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| □ 京橋署・全景 | |
| ――数日後。 | |
| □ 同・会議室 | |
| ――捜査会議が開かれている。 | |
| 八尾警部補 | 「(立ち上がって)私と犀川は被害者が持っていた34枚の名刺を中心に調べました。そのうちの二名の所在がまだ確認出来ていません。そのうちの一名、武田哲男の名刺に書かれていた会社名は架空のものであり........(と、続く)」 |
| □ 雑居ビル・楷メンタルクリニック・診察室 | |
| 楷と好未。 | |
| 楷 | 「そう、携帯電話の電源入れられたんだ」 |
| 好 未 | 「(頷き)だって、不便だもん」 |
| 楷 | 「たしかに」 |
| 好 未 | 「それで、留守電をチェックしたら、嬉しい知らせが入ってたの。ずっとアメリカに行ってた友だちが帰ってくるの」 |
| 楷 | 「(微笑で)そう........じゃあ最近は不安に駆られることはない?」 |
| 好 未 | 「(頷き)でもね、あ、来そう........って時はあるの」 |
| 楷 | 「そんな時は、『大丈夫!』って声に出して言ってみて」 |
| 好 未 | 「大丈夫?」 |
| 楷 | 「そう、不安になりそうなことを考え始めたら『ストップ!』」 |
| 好 未 | 「言うだけでストップする?」 |
| 楷 | 「(微笑で)だまされたと思ってやってみて」 |
| 好 未 | 「来そうな時は、『大丈夫!』、考え始めたら『ストップ!』」 |
| 自分なりのふりをつけてやってみる。 | |
| 楷、微笑する。 | |
| □ 同・待合室 | |
| 好 未 | 「ありがとうございました!」 |
| と、元気に帰ってゆく。 | |
| 楷、微笑で見送る。 | |
| あずさ | 「先生、さっき三七子先生から電話ありました」 |
| 楷 | 「........?」 |
| □ 森診療所・診察室 | |
| 三七子が電話に出ている。 | |
| 三七子 | 「もしもし、楷くん........あの子、また運ばれてきたわよ」 |
| □ 楷メンタルクリニック・待合室 | |
| 楷 | 「――」 |
| □ 楷の車が疾走する | |
| □ 走る楷の車・車内 | |
| 楷、怒りの表情でハンドルを握っている。 | |
| 楷 | 「........」 |
| □ 京橋署・表 | |
| 楷の車が到着する。 | |
| 楷、署へ入ってゆく。 | |
| □ 同・廊下 | |
| 楷が奥へ進んでゆく。 | |
| 職 員 | 「(追いかけて)会議中です。こちらでお待ち下さい」 |
| 楷、それでも奥へ進む。 | |
| と――会議室のドアが開き、捜査員たちが出てくる。 | |
| 楷、八尾警部補の姿を見つけ、! | |
| 楷 | 「八尾さん! あんた何やってンだ!」 |
| と、八尾警部補に突っかかっていき、胸倉を掴む。 | |
| 八尾警部補 | 「――」 |
| 楷、八尾警部補を殴ろうと拳を振り上げた時―― | |
| 犀川が楷を羽交い締めにする。 | |
| 八尾警部補 | 「(ムッと)何なんだ、一体!」 |
| □ 森診療所・処置室(病室) | |
| 八尾警部補、一転呆然となっている。 | |
| 目の前のベッドにいづみ。目を閉じている。 | |
| ――やつれている。 | |
| 楷と三七子、横にいる。 | |
| 三七子 | 「貧血を起こして倒れたんです。命に別状はありません」 |
| 八尾警部補 | 「........」 |
| 楷 | 「八尾さん」 |
| と、隣の診察室に促す。 | |
| 八尾警部補、いづみを気にしながらベッドの横を離れる。 | |
| □ 同・診察室 | |
| 三七子 | 「お嬢さんは過食をやめていません」 |
| 八尾警部補 | 「そんなバカな。いづみはやめると言った。楷先生の姿を見て、自分がやっていたことの異常さを思い知ったんですよ。いづみは頭の悪い子じゃない........」 |
| 楷 | 「(カッとなって)頭のレベルじゃダメなんだ!」 |
| 八尾警部補 | 「――」 |
| 三七子 | 「楷くん、落ち着いて話して」 |
| 楷 | 「.......判ってる」 |
| 三七子 | 「隣にいます」 |
| と、八尾警部補に頭を下げて出てゆく。 | |
| 楷 | 「(静かに)........過食が悪いことは理屈で判る。でも、心と体のレベルで理解出来ないと治らないんです」 |
| 八尾警部補 | 「........」 |
| 楷 | 「いづみさんの場合、愛情不足が原因だと思います」 |
| 八尾警部補 | 「私は、いづみを愛してる」 |
| 楷 | 「それがちゃんと伝わってますか?」 |
| 八尾警部補 | 「........」 |
| 楷 | 「今だけの問題じゃありません。幼い頃の彼女がどう感じたか........」 |
| 八尾警部補 | 「........」 |
| 楷 | 「親の愛情が感じられないと、自分の価値がないように感じてしまうんです。自分の価値を高めたい........親がダメなら、社会に評価してほしい........今の世の中、太っているより痩せているほうが社会的評価が高いですからね。それでダイエットに走り、過食症になるんです」 |
| 八尾警部補 | 「(ため息で)........私も、頭でしか理解出来てないんだな」 |
| 楷 | 「(頷き)この前、いづみさんが中学一年の時に奥さんが亡くなった、と」 |
| 八尾警部補 | 「........ええ」 |
| 楷 | 「八尾さんは、いづみさんの心の穴と仰言いましたが........八尾さんの心の穴でもありますよね?」 |
| 八尾警部補 | 「――!」 |
| 楷 | 「........」 |
| 八尾警部補 | 「........妻は自殺なんです」 |
| 楷 | 「――!」 |
| 八尾警部補 | 「うつ病だった」 |
| 楷 | 「........」 |
| 八尾警部補 | 「その時の医者に、原因は私がほとんど家にいないことが原因だと言われました。そんなことでうつ病になるなんて........」 |
| 楷 | 「........」 |
| 八尾警部補 | 「ずっと妻の傍にいるわけにはいかないじゃないですか、警察官である以上........」 |
| 楷 | 「........本当は、そうしたかったんですね?」 |
| 八尾警部補 | 「――」 |
| 楷 | 「........」 |
| 八尾警部補 | 「........(頷く)」 |
| 楷 | 「奥さんにしてあげられなかった分、いづみさんにしてあげたらどうですか?」 |
| 八尾警部補 | 「(考えて)........」 |
| □ 同・処置室(病室?) | |
| ベッドに横になっているいづみ。背中を向けている。 | |
| ベッドサイドの三七子、いづみの髪を優しく撫でている。 | |
| 閉じているいづみの目から涙が零れる。 | |
| 三七子 | 「(気付いて)........!」 |
| その時、携帯電話のベルの音。 | |
| □ 同・診察室 | |
| 八尾警部補の携帯だ。 | |
| 八尾警部補 | 「すいません。(と、出て)八尾だ。........何!? 武田に逮捕状が出た!?」 |
| と、電話を切り、立ち上がる。 | |
| 楷 | 「(悲しく)八尾さん」 |
| 八尾警部補 | 「(も、悲しく)........刑事ですから」 |
| 楷 | 「........」 |
| 八尾警部補 | 「娘をお願いします」 |
| と、頭を下げ、出てゆく。 | |
| 楷 | 「........」 |
| □ タクシー・車内 | |
| 八尾警部補が乗り込む。 | |
| 八尾警部補 | 「□□(地名)! 急いでくれ!」 |
| タクシー、発車する。 | |
| 八尾警部補 | 「(電話を掛け)俺だ! あと10分で着く。それまで踏み込むな!」 |
| ――刑事の顔に戻っている。 | |
| □ 森診療所・処置室(病室?) | |
| いづみ、ベッドに起き上がっている。 | |
| 楷と三七子、見守っている。 | |
| いづみ | 「私、小さい時からずっと“いい子”だった。警察官の娘なんだから、って、パパにもママにも言われ続けてた」 |
| 楷 | 「........」 |
| いづみ | 「........ママが死んだ時、パパが呟いたんです。『弱い、ダメな女だ』、って........」 |
| 楷 三七子 | 「........」 |
| いづみ | 「........私のことも、きっとそう思ってる」 |
| 楷 | 「どうしてそう思うの?」 |
| いづみ | 「だって........過食がやめられないから」 |
| 楷 | 「........」 |
| いづみ | 「ママのようになっちゃダメだダメだ、って思ってたのに........」 |
| 楷 | 「........」 |
| 三七子 | 「(ポツリ)ダメでいいのに」 |
| いづみ | 「え?」 |
| 三七子 | 「(瞶めて)まだ、子供なんだから」 |
| いづみ | 「(戸惑って)........」 |
| 楷 | 「........今、八尾さんが追いかけてる事件は知ってるよね」 |
| いづみ | 「(頷く)........」 |
| 楷 | 「八尾さんは、いつもキミのことを考えてるよ」 |
| いづみ | 「え?」 |
| 楷 | 「........」 |
| □ フラッシュ | |
| ――覆面パトカー・車内。 | |
| 八尾警部補 | 「(頷き)うちにも同じ年頃の娘がいましてね、ショックなんですよ、今回の事件は」 |
| □ 元の診察室 | |
| いづみ | 「(意外で)........ウソ」 |
| 楷 | 「(首を振る)........」 |
| いづみ | 「........」 |
| 三七子 | 「ママが死んだ時にパパが呟いた言葉........パパはそれしかいづみちゃんに言ってない?」 |
| いづみ | 「........」 |
| 三七子 | 「優しい言葉もたくさんあったでしょう? 楽しいこともたくさんあったんじゃない?」 |
| いづみ | 「........」 |
| 三七子 | 「それを思い出してみようよ」 |
| いづみ | 「........」 |
| 楷 | 「(見守って)........」 |
| □ 都心・川沿いのアパート・近くの道 | |
| 犀川が張り込んでいる。 | |
| 八尾警部補、やってきて―― | |
| 八尾警部補 | 「どうなってる」 |
| 犀 川 | 「武田は部屋にいます。二階の真ん中の部屋です」 |
| 八尾警部補 | 「裏は固めてるのか?」 |
| 犀 川 | 「応援の到着が遅れてるんです。でも、まだ気づかれてません」 |
| 八尾警部補 | 「俺が行く」 |
| と、アパートの様子を窺いながら移動する。 | |
| □ 森診療所・処置室(病室?) | |
| いづみ、独りベッドに横になっている。 | |
| いづみ | 「(考えていて)........」 |
| □ 川沿いのアパート・裏手 | |
| 八尾警部補、物陰からアパートの二階の一室を窺っている。 | |
| 八尾警部補 | 「........」 |
| □ 八尾警部補のイメージ――短く。 | |
| 独りで夕食を摂るいづみ。 | |
| × × | |
| 過食するいづみ。 | |
| × × | |
| トイレで嘔吐するいづみ。 | |
| □ 元のアパートの裏手 | |
| 八尾警部補 | 「........」 |
| パトカー数台のサイレンが聞こえてくる。 | |
| 八尾警部補 | 「――。バカ、なんでサイレン鳴らしてンだ!」 |
| 二階の窓から、30代の男(武田)が飛び出してくる。 | |
| 八尾警部補、! | |
| 武田、川沿いの遊歩道へ―― | |
| 八尾警部補、追う! | |
| 武田、八尾警部補に気づき、全速力で逃げ始める。 | |
| 八尾警部補、追いかける! | |
| □ 遊歩道 | |
| 武田、逃げる! | |
| 八尾警部補、必死で追いかける! | |
| × × | |
| 武田、逃げる! | |
| 八尾警部補、獣のように追いかける。 | |
| 八尾警部補、走る! | |
| 八尾警部補、走る! | |
| 武田との距離、なかなか縮まらない。 | |
| × × | |
| 武田、必死の形相で逃げる。 | |
| ――息が荒い。 | |
| 八尾警部補、走る! | |
| 徐々に武田との距離を詰めてゆく。 | |
| × × | |
| 八尾警部補、走る! | |
| もう少しで武田に追いつく! | |
| 汗まみれの八尾警部補の顔が歪む。 | |
| 八尾警部補 | 「何やってンだよ、俺は!」 |
| 八尾警部補、武田に飛びかかる! | |
| 八尾警部補と武田、勢い余って地面に激突。 | |
| 武田、必死で抵抗するが―― | |
| 八尾警部補、武田を組み伏せ、後ろ手に手錠を掛けた! | |
| 八尾警部補 | 「バカヤロオ!」 |
| 八尾警部補の顔、汗と涙にまみれている。 | |
| □ 都心のマンション・全景 | |
| ――夜。 | |
| □ 同・八尾警部補の部屋・室内 | |
| ――玄関。 | |
| 額に絆創膏をした八尾警部補が入ってくる。 | |
| いづみの靴がある。 | |
| 八尾警部補 | 「........」 |
| 八尾警部補、中へ―― | |
| ――ダイニングキッチン。 | |
| 八尾警部補が入ってくると―― | |
| いづみがガス台の前に立っている。 | |
| いづみ | 「(背中で)お帰りなさい」 |
| 八尾警部補 | 「........何してるんだ」 |
| いづみ、鍋をかき回している。 | |
| 八尾警部補 | 「カレーか?」 |
| いづみ | 「........ママが生きてる時、パパと三人で作ったことあるよね?」 |
| 八尾警部補 | 「――」 |
| いづみ | 「パパがお野菜刻んで、ママが味付けして........私は、ご飯のスイッチ入れただけだったけど」 |
| 八尾警部補 | 「........ああ」 |
| いづみ、カレーを皿に盛ると、八尾警部補と目を合わさずにテーブルに並べる。 | |
| いづみ | 「ママみたいにおいしく作れないけど........」 |
| 八尾警部補 | 「........」 |
| 八尾警部補、テーブルにつく。 | |
| いづみも向かい合ってテーブルにつく。 | |
| 八尾警部補 | 「........いただきます」 |
| 食べ始める。 | |
| いづみ、スプーンを手にするが、目を伏せたまま―― | |
| いづみ | 「........本当にやめるよ」 |
| 八尾警部補、! いづみを見る。 | |
| いづみ | 「でも、自信ない」 |
| 八尾警部補 | 「........」 |
| いづみ | 「私........本当はいい子じゃないの。万引きしたこともあるし、カンニングしたこともある」 |
| 八尾警部補 | 「........」 |
| いづみ | 「........」 |
| 八尾警部補 | 「(笑顔を作って)........パパもあるよ。お前ぐらいの時にな」 |
| いづみ、意外そうに顔を上げる。 | |
| ――その目が涙で潤んでいる。 | |
| 八尾警部補 | 「(瞶めて)........」 |
| いづみ | 「........それでも刑事になれるんだ」 |
| 八尾警部補 | 「........ああ」 |
| いづみ、泣き笑い。 | |
| 八尾警部補、涙が溢れる。 | |
| いづみ | 「........パパ、どうしたの」 |
| 八尾警部補 | 「バカ、辛すぎるぞ。食べてみろ」 |
| と、背広の袖で顔をゴシゴシこする。 | |
| いづみ | 「ウン」 |
| と、一口食べる。 | |
| いづみ | 「ホントだ、辛い........」 |
| と、泣く。 | |
| 八尾警部補といづみ、カレーを食べる。 | |
| □ 雑居ビル・全景 | |
| ――数日後。 | |
| □ 楷メンタルクリニック・待合室 | |
| あずさが診察室を気にしながら小声で電話している。 | |
| あずさ | 「もしもし、あずさです。こんにちは」 |
| □ 森診療所・診察室 | |
| 三七子が電話に出ている。 | |
| 三七子 | 「あら、こんにちは」 |
| あずさの声 | 「さっきいらっしゃいました、八尾さんといづみちゃん」 |
| 三七子 | 「(笑顔になり)そう、よかった」 |
| □ 楷メンタルクリニック・待合室 | |
| あずさ、電話を切り、診察室を見る。 | |
| その顔に微笑み。 | |
| □ 同・診察室 | |
| 楷の前に、八尾警部補といづみ。 | |
| 楷 | 「まず、治療は時間かかると思って下さい」 |
| いづみ | 「はい」 |
| 楷 | 「なによりも、家族の協力が不可欠です」 |
| 八尾警部補 | 「はい」 |
| 楷 | 「カウンセリングは週に一回、一時間程度行います。(八尾警部補に)大丈夫ですね?」 |
| 八尾警部補 | 「もちろん」 |
| 楷 | 「冷蔵庫の中は整理して、最小限の食べ物しか入れておかないように」 |
| 八尾警部補 いづみ | 「はい」 |
| 楷 | 「一人で食べるとつい過食してしまいますから、出来る限り一緒に食事をして下さい」 |
| 八尾警部補 | 「判りました」 |
| と、いづみを見る。 | |
| いづみ | 「(微笑)........」 |
| 楷 | 「もし、いづみさんが過食しても責めないで下さい」 |
| 八尾警部補 | 「その時はどう言えばいいんですか?」 |
| 楷 | 「(首を振り)言葉はいりません。ただ、黙って抱きしめて下さい」 |
| 八尾警部補 | 「――」 |
| いづみ | 「........」 |
| 八尾警部補、しっかりと頷く。 | |
| 二人を見守る楷の微笑みで―― | |
| □ ――TO BE CONTINUED―― | |
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