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●サイコドクター 第3回 (4)

□ 京橋署・全景
――数日後。
□ 同・会議室
――捜査会議が開かれている。
八尾警部補「(立ち上がって)私と犀川は被害者が持っていた34枚の名刺を中心に調べました。そのうちの二名の所在がまだ確認出来ていません。そのうちの一名、武田哲男の名刺に書かれていた会社名は架空のものであり........(と、続く)」
□ 雑居ビル・楷メンタルクリニック・診察室
楷と好未。
  楷「そう、携帯電話の電源入れられたんだ」
好 未「(頷き)だって、不便だもん」
  楷「たしかに」
好 未「それで、留守電をチェックしたら、嬉しい知らせが入ってたの。ずっとアメリカに行ってた友だちが帰ってくるの」
  楷「(微笑で)そう........じゃあ最近は不安に駆られることはない?」
好 未「(頷き)でもね、あ、来そう........って時はあるの」
  楷「そんな時は、『大丈夫!』って声に出して言ってみて」
好 未「大丈夫?」
  楷「そう、不安になりそうなことを考え始めたら『ストップ!』」
好 未「言うだけでストップする?」
  楷「(微笑で)だまされたと思ってやってみて」
好 未「来そうな時は、『大丈夫!』、考え始めたら『ストップ!』」
自分なりのふりをつけてやってみる。
楷、微笑する。
□ 同・待合室
好 未「ありがとうございました!」
と、元気に帰ってゆく。
楷、微笑で見送る。
あずさ「先生、さっき三七子先生から電話ありました」
  楷「........?」
□ 森診療所・診察室
三七子が電話に出ている。
三七子「もしもし、楷くん........あの子、また運ばれてきたわよ」
□ 楷メンタルクリニック・待合室
  楷「――」
□ 楷の車が疾走する
□ 走る楷の車・車内
楷、怒りの表情でハンドルを握っている。
  楷「........」
□ 京橋署・表
楷の車が到着する。
楷、署へ入ってゆく。
□ 同・廊下
楷が奥へ進んでゆく。
職 員「(追いかけて)会議中です。こちらでお待ち下さい」
楷、それでも奥へ進む。
と――会議室のドアが開き、捜査員たちが出てくる。
楷、八尾警部補の姿を見つけ、!
  楷「八尾さん! あんた何やってンだ!」
と、八尾警部補に突っかかっていき、胸倉を掴む。
八尾警部補「――」
楷、八尾警部補を殴ろうと拳を振り上げた時――
犀川が楷を羽交い締めにする。
八尾警部補「(ムッと)何なんだ、一体!」
□ 森診療所・処置室(病室)
八尾警部補、一転呆然となっている。
目の前のベッドにいづみ。目を閉じている。
――やつれている。
楷と三七子、横にいる。
三七子「貧血を起こして倒れたんです。命に別状はありません」
八尾警部補「........」
  楷「八尾さん」
と、隣の診察室に促す。
八尾警部補、いづみを気にしながらベッドの横を離れる。
□ 同・診察室
三七子「お嬢さんは過食をやめていません」
八尾警部補「そんなバカな。いづみはやめると言った。楷先生の姿を見て、自分がやっていたことの異常さを思い知ったんですよ。いづみは頭の悪い子じゃない........」
  楷「(カッとなって)頭のレベルじゃダメなんだ!」
八尾警部補「――」
三七子「楷くん、落ち着いて話して」
  楷「.......判ってる」
三七子「隣にいます」
と、八尾警部補に頭を下げて出てゆく。
  楷「(静かに)........過食が悪いことは理屈で判る。でも、心と体のレベルで理解出来ないと治らないんです」
八尾警部補「........」
  楷「いづみさんの場合、愛情不足が原因だと思います」
八尾警部補「私は、いづみを愛してる」
  楷「それがちゃんと伝わってますか?」
八尾警部補「........」
  楷「今だけの問題じゃありません。幼い頃の彼女がどう感じたか........」
八尾警部補「........」
  楷「親の愛情が感じられないと、自分の価値がないように感じてしまうんです。自分の価値を高めたい........親がダメなら、社会に評価してほしい........今の世の中、太っているより痩せているほうが社会的評価が高いですからね。それでダイエットに走り、過食症になるんです」
八尾警部補「(ため息で)........私も、頭でしか理解出来てないんだな」
  楷「(頷き)この前、いづみさんが中学一年の時に奥さんが亡くなった、と」
八尾警部補「........ええ」
  楷「八尾さんは、いづみさんの心の穴と仰言いましたが........八尾さんの心の穴でもありますよね?」
八尾警部補「――!」
  楷「........」
八尾警部補「........妻は自殺なんです」
  楷「――!」
八尾警部補「うつ病だった」
  楷「........」
八尾警部補「その時の医者に、原因は私がほとんど家にいないことが原因だと言われました。そんなことでうつ病になるなんて........」
  楷「........」
八尾警部補「ずっと妻の傍にいるわけにはいかないじゃないですか、警察官である以上........」
  楷「........本当は、そうしたかったんですね?」
八尾警部補「――」
  楷「........」
八尾警部補「........(頷く)」
  楷「奥さんにしてあげられなかった分、いづみさんにしてあげたらどうですか?」
八尾警部補「(考えて)........」
□ 同・処置室(病室?)
ベッドに横になっているいづみ。背中を向けている。
ベッドサイドの三七子、いづみの髪を優しく撫でている。
閉じているいづみの目から涙が零れる。
三七子「(気付いて)........!」
その時、携帯電話のベルの音。
□ 同・診察室
八尾警部補の携帯だ。
八尾警部補「すいません。(と、出て)八尾だ。........何!? 武田に逮捕状が出た!?」
と、電話を切り、立ち上がる。
  楷「(悲しく)八尾さん」
八尾警部補「(も、悲しく)........刑事ですから」
  楷「........」
八尾警部補「娘をお願いします」
と、頭を下げ、出てゆく。
  楷「........」
□ タクシー・車内
八尾警部補が乗り込む。
八尾警部補「□□(地名)! 急いでくれ!」
タクシー、発車する。
八尾警部補「(電話を掛け)俺だ! あと10分で着く。それまで踏み込むな!」
――刑事の顔に戻っている。
□ 森診療所・処置室(病室?)
いづみ、ベッドに起き上がっている。
楷と三七子、見守っている。
いづみ「私、小さい時からずっと“いい子”だった。警察官の娘なんだから、って、パパにもママにも言われ続けてた」
  楷「........」
いづみ「........ママが死んだ時、パパが呟いたんです。『弱い、ダメな女だ』、って........」

三七子
「........」
いづみ「........私のことも、きっとそう思ってる」
  楷「どうしてそう思うの?」
いづみ「だって........過食がやめられないから」
  楷「........」
いづみ「ママのようになっちゃダメだダメだ、って思ってたのに........」
  楷「........」
三七子「(ポツリ)ダメでいいのに」
いづみ「え?」
三七子「(瞶めて)まだ、子供なんだから」
いづみ「(戸惑って)........」
  楷「........今、八尾さんが追いかけてる事件は知ってるよね」
いづみ「(頷く)........」
  楷「八尾さんは、いつもキミのことを考えてるよ」
いづみ「え?」
  楷「........」
□ フラッシュ
――覆面パトカー・車内。
八尾警部補「(頷き)うちにも同じ年頃の娘がいましてね、ショックなんですよ、今回の事件は」
□ 元の診察室
いづみ「(意外で)........ウソ」
  楷「(首を振る)........」
いづみ「........」
三七子「ママが死んだ時にパパが呟いた言葉........パパはそれしかいづみちゃんに言ってない?」
いづみ「........」
三七子「優しい言葉もたくさんあったでしょう? 楽しいこともたくさんあったんじゃない?」
いづみ「........」
三七子「それを思い出してみようよ」
いづみ「........」
  楷「(見守って)........」
□ 都心・川沿いのアパート・近くの道
犀川が張り込んでいる。
八尾警部補、やってきて――
八尾警部補「どうなってる」
犀 川「武田は部屋にいます。二階の真ん中の部屋です」
八尾警部補「裏は固めてるのか?」
犀 川「応援の到着が遅れてるんです。でも、まだ気づかれてません」
八尾警部補「俺が行く」
と、アパートの様子を窺いながら移動する。
□ 森診療所・処置室(病室?)
いづみ、独りベッドに横になっている。
いづみ「(考えていて)........」
□ 川沿いのアパート・裏手
八尾警部補、物陰からアパートの二階の一室を窺っている。
八尾警部補「........」
□ 八尾警部補のイメージ――短く。
独りで夕食を摂るいづみ。
    ×      ×
過食するいづみ。
    ×      ×
トイレで嘔吐するいづみ。
□ 元のアパートの裏手
八尾警部補「........」
パトカー数台のサイレンが聞こえてくる。
八尾警部補「――。バカ、なんでサイレン鳴らしてンだ!」
二階の窓から、30代の男(武田)が飛び出してくる。
八尾警部補、! 
武田、川沿いの遊歩道へ――
八尾警部補、追う!
武田、八尾警部補に気づき、全速力で逃げ始める。
八尾警部補、追いかける!
□ 遊歩道
武田、逃げる!
八尾警部補、必死で追いかける!
    ×      ×
武田、逃げる!
八尾警部補、獣のように追いかける。
八尾警部補、走る!
八尾警部補、走る!
武田との距離、なかなか縮まらない。
    ×      ×
武田、必死の形相で逃げる。
――息が荒い。
八尾警部補、走る!
徐々に武田との距離を詰めてゆく。
    ×      ×
八尾警部補、走る!
もう少しで武田に追いつく!
汗まみれの八尾警部補の顔が歪む。
八尾警部補「何やってンだよ、俺は!」
八尾警部補、武田に飛びかかる!
八尾警部補と武田、勢い余って地面に激突。
武田、必死で抵抗するが――
八尾警部補、武田を組み伏せ、後ろ手に手錠を掛けた!
八尾警部補「バカヤロオ!」
八尾警部補の顔、汗と涙にまみれている。
□ 都心のマンション・全景
――夜。
□ 同・八尾警部補の部屋・室内
――玄関。
額に絆創膏をした八尾警部補が入ってくる。
いづみの靴がある。
八尾警部補「........」
八尾警部補、中へ――
――ダイニングキッチン。
八尾警部補が入ってくると――
いづみがガス台の前に立っている。
いづみ「(背中で)お帰りなさい」
八尾警部補「........何してるんだ」
いづみ、鍋をかき回している。
八尾警部補「カレーか?」
いづみ「........ママが生きてる時、パパと三人で作ったことあるよね?」
八尾警部補「――」
いづみ「パパがお野菜刻んで、ママが味付けして........私は、ご飯のスイッチ入れただけだったけど」
八尾警部補「........ああ」
いづみ、カレーを皿に盛ると、八尾警部補と目を合わさずにテーブルに並べる。
いづみ「ママみたいにおいしく作れないけど........」
八尾警部補「........」
八尾警部補、テーブルにつく。
いづみも向かい合ってテーブルにつく。
八尾警部補「........いただきます」
食べ始める。
いづみ、スプーンを手にするが、目を伏せたまま――
いづみ「........本当にやめるよ」
八尾警部補、! いづみを見る。
いづみ「でも、自信ない」
八尾警部補「........」
いづみ「私........本当はいい子じゃないの。万引きしたこともあるし、カンニングしたこともある」
八尾警部補「........」
いづみ「........」
八尾警部補「(笑顔を作って)........パパもあるよ。お前ぐらいの時にな」
いづみ、意外そうに顔を上げる。
――その目が涙で潤んでいる。
八尾警部補「(瞶めて)........」
いづみ「........それでも刑事になれるんだ」
八尾警部補「........ああ」
いづみ、泣き笑い。
八尾警部補、涙が溢れる。
いづみ「........パパ、どうしたの」
八尾警部補「バカ、辛すぎるぞ。食べてみろ」
と、背広の袖で顔をゴシゴシこする。
いづみ「ウン」
と、一口食べる。
いづみ「ホントだ、辛い........」
と、泣く。
八尾警部補といづみ、カレーを食べる。
□ 雑居ビル・全景
――数日後。
□ 楷メンタルクリニック・待合室
あずさが診察室を気にしながら小声で電話している。
あずさ「もしもし、あずさです。こんにちは」
□ 森診療所・診察室
三七子が電話に出ている。
三七子「あら、こんにちは」
あずさの声「さっきいらっしゃいました、八尾さんといづみちゃん」
三七子「(笑顔になり)そう、よかった」
□ 楷メンタルクリニック・待合室
あずさ、電話を切り、診察室を見る。
その顔に微笑み。
□ 同・診察室
楷の前に、八尾警部補といづみ。
  楷「まず、治療は時間かかると思って下さい」
いづみ「はい」
  楷「なによりも、家族の協力が不可欠です」
八尾警部補「はい」
  楷「カウンセリングは週に一回、一時間程度行います。(八尾警部補に)大丈夫ですね?」
八尾警部補「もちろん」
  楷「冷蔵庫の中は整理して、最小限の食べ物しか入れておかないように」
八尾警部補
いづみ
「はい」
  楷「一人で食べるとつい過食してしまいますから、出来る限り一緒に食事をして下さい」
八尾警部補「判りました」
と、いづみを見る。
いづみ「(微笑)........」
  楷「もし、いづみさんが過食しても責めないで下さい」
八尾警部補「その時はどう言えばいいんですか?」
  楷「(首を振り)言葉はいりません。ただ、黙って抱きしめて下さい」
八尾警部補「――」
いづみ「........」
八尾警部補、しっかりと頷く。
二人を見守る楷の微笑みで――
□ ――TO BE CONTINUED――

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