NAVI

●サイコドクター 第4回 (1)

□ カフェ“バナナムーン”・店内
楷が同年代の男(望月哲夫)と飲んでいる。
  楷「(いつもは見せない笑顔で)五年ぶり、だよな!」
望 月「楷がまだ大学病院にいた頃だ」
  楷「そうだ、お前がうちの病院にシステム管理で派遣されて来たんだよな」
望 月「今も変わらないよ。出かけてってセッセと虫取り」
  楷「虫?」
望 月「バグだよ。クライアントの注文を受けてプログラミングをして、それをかなり厳しくチェックして納品するんだけど、やっぱり不具合は起きるんだ。その細かい穴を埋めるのが俺の仕事」
  楷「大変だな」
望 月「いやあ、楽しいよ」
  楷「望月、相変わらず仕事が趣味か?」
望 月「他に面白いことないからな」
  楷「........」
望 月「いや、実はあったんだ」
楷、?
あずさが入ってくる。
「お疲れさまです」
あずさ「こんばんは」
あずさ、楷と望月のところへ行こうとする。
力石がその襟首を掴む。
あずさ「!? なんですか?」
力 石「あれ、だあれ? とーっても仲がいいんですけど」
あずさ「気になるんですか?」
力 石「だから聞いてるんじゃない」
あずさ「楷先生の高校の同級生。近くの会社に出向してきたらしいですよ」
力 石「ふうん。あんな楽しそうな楷くん見たの、久しぶりかも」
あずさ「いつも楽しいんだか楽しくないんだか判らない顔してますもんね」
    ×      ×
楷、驚いて――
  楷「恋!?」
望 月「ああ、恋だ」
  楷「相手は」
望 月「バーで出会った。フラリと入った池袋のバーに彼女がいた」
  楷「池袋?」
□ イメージ(望月の回想)
――あるバー・店内。
人混みの中の進んでゆく視点。
カウンターに一人の女がいる。
その後ろ姿。
後れ毛をかき上げる左手首に、赤いブレスレット。
望月の声「普段はそんなことしないんだが、声を掛けた」
□ 元の店内
  楷「........」
望 月「何の話をしたのか、よく覚えてない。しかし、俺たちは意気投合した。一緒にバーを出て、そのまま近くのホテルに行った」
楷、!?
望 月「彼女........涙を流したんだ。俺に抱かれながら........」
  楷「え?」
望 月「別れた彼氏のことを思い出したからなのか、飼っていた犬が死んだのか........俺と出会えてよかった、ってのも考えられなくはないが........その時の表情が脳裏に焼きついてるんだ」
  楷「........」
望 月「それから毎晩、彼女を探して歩いたよ」
  楷「(呆れて)望月........」
望 月「昨日会えた。だけど、彼女は俺のことを覚えてなかった」
  楷「!?」
望 月「そして........また泣いた。俺の腕の中で」
  楷「........」
□ イメージ
女の顔。
――全体は見せずに。
瞳から溢れる涙。
頬を伝う涙。
指で涙を拭う。
その手首に赤いブレスレット。
□ 元の店内
  楷「赤いブレスレット?」
望 月「ああ」
  楷「どんなふうに泣いてたんだ」
望 月「........苦しくて、辛そうだった」
  楷「(考えて)........」
望 月「........名前を聞いたが、何も教えてくれなかった」
  楷「........」
望 月「それっきりだと思ったよ。ところが、今日また会ったんだ」
  楷「今日、って........」
望 月「(頷き)そうだ、俺が出向してる建設会社にいたんだよ、彼女が」
□ 望月の回想
――□□建設のエレベーター内。
混んでいる。
乗っている望月、疲れた様子でため息をつく。
何気なく顔を上げ、!
数人を隔てたところに立つ女が、後れ毛をかき上げる。
その手首にブレスレット。
□ 元の店内
望 月「ドキドキしたよ。何年ぶりだろ、こんな気持ちになったのは........」
  楷「........」
望 月「で、調べたんだ。沖野名美。都市計画推進本部のグループリーダーだった。女でリーダーを任されるのは凄いことなんだ」
  楷「(考えて)........」
望 月「楷」
  楷「(真顔で)望月、その女性のことは忘れろ」
望 月「何言ってンだ?」
その時、望月の携帯が鳴る。
望 月「(出て)はい、望月です........本当ですか!? 判りました。すぐに対処します!」
と、電話を切り――
望 月「楷、また会おう」
  楷「仕事、何時に終わる?」
望 月「今日は無理だ。作業が終わったら池袋に行く。会社では口を聞いてくれなかったが、池袋で会えば........」
  楷「だからその女性について話........」
望 月「(遮り)電話するよ」
と、店を出てゆく。
  楷「――」
望月を見送ったあずさ、楷の席へやってくる。
あずさ「聞こえちゃいました」
  楷「........ン?」
あずさ「どうして会わない方がいい、って仰言ったんですか?」
  楷「........きっと思いは通じない。あいつは苦しむだろうな」
あずさ「どうしてですか?」
  楷「その女性は、多分........(と言いかけてやめる)」
あずさ「何ですか?」
  楷「いや、実際に会ってないから断定は出来ない」
あずさ「?」
  楷「望月の仕事依存も心配だし」
あずさ「仕事依存?」
  楷「人間は誰でも充実した人生を送りたいと思う。そして考える。『自分の生きがいはなにか?』『自分は何をやりたいのか?』しかし、それがなかなか判らない。今の世の中、何でも手に入る。だから何をやっても充足感が得られない」
あずさ「あー、判ります」
  楷「だから、酒や煙草など、手軽に充足感を得られるものに人間は手を出すんだ」
あずさ「それって別に悪いことじゃないですよね?」
  楷「(頷き)健全なうちはね。健康を害したり、社会生活に支障が出る形でのめり込んでしまうとマズいだろう?」
あずさ「そうですね」
  楷「そうなると、“依存症=アディクション”という立派な病気だ。社会問題になっているアルコール依存、覚醒剤などの薬物依存の他にも、ゲームやギャンブル、望月のように仕事に依存する人間が増えてるんだ」
あずさ「仕事依存と仕事熱心は違うんですか?」
  楷「さっきの望月、緊急を要する仕事だったかもしれない。でも、嫌な顔一つしないで........むしろ楽しそうに仕事に戻って行った。五年ぶりに会った親友をほったらかしにして」
あずさ「........そうですね」
  楷「仕事でも人間でも、健全な依存関係だったらいいんだが........」
と、携帯電話を取り出してテーブルに置く。
    ×      ×
飲みながら本を読んでいる楷、携帯電話を見る。
表示画面――三時間以上が経過している。
  楷「........」
あずさ、その横でテーブルに突っ伏している。
  楷「あずさくん、眠いんだったら帰ればいいだろ」
あずさ「はーい」
と言いつつ、本格的に寝ようとする。
楷、微苦笑で席を立つ。
  楷「(力石に)彼女、頼むよ」
力 石「判った。お休み」
楷、出てゆく。
力 石「(あずさを揺すって)あずさちゃん、起きなさい」
あずさ「(半分夢の中で)うーん」
力 石「そんな可愛い寝顔見せられたらムズムズしちゃうわ」
あずさ「(トロンと)ヤダ、そんなに可愛い?」
力 石「冗談に決まってるじゃない。閉店よ。帰って」
あずさ「(フクれて)絶対帰ンない!」
と、テーブルにしがみつく。
□ 同・表
楷、携帯電話をかけている。
流れているのは、留守番電話のメッセージ。
  楷「........」
□ 池袋・夜の繁華街
楷がやってくる。
猥雑な雰囲気。
楷の声「楷だ。今池袋にいる。もし近くにいるなら合流しよう。“ブルームーン”というバーにいる」
□ あるバー・店内
楷、カウンターで飲んでいる。
バーのドアが開く。
楷、振り返る。
女が入ってくる。
楷、落胆して視線を戻そうとして、!?
後れ毛をかき上げた女の左手首に赤いブレスレット。
  楷「――!」
その女(名美)、楷の視線に気づく。
名 美「........」
  楷「........」
二人の視線が絡み合い――
□ タイトル

番組データへ

(2)へ続く

(C)Copyright 2001 Kazuhiko Ban. All rights reserved.