃないよね?」
瑠 璃「……」
□ 藤子の祖母の家・居間
七瀬たち、カレーを食べながら――
藤 子「(頷き)“手当て”についての研究も色々あってね、例えば物理的作用。掌から発散された湿気と熱が温湿布のような役目を果たしてるんじゃないか」
ヘンリー「なるほど」
藤 子「心理的な作用だっていう研究者もいる。信頼する相手が触れてくれることで、精神的に満たされて治癒力が高まるって説」
ヘンリー「あ、なんか納得できる」
藤 子「相手の治りたいと思う気持ちに働きかける、とも言えるわね」
七 瀬「……」
□ □□病院・病室
瑠璃と増田店長。
増田店長「七瀬ちゃん、ずっと祈ってたよ。瑠璃ちゃんが助かりますように、って」
瑠璃、ハッ! となる。
増田店長「ん?」
瑠 璃「……あの時、聞えた気がしました。七瀬の声」
増田店長「……」
瑠 璃「暗闇の中にいて、どっちに向かって歩いて行っても出口が見つからなくて……もう死ぬのかなって思った時、七瀬の声が聞えたんです」
増田店長「……」
瑠 璃「『死なないで、瑠璃』って……。それで私、声がする方に歩いて行ったら、光が見えてきて……」
増田店長、微笑で頷く。
瑠 璃「……」
瑠璃の心の声「七瀬……」
□ 藤子の祖母の家・外(深夜)
七瀬が一人、佇んでいる。
人工的な明かりはまったくない。星明りで仄かに山の稜線が見えている。
七 瀬「……」
七瀬、空を見上げる。
今にも降り出しそうな、満天の星。
七瀬、魅入られる。
七 瀬「……」
そこへ、藤子がやってくる。
藤子、七瀬に並んで星空を見上げる。
七 瀬「……」
藤 子「……」
七 瀬「……実感できました。未知能力が、もともと人間に備わっていた能力なのかもって……」
藤 子「(頷き)でも、まだ本当のことは判らない」
七 瀬「……ええ」
藤 子「全部を知りたいと思うのは、エゴかもしれない。私たち、人間の」
七 瀬「エゴ?」
藤 子「宇宙を見るといつも思うの。私たちは、私たちがいるこの世界について、一体どれだけのことが判るんだろうか……」
七 瀬「……」
藤 子「今見えている星や星雲の質量は、宇宙全体の一割にも満たない。残りは光を出さないダークマターといわれる物質やエネルギー。その正体はまだ解明されてない」
七 瀬「……」
藤 子「人間の心も同じ。きっと全部を解明することはできないかもしれない」
七 瀬「……」
藤 子「でも、心は確かにあって、それを感じることができる」
七 瀬「……」
藤 子「恒介さんと心で話ができたこと、不思議でもなんでもない」
七 瀬「え?」
藤 子「繋がってるのよ、七瀬さんの心と恒介さんの心が……」
七 瀬「――」
藤 子「……」
七 瀬「……」
七瀬の心の声「恒介さん……」
□ 水族館・巨大水槽前
恒介がいる。
恒 介「……」
恒介の心の声「七瀬……」
□ 藤子の祖母の家・外
七瀬と藤子、星空を見上げている。
藤 子「……」
七 瀬「……」
□ 同・表(翌朝)
藤子が車に乗り込む。
七瀬、朗、ヘンリーが見送っている。
七 瀬「気をつけて」
藤 子「(頷き)ここはまだ安全だと思うけど、用心して」
七瀬、頷く。
ヘンリー「七瀬ちゃんは僕が守ります」
藤 子「目立つようなことしないでね」
朗  「ヘンリーは僕が監視します」
ヘンリー「朗!」
藤子、微笑し、車を発車させる。
七 瀬「(見送って)……」
□ 東京・雑踏
西尾が歩いている。
狼のような目で前方を見据えている。
西 尾「……」
携帯電話が鳴る。
西 尾「(出て)西尾です。……恒介ですか?(フッと笑い)もう尾行してますよ。どこに行きたいのか、まるで判らない。都心を歩き回ってます」
西尾の視線の先に、恒介の姿。
恒介、歩いて行く。
西尾、恒介を尾行していく。
□ 藤子の祖母の家・表
朗とヘンリー、薪割り(例えば)をしている。
まるで兄弟のように楽しそうに。
七瀬、縁側に腰掛け、その様子を眺めている。
七 瀬「(考えていて)……」
七瀬、立ち上がる。
朗とヘンリーが七瀬を見る。
七瀬、歩き出す。
朗  「七瀬お姉ちゃん」
七 瀬「(微笑して)ちょっと散歩してくる」
ヘンリー「一緒に行くよ」
七 瀬「大丈夫、遠くに行かないから」
と、歩いていく。
ヘンリー、心配そうに見送る。
朗  「ヘンリー、僕にやらせて」
などと薪割り(例えば)に戻る。
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