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| □ カフェ“バナナムーン”・店内 | |
| 楷が同年代の男(望月哲夫)と飲んでいる。 | |
| 楷 | 「(いつもは見せない笑顔で)五年ぶり、だよな!」 |
| 望 月 | 「楷がまだ大学病院にいた頃だ」 |
| 楷 | 「そうだ、お前がうちの病院にシステム管理で派遣されて来たんだよな」 |
| 望 月 | 「今も変わらないよ。出かけてってセッセと虫取り」 |
| 楷 | 「虫?」 |
| 望 月 | 「バグだよ。クライアントの注文を受けてプログラミングをして、それをかなり厳しくチェックして納品するんだけど、やっぱり不具合は起きるんだ。その細かい穴を埋めるのが俺の仕事」 |
| 楷 | 「大変だな」 |
| 望 月 | 「いやあ、楽しいよ」 |
| 楷 | 「望月、相変わらず仕事が趣味か?」 |
| 望 月 | 「他に面白いことないからな」 |
| 楷 | 「........」 |
| 望 月 | 「いや、実はあったんだ」 |
| 楷、? | |
| あずさが入ってくる。 | |
| 忍 | 「お疲れさまです」 |
| あずさ | 「こんばんは」 |
| あずさ、楷と望月のところへ行こうとする。 | |
| 力石がその襟首を掴む。 | |
| あずさ | 「!? なんですか?」 |
| 力 石 | 「あれ、だあれ? とーっても仲がいいんですけど」 |
| あずさ | 「気になるんですか?」 |
| 力 石 | 「だから聞いてるんじゃない」 |
| あずさ | 「楷先生の高校の同級生。近くの会社に出向してきたらしいですよ」 |
| 力 石 | 「ふうん。あんな楽しそうな楷くん見たの、久しぶりかも」 |
| あずさ | 「いつも楽しいんだか楽しくないんだか判らない顔してますもんね」 |
| × × | |
| 楷、驚いて―― | |
| 楷 | 「恋!?」 |
| 望 月 | 「ああ、恋だ」 |
| 楷 | 「相手は」 |
| 望 月 | 「バーで出会った。フラリと入った池袋のバーに彼女がいた」 |
| 楷 | 「池袋?」 |
| □ イメージ(望月の回想) | |
| ――あるバー・店内。 | |
| 人混みの中の進んでゆく視点。 | |
| カウンターに一人の女がいる。 | |
| その後ろ姿。 | |
| 後れ毛をかき上げる左手首に、赤いブレスレット。 | |
| 望月の声 | 「普段はそんなことしないんだが、声を掛けた」 |
| □ 元の店内 | |
| 楷 | 「........」 |
| 望 月 | 「何の話をしたのか、よく覚えてない。しかし、俺たちは意気投合した。一緒にバーを出て、そのまま近くのホテルに行った」 |
| 楷、!? | |
| 望 月 | 「彼女........涙を流したんだ。俺に抱かれながら........」 |
| 楷 | 「え?」 |
| 望 月 | 「別れた彼氏のことを思い出したからなのか、飼っていた犬が死んだのか........俺と出会えてよかった、ってのも考えられなくはないが........その時の表情が脳裏に焼きついてるんだ」 |
| 楷 | 「........」 |
| 望 月 | 「それから毎晩、彼女を探して歩いたよ」 |
| 楷 | 「(呆れて)望月........」 |
| 望 月 | 「昨日会えた。だけど、彼女は俺のことを覚えてなかった」 |
| 楷 | 「!?」 |
| 望 月 | 「そして........また泣いた。俺の腕の中で」 |
| 楷 | 「........」 |
| □ イメージ | |
| 女の顔。 | |
| ――全体は見せずに。 | |
| 瞳から溢れる涙。 | |
| 頬を伝う涙。 | |
| 指で涙を拭う。 | |
| その手首に赤いブレスレット。 | |
| □ 元の店内 | |
| 楷 | 「赤いブレスレット?」 |
| 望 月 | 「ああ」 |
| 楷 | 「どんなふうに泣いてたんだ」 |
| 望 月 | 「........苦しくて、辛そうだった」 |
| 楷 | 「(考えて)........」 |
| 望 月 | 「........名前を聞いたが、何も教えてくれなかった」 |
| 楷 | 「........」 |
| 望 月 | 「それっきりだと思ったよ。ところが、今日また会ったんだ」 |
| 楷 | 「今日、って........」 |
| 望 月 | 「(頷き)そうだ、俺が出向してる建設会社にいたんだよ、彼女が」 |
| □ 望月の回想 | |
| ――□□建設のエレベーター内。 | |
| 混んでいる。 | |
| 乗っている望月、疲れた様子でため息をつく。 | |
| 何気なく顔を上げ、! | |
| 数人を隔てたところに立つ女が、後れ毛をかき上げる。 | |
| その手首にブレスレット。 | |
| □ 元の店内 | |
| 望 月 | 「ドキドキしたよ。何年ぶりだろ、こんな気持ちになったのは........」 |
| 楷 | 「........」 |
| 望 月 | 「で、調べたんだ。沖野名美。都市計画推進本部のグループリーダーだった。女でリーダーを任されるのは凄いことなんだ」 |
| 楷 | 「(考えて)........」 |
| 望 月 | 「楷」 |
| 楷 | 「(真顔で)望月、その女性のことは忘れろ」 |
| 望 月 | 「何言ってンだ?」 |
| その時、望月の携帯が鳴る。 | |
| 望 月 | 「(出て)はい、望月です........本当ですか!? 判りました。すぐに対処します!」 |
| と、電話を切り―― | |
| 望 月 | 「楷、また会おう」 |
| 楷 | 「仕事、何時に終わる?」 |
| 望 月 | 「今日は無理だ。作業が終わったら池袋に行く。会社では口を聞いてくれなかったが、池袋で会えば........」 |
| 楷 | 「だからその女性について話........」 |
| 望 月 | 「(遮り)電話するよ」 |
| と、店を出てゆく。 | |
| 楷 | 「――」 |
| 望月を見送ったあずさ、楷の席へやってくる。 | |
| あずさ | 「聞こえちゃいました」 |
| 楷 | 「........ン?」 |
| あずさ | 「どうして会わない方がいい、って仰言ったんですか?」 |
| 楷 | 「........きっと思いは通じない。あいつは苦しむだろうな」 |
| あずさ | 「どうしてですか?」 |
| 楷 | 「その女性は、多分........(と言いかけてやめる)」 |
| あずさ | 「何ですか?」 |
| 楷 | 「いや、実際に会ってないから断定は出来ない」 |
| あずさ | 「?」 |
| 楷 | 「望月の仕事依存も心配だし」 |
| あずさ | 「仕事依存?」 |
| 楷 | 「人間は誰でも充実した人生を送りたいと思う。そして考える。『自分の生きがいはなにか?』『自分は何をやりたいのか?』しかし、それがなかなか判らない。今の世の中、何でも手に入る。だから何をやっても充足感が得られない」 |
| あずさ | 「あー、判ります」 |
| 楷 | 「だから、酒や煙草など、手軽に充足感を得られるものに人間は手を出すんだ」 |
| あずさ | 「それって別に悪いことじゃないですよね?」 |
| 楷 | 「(頷き)健全なうちはね。健康を害したり、社会生活に支障が出る形でのめり込んでしまうとマズいだろう?」 |
| あずさ | 「そうですね」 |
| 楷 | 「そうなると、“依存症=アディクション”という立派な病気だ。社会問題になっているアルコール依存、覚醒剤などの薬物依存の他にも、ゲームやギャンブル、望月のように仕事に依存する人間が増えてるんだ」 |
| あずさ | 「仕事依存と仕事熱心は違うんですか?」 |
| 楷 | 「さっきの望月、緊急を要する仕事だったかもしれない。でも、嫌な顔一つしないで........むしろ楽しそうに仕事に戻って行った。五年ぶりに会った親友をほったらかしにして」 |
| あずさ | 「........そうですね」 |
| 楷 | 「仕事でも人間でも、健全な依存関係だったらいいんだが........」 |
| と、携帯電話を取り出してテーブルに置く。 | |
| × × | |
| 飲みながら本を読んでいる楷、携帯電話を見る。 | |
| 表示画面――三時間以上が経過している。 | |
| 楷 | 「........」 |
| あずさ、その横でテーブルに突っ伏している。 | |
| 楷 | 「あずさくん、眠いんだったら帰ればいいだろ」 |
| あずさ | 「はーい」 |
| と言いつつ、本格的に寝ようとする。 | |
| 楷、微苦笑で席を立つ。 | |
| 楷 | 「(力石に)彼女、頼むよ」 |
| 力 石 | 「判った。お休み」 |
| 楷、出てゆく。 | |
| 力 石 | 「(あずさを揺すって)あずさちゃん、起きなさい」 |
| あずさ | 「(半分夢の中で)うーん」 |
| 力 石 | 「そんな可愛い寝顔見せられたらムズムズしちゃうわ」 |
| あずさ | 「(トロンと)ヤダ、そんなに可愛い?」 |
| 力 石 | 「冗談に決まってるじゃない。閉店よ。帰って」 |
| あずさ | 「(フクれて)絶対帰ンない!」 |
| と、テーブルにしがみつく。 | |
| □ 同・表 | |
| 楷、携帯電話をかけている。 | |
| 流れているのは、留守番電話のメッセージ。 | |
| 楷 | 「........」 |
| □ 池袋・夜の繁華街 | |
| 楷がやってくる。 | |
| 猥雑な雰囲気。 | |
| 楷の声 | 「楷だ。今池袋にいる。もし近くにいるなら合流しよう。“ブルームーン”というバーにいる」 |
| □ あるバー・店内 | |
| 楷、カウンターで飲んでいる。 | |
| バーのドアが開く。 | |
| 楷、振り返る。 | |
| 女が入ってくる。 | |
| 楷、落胆して視線を戻そうとして、!? | |
| 後れ毛をかき上げた女の左手首に赤いブレスレット。 | |
| 楷 | 「――!」 |
| その女(名美)、楷の視線に気づく。 | |
| 名 美 | 「........」 |
| 楷 | 「........」 |
| 二人の視線が絡み合い―― | |
| □ タイトル | |
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