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●サイコドクター 第10回 (1)

□ 都心の道路
楷の車が赤信号で停止する。
□ 楷の車・車内
楷、何気なく窓外に目をやる。
  楷「........」
幼稚園がある。
音楽が流れている。
印象的なメロディ。(「おもいでのアルバム」)
楷、無意識にそのメロディを口ずさんでいる。
楷、そんな自分に違和感を感じる。
信号が青に変わる。
しかし、楷は車を発進させない。
メロディ、サビの部分へ――
楷の顔色が変わる。
リフレインされるサビのメロディ。
楷、蒼褪め、震え出す。
恐怖に駆られて――
□ 楷メンタルクリニック・洗面所
飛び込んで来る楷、激しく手を洗う。
  楷「........」
楷、震えている。
  楷「........何だ........何なんだ........」
楷、一旦洗うのをやめ、セーターの袖をまくり上げ、腕時計を外す。
そして、肘から洗い始める。
楷、顔を歪めて――
□ 同・待合室
楷が憔悴した様子で洗面所から出て来る。
あずさ「(心配して)大丈夫ですか?」
  楷「.......」
楷、あずさを無視して診察室へ――
□ 同・診察室
あずさ、楷を追いかけて入って来る。
あずさ「楷先生が15歳の時に診て下さった先生はどこにいらっしゃるんですか?」
  楷「........え?」
あずさ「その先生なら、楷先生の気持ち、判ってくれるんじゃないですか!?」
  楷「........」
□ フラッシュ(楷の回想)
――楷家の焼け跡。
15歳の楷、混乱を精神科医にぶつける。
精神科医、泥まみれになりながら楷を抱き留める。
□ 元の診察室
  楷「........先生は、日本にはいない。研究のためにアメリカに移り住まれてる」
あずさ「だったら他の........」
  楷「(苦しく)他の精神科医の治療を受ける時は精神科医をやめる時だ。........まだ自分をコントロール出来てる........」
あずさ「........」
□ 森診療所・全景
――別の日。
□ 同・診察室
三七子が電話をかけている。
――表情が暗い。
三七子「(繋がって)もしもし、楷くん?」
□ 楷メンタルクリニック・診察室
楷が電話に出ている。
  楷「どうした?」
――以下カットバック(あるいは画面分割)で。
三七子「もうすぐうちの母がそっちに行くわ」
  楷「!? 」
三七子「迷惑だからやめなさいって言ったんだけど........」
  楷「??」
三七子「最近様子がおかしいの。ちょっと話してみてくれない?」
  楷「それは構わないけど........」
その時、ドアにノックがあり、あずさが顔を出す。
あずさ「三七子先生のお母さんがいらっしゃいました」
三七子「聞こえた。楷くん、お願いね」
  楷「ちょっと........」
三七子、ため息で電話を切る。
診察室へ三七子の母・洋子が入って来る。
――品のいい初老の女性である。
  楷「じゃ........(と、電話を切り)こんにちは。お久しぶりです」
洋 子「(ニコニコ)お元気そうね」
  楷「お蔭様で」
洋 子「健康には気をつけて下さいね。昔から医者の不養生って言うでしょ?」
  楷「(微苦笑)そうですね」
あずさ「あのう、これ、いただきました」
あずさ、野菜が溢れそうな段ボール箱を抱えている。
楷、驚く。
洋 子「お裾分けよ」
  楷「........ありがとうございます」
洋 子「ここのお野菜ね、とっても美味しくて体にいいの。騙されたと思って試してみて。一口齧った瞬間、太陽と大地のエネルギーを感じるから」
  楷「(微笑で)じゃあ、いただいてみます。あずさくん、コーヒー」
あずさ「はい」
洋 子「ごめんなさい、私、特製ジュースしかいただきませんの」
と、バッグの中からペットボトルに入れた野菜ジュースを見せる。
  楷「それは?」
洋 子「“実りの家族”の野菜で作ったの。一本差し上げるわ」
  楷「........ありがとうございます。野菜がお母さんの健康の秘訣なんですね」
洋 子「そうなの」
と、ニコニコ話し続ける。
□ カフェ“バナナムーン”・店内
楷、考えている。
あずさが野菜の入った段ボール箱を忍に渡す。
力 石「ありがとう。忍ちゃん、何か作ってあげて」
「はい」
力 石「あら、ちょっと。“実りの家族”じゃない」
段ボール箱に、“実りの家族自然農園”の文字。
  楷「有名なの?」
力 石「楷くん、知らないの? 被害者の会も出来てるのよ」
  楷「被害者?」
力 石「自分たちの農園で作って格安なの。でもね、年契約を結べとか、出資者にならないかとか、寄付しろとか、かなり強引なのよね。結局高くついちゃうのよ」
  楷「........」
力 石「それにお料理教室とか講習会、ヨガ教室、人生相談、いろんなことやって会員を集めてるの」
あずさ「会員集めてどうするんですか?」
力 石「目的はお金。“実りの家族”に全財産寄付した人もいるらしいわ」
  楷「宗教じゃないの?」
力 石「違うの。教祖はいないしね。でもね、カルト宗教みたいに洗脳してるんじゃないかって噂なの」
  楷「........」
力 石「楷くんのクリニックに洗脳されたって人、来ない?」
  楷「........洗脳の恐いところは、本人が洗脳されたと気づかないところなんだ」
力 石「ヤダ、そうなの? 恐いわ」
楷、考えながら、席を立つ。
力 石「あれ? 楷くん? 食事しないの?」
楷、耳に入らない様子で店を出て行く。
あずさ「私、先生の分までいただきます」
力 石「(ジロッ)あんた、食欲だけは旺盛ね」
□ 楷メンタルクリニック・診察室
デスクの上に山積みになった“実りの家族”の資料(書籍や雑誌など)。
楷、厳しい表情で目を通している。
  楷「........」
楷、電話をかける。
□ 森診療所(森家)・リビング
三七子が電話に出て――
三七子「楷くん........どうだった、うちの母」
――以下、カットバック(あるいは画面分割)で。
  楷「“実りの家族”とはいつから関わってるの?」
三七子「“実りの家族”?」
  楷「野菜の........」
三七子「ああ。いつだったかしら」
  楷「“実りの家族”はかなり怪しい、いや、危険な団体なんだ」
三七子「! 危険って........」
  楷「お母さんは、洗脳されている可能性がある」
□ タイトル

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(2)へ続く

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