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●サイコドクター 最終回 (2)

□ カフェ“バナナムーン”・店内(昼)
あずさ、入って来る。
「いらっしゃいませ!」
と、声をかけたのは、力石。
あずさ「! 店長、戻って来たんですか?」
力 石「三七子ちゃんのお母さん、ずいぶん落ち着いたから。あずさちゃん、ちゃんとお留守番してる?」
あずさ「もちろん」
力 石「(忍に)あんたもちゃんとお留守番してたでしょうね」
「もちろん」
力 石「ホントかしら。(あずさに)ランチでいいわね」
あずさ「先生、いつ帰って来れそうですか?」
力 石「あら、淋しいの?」
あずさ「!? 患者さんの予約受けられないから言ってるんです」
力 石「あと二、三日だってさ」
あずさ「(ホッとなって)よかった」
力 石「あんたがカウンセリングすれば?」
あずさ「あ、そうですね」
力 石「!? 冗談よ」
あずさ「はい、冗談です」
力 石「――。あんた、面白くなったわね、顔」
あずさ「リキさんには負けます」
力石、ムカムカ! 二人、掛け合いを続ける。
□ 別荘・表
一台の車が到着する。
降り立つ幸男。洋子に刺された脇腹を庇いながら玄関へ向かう。
□ 同・一室
楷と洋子。
ドアにノックの音。
  楷「(洋子に)ご主人です。お会いになれますよね?」
洋 子「(一瞬躊躇うが)........ええ」
  楷「(ドアに)どうぞ」
ドアが開き、三七子と幸男が入って来る。
幸 男「(笑顔を作って)お土産、シュークリームを買ってきたぞ」
洋 子「あなた........傷は大丈夫なんですか?」
幸 男「お前が悪いんじゃない。気にするな」
洋 子「(目を伏せて)........」
楷、その様子を見ていたが、幸男に――
  楷「持ってきていただけましたか?」
幸男、頷き、持参したビデオテープの束を見せる。
    ×      ×
テレビ画面に、森家のホームビデオが再生されている。
旅行先のホテルでの一コマ――テーブルに並んだ料理から、浴衣姿の洋子と幸男へ、そこへ撮影している三七子自身の顔が割って入り、ピースサイン、など。。
洋 子「(見て)........」
三七子「(見ながら)家族で旅行したの、これが最後だよね?」
幸 男「なかなかスケジュールが合わないからな」
三七子「(楷に)私が小さい頃から行ってた湘南のホテルなの」
  楷「........」
テレビ画面――ホテルの近くを散策する洋子と幸男。撮影する三七子の声が入っている。
三七子の声「久々に手なんか繋いでみれば?」
洋子と幸男、照れながらも手を繋ぐ。
二人とも楽しそうな表情である。
ところが、それを見ていた洋子の表情は歪んでゆく。
  楷「(見ていて)........」
テレビ画面――手を繋いだ洋子と幸男、砂浜へ出る。
画面に海が写る。
その時――
洋 子「........ごめんなさい........ごめんなさい........」
洋子が涙を流し始める。
三七子と幸男、驚いて洋子を見る。
洋 子「........私がいけないの。三七子、許して........」
  楷「........お母さん、やっぱり海にイヤな思い出があるんですね?」
三七子「そんなはずは........」
洋 子「(泣いて)........」
幸 男「(硬い表情で)........あのことを言ってるのか」
洋 子「(幸男を見て)やっぱりまだ、許してくれてないんですね」
幸 男「まだって........今思い出したんだ。それに許すも何もない」
洋 子「三七子、ごめんなさい」
と、頭を下げ、そのまま泣き崩れる。
三七子「お母さん!? 何があったの!? ちゃんと話して」
洋 子「........」
  楷「お母さん、洗脳で作られたイメージを壊すには、過去の出来事、その時の思いを口にすることはとても重要なんです」
洋 子「(迷って)........」
幸 男「........三七子は、この海で溺れそうになったんだ」
三七子「え?」
幸 男「お母さんは、それを自分のせいだと思っている」
洋 子「私のせいです」
幸 男「違う」
  楷「説明していただけますか?」
幸 男「三七子が三つの時だった。ホテルで急病人が出て、私はその世話をしていた。その間お母さんは三七子を連れて散歩に出た。その時、三七子が岩場で遊んでいて波にさらわれたんだよ」
洋 子「(後悔で)........夕日がとっても綺麗だったから、三七子からちょっと目を離した時に........夢中で叫んだわ」
三七子「........」
□ 洋子の回想
――湘南の海。
幸男が幼い三七子を抱き抱えて海から上がってくる。
洋子の声「気がついたら、お父さんが海から三七子を抱き抱えて上がってきました。そして、人工呼吸を........」
□ 元の一室
洋 子「その間、私はただ泣き叫んでいただけでした」
三七子「........」
  楷「........」
洋 子「(激しい後悔で)........何もできなかった」
幸 男「海は荒れていたし、お母さんが飛び込んでたら二人とも助からなかった」
洋 子「人工呼吸もしてあげられなかった」
幸 男「それは私がしていたからだろ?」
洋 子「........」
  楷「........お母さんはそのことをずっと負い目を感じてらっしゃったんですね」
洋 子「自分の子供も守れない........バカな母親なの」
三七子「お母さん........」
洋 子「お父さん、どうして怒らないの!?」
幸 男「お母さん一人のせいじゃないよ」
洋 子「今もそう、どうして私を責めないの!? 刺したのよ、下手をしたら死んでたかもしれないのに........」
幸 男「........」
洋 子「........判ってるの。どうして怒らないのか」
幸 男「........」
  楷「どうしてだと思うんですか?」
洋 子「怒る価値もない女なんです」
幸 男「そうじゃないんだよ。怒ることじゃないんだよ、お母さんに責任はないんだから」
洋 子「(首を振り)........」
三七子「そうよ、だって私全然覚えてないんだよ、溺れたこと。海だって全然恐くない」
洋 子「でも三七子、海に行っても泳ごうとしないじゃない。プールにだって行かないでしょ?」
三七子「(微苦笑で)それは泳ぐのが好きじゃないだけ。海が恐いからじゃないの。トラウマにもなんにもなってないよ」
洋 子「........本当なの?」
三七子「(頷く)........」
  楷「幼い頃に衝撃的なことが起きたとしても、全てがトラウマとして残るわけじゃないんです」
洋 子「........」
三七子「........お母さん、ごめんなさい」
洋 子「え?」
三七子「だって、私のことでそんなに自分を責めてたなんて知らなかった」
洋 子「........」
三七子「それから、ありがとう」
洋 子「........」
三七子「自分を責めてたのは、私を愛してくれてるからだよね?」
洋 子「........」
幸 男「(優しく)そうなんだよ、洋子」
三七子「私、お母さんの子供でよかった」
洋 子「........」
幸 男「(微笑で)私も、キミと夫婦でよかったと思ってる。愛してるよ、洋子」
洋子の目から涙が溢れる。
三七子も涙ぐむ。
楷、そんな三人を励ますように見ている。
□ ――C・M――
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