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●サイコドクター 第7回 (1)

□ 炎
まるで生き物のように暴れている。
□ カフェ“バナナムーン”・店内
かなり大人数のパーティが催されている。
着飾った出席者たち、盛り上がっている。
楷、いつもの地味な服装であずさとカウンターで飲んでいる。
そこへ、三七子がやってくる。
あずさ「(笑顔で)誕生日おめでとうございます!」
  楷「(微笑で)いくつになったんだっけ?」
三七子「知ってるクセに! ありがとう、来てくれて」
力 石「(横から)いつも来てるわよ。あずさちゃん、ちょっと」
と、飲み物がたくさん乗った盆を渡す。
あずさ「!? なんですか」
力 石「見ての通り、人が足りないの。その猫みたいなお手手、貸してちょうだい」
と、お尻を押す。
あずさ「もォ」
と、言いつつ、パーティ出席者に飲み物を配ってゆく。
楷と三七子、微笑で見ている。
そこへ、いかにもキャリアウーマンといった印象の女性が通りかかる。
女 性「(微笑で)三七子先生、楽しんでる?」
三七子「ありがとう。襟子ちゃん、ここの二階で精神科医やってる楷くん。(楷に)大森襟子さん(と、紹介する)」
襟 子「初めまして。三七子先生とはどういう関係ですか?」
三七子「ただの大学の同級生よ」
  楷「ただの同級生です」
三七子、!?
襟 子「じゃ、今度お食事しません? 二人っきりで」
三七子「(楷に)来月結婚するの。誘惑に乗らないで」
襟 子「なんでバラすんですか」
と、笑う。
  楷「(微苦笑で)おめでとうございます」
襟 子「(微笑で)あそこにいるのがもうすぐ旦那」
人の良さそうな男(和田誠司)が可愛く手を振っている。
楷、会釈する。
その時、グラスが落ちて床で砕ける。
襟子が持っていたグラスだ。
襟 子「いけない」
と、しゃがんで拾おうとする。
  忍「(飛んできて)あぶないですから........」
襟 子「すみません」
楷、襟子の手が震えているのに気づく。
襟子は通りかかった友人と話す。
  楷「(襟子を見ながら、三七子に)どういう友だち?」
三七子「スポーツクラブで知り合ったの」
  楷「患者さんじゃないんだ」
三七子「え?」
その時、店の照明が落とされる。
厨房から力石たちが火の点いたろうそくがたくさん立てられたケーキを運んでくる。
三七子、笑顔になる。
  楷「(三七子に)どうぞ、主役の席へ」
三七子、拍手の中、ケーキの前へ――
楷、襟子が目に入る。
襟子の手、小刻みに震えている。
顔色も悪く、無理に笑顔を作っているようだ。
みんな、誕生日の歌を歌って盛り上げる。
襟子、凝然とろうそくの火を見ている。その表情が歪み、息が荒くなる。
三七子、ろうそくの火を吹き消し始める。
全部消え切らないうちに、誰かがクラッカーを鳴らした。
一斉にクラッカーが鳴らされ、拍手と歓声。
と――クラッカーの中に入っていた紐状の紙がろうそくの火にかかり、ボワッと大きな炎が上がる。
襟 子「........」
□ フラッシュ
巨大な炎が激しく噴き上がる。
悲鳴。
炎の中に、人相は判然としないが男の顔が浮かんでは消える。
□ 元の店内
紙に燃え移った火はすぐに消し止められる。
が――襟子の呼吸は更に荒くなる。
  楷「キミ........」
と、手を差しのべようとした時――
襟子、倒れてしまう。
近くにいた女性が悲鳴を上げる。
誠 司「襟子!?」
襟子を抱き起こそうとする。
三七子「過呼吸だわ、リキちゃん、紙袋!」
力 石「あ、はい!」
と、厨房へ飛んでゆく。
三七子「襟子さん、ゆっくり呼吸して! はい、ゆーっくりと息を吸って........ゆっくりと吐いて........」
襟子、言われた通りにしようとするが、なかなかうまく出来ない。
三七子、必死に指導する。
  楷「あずさくん、クリニックに運ぶから用意して」
あずさ「あ、はい!」
と、急いで店を出てゆく。
襟子、誠司の腕の中で苦しそうに喘いでいる。
  楷「........」
□ 楷メンタルクリニック・診察室
襟子、ベッドに横になっている。
――だいぶ落ち着いている。
あずさ、傍に付き添っている。
□ 同・待合室
楷、誠司と話している。
誠 司「襟子、どうしちゃったんですか?」
  楷「過呼吸発作です。原因は判りませんが、命に関わるようなことではないので安心してください」
誠 司「原因、判らないんですか?」
  楷「以前にも同じようなことはありますか?」
誠 司「付き合って一年半ですけど、私の知る限りではまったく」
  楷「手の震えや目眩は?」
誠 司「いえ。........ただ、毎年この時期は体調がよくないと言ってました」
  楷「(考えて)........毎年?」
誠 司「たしかに去年の今頃も元気がなかったし、今年は去年以上なんです。デートの時もため息ばかりだし、責任感が強いのに、仕事を休むほど頭痛が酷いそうで........」
  楷「(考えていて)........」
誠 司「本当は今日もパーティ出席をやめようとしていたんです。でも、三七子先生の誕生日を祝いたい、と........人前に出たら明るく振る舞ってしまう性格なんです」
  楷「襟子さんは火で恐い思いをされたことがありますか?」
誠 司「え?」
  楷「例えば、火事に遭われたとか、火傷をした、といった........」
誠 司「ええ。二ヶ月ほど前に」
楷、!
誠 司「といっても、燃えたのは彼女のアパートの隣でしたけど........」
□ 誠司の回想
燃え上がる一軒家。
誠司の声「私がちょうど泊まっている時でした........」
狭い通りを挟んだアパートから飛び出してくる襟子と誠司。
道路は既に野次馬でごった返している。
そこへけたたましくサイレンを鳴らして消防車が到着。
消火活動が始まる。
襟子、まるで炎に魅せられたかのように、呆然と火事を眺めている。
更に消防車や救急車が到着し、現場が混乱する。
誠司、野次馬に撥ね飛ばされそうになる襟子を抱き寄せる。
襟子、誠司の腕の中で震える。
しかし、目はじっと炎を見ている。
誠司の声「かなり激しい火事でしたが、延焼の心配はありませんでした」
□ 元の待合室
  楷「死にそうになった、というわけではない?」
誠 司「(頷き)でもショックでしたよ。黒こげの死体、見ちゃったんですよ(と、顔を顰める)」
  楷「........それは彼女も見たんですか?」
誠 司「ええ」
□ 同・診察室
襟子、目を閉じている。
□ 森診療所・診察室
三七子が電話している。
三七子「もしもし、楷くん? 昨日はごめんなさい。襟子さんのこと、任せて」
□ 楷メンタルクリニック・診察室
楷が電話に出ている。
  楷「とんでもない。パーティの主役がいなくなっちゃマズいでしょ」
三七子の声「さっき襟子さんたちが来たわ」
  楷「検査結果は?」
三七子の声「ファックスする」
    ×      ×
楷、襟子の検査結果を見ている。
楷の前に、襟子と誠司。
  楷「内科的疾患はありませんね。肉体的には健康です」
誠 司「ということは?」
  楷「心の病気です」
襟 子「........」
  楷「昨日過呼吸発作が起きた時、火事の光景が目の前に浮んだんじゃないですか?」
襟 子「........ええ」
  楷「昨日だけでなく、何度も繰り返されていますよね?」
誠 司「(驚いて)そうなの?」
襟 子「(頷く)........」
  楷「眠れなかったり、憂うつな気分も続いている........」
襟 子「........はい」
  楷「襟子さんは、火事によるPTSDだと思われます」
襟子、!
誠 司「ピーティーエスディー?」
  楷「(頷き)“心的外傷後ストレス障害”。自然災害や事故、犯罪などで死にそうな体験をした人は精神的にショックを受けます。それが“心的外傷”、つまりトラウマとなり、その後遺症としてさまざまな症状が出るんです。時には正常な社会生活が営めないほどに」
襟 子「........」
  楷「地下鉄サリン事件や阪神淡路大震災の時に話題になりましたよね?」
誠 司「そういえば、聞いたことがあるような........でも、ピンとこなくて........」
  楷「(頷き)心の病気の苦しさは、PTSDに限らず、当事者には切実ですが一般の人にはなかなか理解されません」
誠 司「........治るんですか?」
  楷「(頷き)適切な治療を行えば」
誠 司「(ホッと)よかった。襟子、ちゃんと治そうな」
襟 子「........」
  楷「PTSDは家庭や会社、周りの人たちのサポートがあるだけで回復の仕方が全然違います」
襟 子「違います」
  楷「?」
襟 子「火事でPTSDなんて........だって、同じように体験した彼はなんともないじゃないですか」
  楷「........」
襟 子「(苛立ち)なんで私がそんな病気にならなくちゃいけないの!? 違います。決めつけないで下さい!」
と、立ち上がり、診察室を出ていってしまう。
誠 司「襟子!?」
と、慌てて追いかけてゆく。
楷、ため息をつく。
が――それが引金になり、息が荒くなる。
  楷「........」
自分に戸惑いつつも、苦しく喘ぐ楷。
□ タイトル

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(2)へ続く

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