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●サイコドクター 第3回 (2)

□ 楷メンタルクリニック・待合室
あずさが電話を掛けている。
が――繋がらず、切ってため息。
ドアが開き、好未が入ってくる。
好 未「こんにちは」
あずさ「あ、川村さん! ずっと電話してたんてすよ」
好 未「私に?」
あずさ「そうです。留守電、お聞きになってません?」
好 未「(首を振り)携帯、電池外してあるの」
あずさ「え?」
好 未「なんか、田舎の母が死んだとか、友だちの会社が倒産したとか、悪い知らせが入ってきそうで........」
あずさ「不安になっちゃうんですか?」
好 未「そうなの........楷先生は?」
あずさ「あ、電話したのは先生のことだったんです。急に出かけちゃったんですよ」
好 未「(不安そうに)そんな........もう来ちゃったのに」
と、診察室に入ってゆく。
    ×      ×
好未、ソファに腰を下ろし、ホッと息をつく。
好 未「はぁ、ここ落ち着く」
あずさ「(顔を出し)ハーブ茶飲みます?」
好 未「ありがと」
□ □□学園高校・全景
□ 同・廊下
女子高生たち数人が集まって話をしている。
その中に、いづみもいる。
女子高生1「ねえねえ、知ってる? 殺された三年生の山崎さん、ウリやってたんだって」
いづみ「(明るく)ウソ、マジ!?」
女子高生2「全然見えないよね」
そこへ、男の子二人がやってくる。
いづみ、そのうちの一人を見て、ドキッとなる。
男の子1「いづみ、ちょっと」
いづみ「(わざと突慳貪に)何よ」
と、女の子たちから離れる。。
男の子1「いづみさあ、最近綺麗にならない?」
いづみ「(満更ではなく)どうしたの、気持ち悪い」
男の子1「頭もいいし、最高だよな」
いづみ「ふうん。で?」
男の子たち「(手を合わせて)お願い、物理のノート、写させて!」
いづみ「ったく!」
と言いながらも、ニコニコしている。
□ 郊外・寺の門前(あるいは葬儀場)
読経が流れている。
――景子の通夜が執り行われている。
楷が会場から出てくる。
その楷の前に八尾警部補が現れる。
楷、!? しかし予想していた。頭を下げる。
八尾警部補「お通夜にいらっしゃるとは、思いませんでしたよ」
  楷「........謝罪に来たんです」
八尾警部補「........事件当日、あなたは□□ホテルのカフェテリアで山崎景子さんと会ってますね?」
  楷「........(頷く)」
八尾警部補「(見据えて)あなたが、殺したんですか?」
  楷「........殺したも同然です」
八尾警部補「!」
□ 停車中の覆面パトカー・車内
後部座席に、八尾警部補と楷。
犀川は運転席で背中を向けている。
  楷「........彼女は過食症だったんです」
八尾警部補「過食症?」
  楷「拒食症はご存知ですね?」
八尾警部補「カーペンターズの姉だか妹だかがかかった病気ですね? ガリガリに痩せて痛々しかった」
  楷「(頷き)過食症は逆に食べるんです。食べるのが止まらなくなってしまう」
八尾警部補「山崎景子は太ってませんよ」
  楷「吐くんですよ。大量に食べて、その後全部を........だから見た目は普通の女の子と変わらない」
八尾警部補「――!」
□ フラッシュ
――山崎家・景子の部屋。
ベッドの下に押し込まれたコンビニの袋。
□ 元の車の中
八尾警部補「........」
  楷「親には言えない。誰にも話せない。食べ物を買うお金に困る。自分の小遣いではとても足りない。だから万引きをしたり........それがエスカレートして........」
八尾警部補「(驚き)彼女が売春をしたのは、食費のためだって言うんですか!?」
  楷「(頷き)間違いないでしょう」
八尾警部補「........」
  楷「彼女とは、三ヶ月ほど前にコンビニで知り合いました。過食症と判ったので、うちのクリニックに来るように名刺を渡したんです」
八尾警部補「ちょっと待った。さっき見た目じゃ過食症は判らないと........」
  楷「(頷き)無理矢理吐くんです、指を突っ込んでね。だからここ(右手指の関節)に“吐きダコ”が出来るんです」
八尾警部補「........」
  楷「彼女は一度クリニックに来ましたが、通うことはありませんでした。それで電話で頻繁に連絡を取っていました」
八尾警部補「どうして通わなかったんですか」
  楷「過食症や拒食症の治療には親の協力が不可欠です。でも、なかなか親に言えないんです。話しても『そんなもの病気じゃない』『甘えてるんだ』と言われたり、世間体を気にして病院に通わせない親もいる。彼女も話せなかったんですよ」
八尾警部補「ホテルで会ったのは........」
  楷「呼び出されたんです。話したいことがあるって........」
八尾警部補「精神科医はクリニック以外では患者と会わない。そう聞いてますが」
  楷「必要とあればどこにでも行く。それが私のやりかたです」
□ 楷の回想
――□□ホテル・カフェテリア。
楷、景子と会っている。
景子、明るい笑顔で喋っている。
楷の声「ホテルで会った彼女は元気そうでした。やっと親に話す勇気が持てた。そう話してくれました」
楷、時間を気にして景子に話す。
楷の声「夜も遅かったので、彼女を送って帰るつもりでした」
景子、首を振り、上を指差す。
楷の声「その夜は、友だちの誕生日で、一部屋借り切って朝まで騒ぐんだ、と........」
□ 元の車の中
  楷「........過食は夜中独りでやるものです。友だちと一緒にいればやらない。だから残して帰ったんです」
八尾警部補「........」
  楷「(激しい後悔で)........ウソが見抜けなかった。彼女が嫌がっても、私が親に話すべきだった」
八尾警部補「........」
  楷「........彼女とチェックインした男が私でないことはもうお判りなんでしょ?」
八尾警部補「ええ。犯行現場からも楷先生の指紋は検出されなかった」
  楷「だったらどうして私に........」
八尾警部補「(頷き)うちにも同じ年頃の娘がいましてね、ショックなんですよ、今回の事件は」
  楷「........」
八尾警部補「何故簡単に売春をするのか、その心理を知りたいってこともありましてね」
  楷「(ため息で)........」
□ カフェ“バナナムーン”・店内(夜)
楷、酒を飲んでいる。
その横で、あずさが食欲旺盛に食べている。
あずさ「いや、私は信じてましたよ、先生がお金で女子高生を買ったりしませんよね」
力 石「ウソばっかり。さっきまで楷先生も男だから、なんて言ってたじゃない」
あずさ「(焦って)なんで告げ口するんですか!? あ、いや、だって、先生怪しく落ち込んでたから........」
力 石「落ち込むでしょ、患者に死なれちゃ」
あずさ「でも、過食症が悪化して死んだんじゃないんですから........」
  楷「(ため息で)........同じことだよ」
あずさ「(困って)あの、私、かなり大食いなんですけど、過食症とは違うんですか?」
  楷「吐いたり、下剤を飲んだりはしないんだろ?」
あずさ「はい」
力 石「ぶっといウンコしてるんだ」
あずさ「(目を白黒させて)へ、変なこと言わないで下さいよ!(飲み物を持ってきた忍に)ちょっと、どう思います!? 食べ物屋の主人が客が食べてる前で」
  忍「図星なんですか?」
あずさ「――。忍ちゃん!?」
忍、微笑を残して去ってゆく。
あずさ「!?(見送って)........謎だ」
  楷「新陳代謝がいいのは健康な証拠だよ。満腹中枢に多少異常があるかもしれないけどね」
力 石「痩せの大食いは羨ましいわ。私、食べたらすぐお肉になっちゃう」
あずさ、力石の脇腹を摘む。
力石、悲鳴を上げて厨房へ逃げてゆく。
楷、苦笑する。
あずさ「なんで過食症になっちゃうんですか?」
  楷「きっかけはダイエットが多い。太ってる自分がイヤ。だから食べなくなる。ところが人間には防衛本能があり、ある時どか食いをしてしまう。それから過食が始まる。食べたものを吐かなければ太っていくが、吐くことを覚えた人は体型が変わらない。だから病状は更に悪化する」
あずさ「あ、友だちにいる。モデルやってる子なんですけど、必ず吐くんです。食事を楽しめてスタイルを維持出来るからいいんだ、って。健康そうだし、ただの変わったクセだと思ってたんですけど........」
  楷「立派な病気だよ。“食べ吐き”をすると........」
と、話そうとした時、楷の携帯のベルが鳴る。
画面表示――三七子。
  楷「(出て)もしもし」
□ 森診療所・診察室
三七子が電話している。
三七子「楷くん? うちに脱水症状で運ばれてきた女子高生がね、楷くんの名刺を持ってるの」
□ カフェ“バナナムーン”・店内
  楷「――!」
三七子の声「血液を調べたんだけど、電解質バランスを崩してるの」
  楷「吐きダコは!?」
三七子の声「あるわ」
楷、電話を切り、席を立つ。
あずさ、慌てて追いかけてゆく。
□ 森診療所・処置室
三七子とともに楷とあずさが入ってくる。
ベッドに横になって点滴を受けているのは――いづみ。
  楷「........キミか」
あずさ、ビックリ。
三七子「(楷に)診察したことあるの?」
  楷「一度ね。殺された山崎景子くんと同じ。親に話せなくてそれっきり来なくなった」
いづみ「私、病気じゃありません」
  楷「吐きダコ、大きくなってるじゃないか」
いづみ「――」
あずさ「あ、それを確かめてたんですか」
□ フラッシュ
コンビニの外でいづみを捕まえる楷、いづみの手を取って何か言う。
□ 元の処置室
いづみ「私、吐きたいから吐いてるだけです。気分がすっきりするし........」
  楷「それはその時だけだろ?」
いづみ「........」
三七子「吐くのが習慣になるとね、胃液や腸液の中にあるカリウムやクロール、他にも体の機能を正常に保つために必要なものが流れ出してしまうの」
いづみ「........」
三七子「カリウムが不足すると、心臓の筋肉の収縮能力が低下して、不整脈が起きたり、心臓が止まってしまうこともあるのよ。もちろん、栄養不良で腎臓、肝臓、胃がボロボロになるわ。それに吐く時の胃液で歯のエナメル質が溶けて虫歯になりやすくなるし。車の多い場所や駅のホームなんかで失神したらどうするの」
あずさ「(身震いして)恐ッ」
いづみ「........判りました。もう過食はやめます。吐くのもやめます」
  楷「キミは何度もやめようと思った。でもやめられなかった。そうだろ?」
いづみ「(肯定の沈黙)........」
  楷「キミにはちゃんとした治療が必要なんだ。今度こそご両親に話して........いや、僕が話すよ」
いづみ「やめて下さい!」
  楷「........」
いづみ「........自分で話します」
  楷「本当だね?」
いづみ、しっかりと頷く。
  楷「(いづみを瞶めて)........」
□ 都内のマンション・表
いづみが駆け込んでゆく。
□ 同・いづみの家・室内
――玄関。
いづみが飛び込んでくる。
いづみ「(明るく)ただいま!」
「お帰りなさい」
と、台所から女性の声。
――ダイニングキッチン。
いづみが入ってくると――
テーブルには二人分の夕食の用意がされ、初老の女性(民枝)が味噌汁を用意している。
いづみ「すみません、遅くなって」
その時、トイレを流す音。
いづみ「! パパ、帰ってるの?」
民 枝「ええ。じゃ、失礼します」
と,出てゆく。
民枝と入れ違いに入ってきたのは――八尾警部補である。
いづみは八尾警部補の娘である。
八尾警部補「いつもこんなに遅いのか?」
いづみ「(戸惑いつつ)図書館に行ってたの。パパのほうこそ早いじゃない」
八尾警部補「たまにはいづみと一緒にメシを食おうと思ってな」
いづみ「変なの」
八尾警部補「殺された女の子は知ってるんだろ?」
いづみ「学年違うし、関係ないよ」
八尾警部補「いづみはバカなことはしてないよな?」
いづみ「(ドキッと)バカなこと、って?」
八尾警部補「........いや、何でもない」
いづみ「........」
八尾警部補「パパはいづみのこと、信じてるからな」
いづみ「........」
自分の部屋へ向かう。
八尾警部補「一緒に食べないのか?」
いづみ「さっき友だちと食べちゃった」
八尾警部補「民枝さんが毎日作ってくれてるんだぞ........」
いづみ、八尾警部補の言葉の途中で行ってしまう。
八尾警部補、やりにくそうにため息をつく。
□ 雑居ビル・カフェ“バナナムーン”・店内
楷と三七子が飲んでいる。
楷、ため息をついている。
三七子「どうしたの? 直子ちゃん、ちゃんと親に話すわよ」
  楷「(首を振り)直子なんて、多分偽名だよ」
三七子「え? だってホラ、住所もちゃんと........」
と、メモを見せる。
  楷「........」
三七子、!? 携帯を取り出してメモにある電話番号にかける。
音声メッセージ「お掛けになった電話番号は現在使われておりません........」
三七子「――」
  楷「........」
□ 八尾警部補の家・いづみの部屋
いづみ、ベッドに腰掛けて、楷の名刺を見ている。
いづみ「(考えて)........」
□ 雑居ビル・カフェ“バナナムーン”・店内
楷と三七子。
  楷「........まあいい。通ってる学校は判ってる」
三七子「........捕まえて、親に話すの?」
  楷「ああ」
三七子「そこまでする必要ないんじゃない?」
  楷「........」
三七子「精神科医の先生に申し上げるのも口幅ったいんですけどね、仕事とプライベート、ちゃんと分けたほうがいいよ。四六時中患者さんのこと考えてたら神経参っちゃうわよ」
  楷「........」
三七子「過食症や拒食症の患者さんって、予備軍含めたら全国で500万人以上いるって言われてるでしょ? 楷くんがいくら頑張っても全員を治すことなんて出来ないんだよ」
  楷「........」
楷、残った酒を飲み下す。
□ 八尾警部補の家・いづみの部屋〜廊下
いづみ、唇を噛み、意を決して立ち上がる。
部屋を出てダイニングキッチンに向かおうとした時、八尾警部補が慌ただしく出てくる。
いづみ「パパ........」
八尾警部補「署から緊急の呼び出しだ。行ってくる」
と、玄関へ――
いづみ「(取り残されて)........」
□ 雑居ビル・楷メンタルクリニック・待合室
ドアが開き、楷が入ってくる。
明かりも付けず、洗面所に入ってゆく。
□ 八尾警部補の家・いづみの部屋
いづみ、菓子パンを食べている。
何かに取り憑かれたように、黙々と食べる。
ベッドの上に、ジャンクフードが一杯に入ったコンビニの袋。
いづみ、菓子パンを食べ終わると、次はおにぎり。
いづみ、ただひたすら食べてゆく。
□ 楷メンタルクリニック・洗面所
楷が手を洗っている。
  楷「........」
□ 八尾警部補の家・いづみの部屋
いづみ、ただひたすら食べている。
□ 雑居ビル・楷メンタルクリニック・洗面所
楷、ペーパータオルで手を拭く。
  楷「........」
楷、洗面所を出ていきかけるが――
再び手を洗い始める。
焦燥感を洗い流すかのように、手を洗い続ける。
  楷「........」
□ ――C・M――
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