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| □ 東京・東松原 | |
| ――駅の近くの町の風景。 | |
| 町の一角に、小さな寿司屋がある。 | |
| その寿司屋の名前は、“すし・華”。 | |
| 扉の横に盛り塩がしてある。 | |
| 一人の背広姿の男が店のドアを開ける。 | |
| □ “すし・華”・店内 | |
| 「らっしゃい!」 | |
| 元気な声が飛ぶ。 | |
| 店内は10人ほど座れるカウンターとテーブルが2、3ある。 | |
| カウンターの中(つけ場)で、吉永修造と着物姿の伊達与志夫が握り、外で修造の妻・さよりと与志夫の妻・静子が客の世話をしている。 | |
| 常連客の松田、竹田たちがワイワイやっている。 | |
| 男(小林弘文) | 「初めてですけど、いいですか?」 |
| 修 造 | 「(笑顔で)どうぞ(と、カウンターの席を勧める)」 |
| さより | 「いらっしゃいませ」 |
| と、おしぼりを出し、灰皿を置く。 | |
| 小 林 | 「(灰皿を返し)結構です。ビールを」 |
| さより | 「判りました」 |
| 小 林 | 「(修造に)ネタケース、ないんですね」 |
| 修 造 | 「はい」 |
| 小 林 | 「ない店っていい思い出ないんですよね、やたら格式張ってたり、ウンチクが多かったり」 |
| 松 田 | 「まあ食べてみて下さい。お勘定の時にビックリしますよ。この寿司でこの値段!? って」 |
| 小 林 | 「じゃ、期待して........何から行けばいいですか?」 |
| 修 造 | 「江戸前の握りに決まりはありません。どうぞ、お好きなものを仰言って下さい」 |
| 小 林 | 「(壁の品書きを見て)それほどネタは多くないんだ」 |
| 与志夫 | 「これが精一杯なもので」 |
| 修 造 | 「(山葵を卸しながら)........」 |
| 小 林 | 「じゃ、白身から握って下さい」 |
| 与志夫 | 「美味しい平目が入ってます」 |
| 小 林 | 「いいですね」 |
| 与志夫、平目を切りつけ、鮮やかな手つきで握る。 | |
| 小林の前のつけ台に置かれる平目の握り。 | |
| ――その美しくて美味しそうな形。 | |
| 小林、食べる。 | |
| 小 林 | 「........うん、うまい」 |
| 竹 田 | 「ズケ、握って」 |
| 小 林 | 「ズケって、マグロでしたよね」 |
| 修 造 | 「ええ。赤身を醤油に漬けたものです」 |
| と、取り出して見せる。 | |
| 竹 田 | 「うまいのなんのって、トロなんかメじゃないから」 |
| 修 造 | 「美味しいトロもありますよ」 |
| 小 林 | 「僕にもズケを」 |
| 修 造 | 「かしこまりました」 |
| しかし、修造は握らず、与志夫にズケの柵を渡す。 | |
| 電話が鳴る。 | |
| 静 子 | 「(出て)はい、“すし・華”です。いつもどうも........はい........はい、ありがとうございます。(と、電話を切り)親方、特上三人前、別盛りで」 |
| 与志夫 | 「あいよ」 |
| 静 子 | 「さより、一丁目の本間さん」 |
| さより | 「はいはい」 |
| 小 林 | 「出前もやってるんですか」 |
| 静 子 | 「ええ。どうぞ、お持ち下さい」 |
| と、出前用のメニューを出す。 | |
| 小 林 | 「いいとこ見つけたな。利用させてもらいます。東松原ハイツの小林です。よろしく」 |
| 静 子 | 「(笑顔で)よろしくお願いします」 |
| さより、松田にビールを持って行く。 | |
| 小 林 | 「さよりって、あなたの名前ですか」 |
| さより | 「(首をすくめ)いくら寿司屋だからってねえ、子供の名前を何だと思ってるんでしょうね」 |
| 小 林 | 「(微苦笑で)可愛い名前じゃないですか」 |
| さより、嬉しそうに、ニコッ。 | |
| 修 造 | 「(見ていて)........」 |
| 小 林 | 「ということは........(と、修造を見る)」 |
| 修 造 | 「女房です」 |
| 小 林 | 「(修造と与志夫を見比べ)親子じゃないんですか」 |
| 修 造 | 「はい」 |
| 小 林 | 「立ち振る舞い、そっくりですね」 |
| 修 造 | 「(謙遜して)とんでもないです」 |
| 新たな客が入ってくる。 | |
| 修造 | 「(声を揃えて)らっしゃい!」 |
| さより | |
| □ タイトル『寿司、食いねェ!』 | |
| ――美味しそうな握りをバックに。 | |
| □ 同・全景 | |
| ――夜明け前。 | |
| 目覚まし時計のベルの音。 | |
| □ 同・夫婦の部屋 | |
| 二組敷かれた布団に、修造とさよりが寝ている。 | |
| さより、布団から手をのばし、目覚まし時計を止める。 | |
| しかし、起きない。布団を被り、足で修造を揺する。 | |
| 修 造 | 「(唸って起き上がり)........起きろ」 |
| さより | 「(布団を被ったまま)........寒い。いってらっしゃい」 |
| 修 造 | 「さよりも行くんだよ」 |
| さより | 「なんで私が河岸に........」 |
| 修 造 | 「いいから起きろ」 |
| と、さよりをくすぐる。 | |
| さより | 「やめてよ」 |
| 修造、やめない。 | |
| さより、ムッとなって修造に襲いかかり、反撃開始。 | |
| 修 造 | 「やめろよ」 |
| さより | 「修ちゃんが先に攻撃したんでしょ!?」 |
| と――ほとんどじゃれあっている二人。 | |
| □ 東京都中央卸売市場築地市場・全景 | |
| 市場のすぐ近くに波除神社がある。 | |
| □ 波除神社・境内 | |
| 修造、さより、与志夫、静子、典夫が参拝している。 | |
| 修 造 | 「今日で35年ですか、“すし・華”開店して........」 |
| 与志夫 | 「ああ」 |
| 静 子 | 「弟子入りして15年目の独立だったから寿司一筋に50年、か」 |
| 与志夫 | 「(感慨あって)続いたもんだな」 |
| さより | 「毎日毎日握って、よく飽きないわね」 |
| 修 造 | 「(尊敬の眼差しで)........」 |
| 典夫、おみくじを引いている。 | |
| 典 夫 | 「(見て)やった、大吉。“願い事、叶う”、だって」 |
| さより | 「入試の前に引けばよかったのに」 |
| 典夫、ガックリため息をつく。 | |
| 静 子 | 「大吉だ」 |
| 修造、さより、? | |
| 静子と与志夫もおみくじを引いていた。 | |
| 与志夫 | 「(おみくじを見て)小吉か。まずまずだな」 |
| さよりと修造もおみくじを引く。 | |
| 修 造 | 「(絶句)――」 |
| さよりもゲッとなっている。 | |
| 二人とも“大凶”である。 | |
| 静 子 | 「珍しいねえ、夫婦揃って」 |
| 典 夫 | 「かえって縁起がいいんじゃねえか?」 |
| 修 造 | 「(おみくじを見て)女難の相、あり」 |
| さより | 「(おみくじを見て)別離の予感、あり」 |
| 典 夫 | 「なるほど、お義兄さんが女作って離婚するか」 |
| さより | 「(ジロッ)........」 |
| 修 造 | 「(笑って)ありえないよ」 |
| 与志夫 | 「(修造に)行こうか」 |
| と、修造と場内へ向かう。 | |
| 静 子 | 「(さよりに)あんたも行ってきな」 |
| さより | 「昨日飲み過ぎ。松田さんとカラオケで盛り上がっちゃって。(修造の後ろ姿に)いってらっしゃーい」 |
| と、手をヒラヒラ振って大欠伸。 | |
| □ 同・表の道 | |
| いきなり車の急ブレーキの音。 | |
| さより、ア然と立ちすくんでいる。 | |
| 運転手 | 「危ねえじゃねえか、ババア!」 |
| さより、典夫に歩道に引き戻されて助かった。 | |
| 車、走り去る。 | |
| さより、ドキドキ。 | |
| 静 子 | 「(呆れ顔で)さより、永久に修造さんとお別れになるとこだよ」 |
| さより | 「(人心地ついて)ン? ババア!?」 |
| 走り去る車を睨みつけた。 | |
| □ 東京都中央卸売市場築地市場・場内 | |
| ――活気ある朝の風景。 | |
| 魚、魚、魚! | |
| 修造と与志夫が魚を買い付けている。 | |
| 与志夫が魚を選び―― | |
| 修造が財布代わりのセカンドバッグから金を出して支払いをする。 | |
| そのバッグから小銭が転がり落ちる。 | |
| 修造、反射的に拾おうと追いかける。 | |
| その時、魚を積んだ荷車が修造めがけて突進してくる。 | |
| 修造、ヒエッ、尻餅をつく。 | |
| 運転している おばちゃん |
「ボヤボヤしてンじゃないよ!」 |
| 修造、ホッ。しかし、ズボンの尻が濡れてしまった。 | |
| 修 造 | 「(顔をしかめ)........女難の相!?」 |
| □ “すし・華”・茶の間 | |
| さよりの妹・石井巻子が、大凶のおみくじを見て―― | |
| 巻 子 | 「(呆れ顔で)ダメだよ、お姉ちゃん、大凶のおみくじは神社の木に結んで来なきゃ........」 |
| さより、巻子の子供・大吉のおしめを替えていた。 | |
| さより | 「そうなの!?」 |
| 巻 子 | 「悪い運持って帰って来ちゃったよ」 |
| さより | 「(不安になるが)ま、そんなに信じちゃいないけど。大吉くんにあやかりたい!」 |
| と、手を合わせて大吉を拝む。 | |
| 途端、大吉が勢いよくおしっこをする。 | |
| さより、顔に浴びてしまう。 | |
| さより | 「――」 |
| 巻 子 | 「(苦笑して大吉に)オバちゃんね、おしっこよりウン、の方がいいんだって」 |
| さより | 「やめてよ」 |
| と、洗面所へ―― | |
| 入れ違いにスキーウェア姿の典夫が荷物を抱えて降りてくる。 | |
| 巻 子 | 「典夫、よかったじゃない、予備校の寮、解約しなくて」 |
| 典 夫 | 「(ムッと)傷口に塩を塗るような言葉、ホントにありがたいよ」 |
| 静 子 | 「大学なんか諦めて寿司屋になりゃいいじゃない」 |
| 典 夫 | 「それだけは絶対にイヤだ」 |
| □ あるマンション・廊下 | |
| さより、鼻歌混じりにやってくる。 | |
| あるドアの前に置いてある寿司桶を持ち帰ろうとして、!? | |
| 寿司桶の中に、ネジ消された煙草の吸いがらが数本入っている。 | |
| さより、カッとなり、その部屋の表札を見る。 | |
| “小林弘文” | |
| さより | 「(ビックリ)ウソ........小林さんが!?」 |
| さより、部屋のチャイムを鳴らす。 | |
| が、返事がない。 | |
| さより | 「........」 |
| □ “すし・華”・厨房 | |
| 修造たち、寿司桶を見ている。 | |
| 静 子 | 「洗って返せとは言わないけど、これじゃ煙草の匂いで使いものにならないじゃない」 |
| と、寿司桶をごみ箱に捨てる。 | |
| 修 造 | 「(怒り心頭で)俺、行って来ます」 |
| と、出ていこうとする。 | |
| さより | 「喧嘩になったらどうすンの」 |
| 修 造 | 「こういう時喧嘩しないでいつ喧嘩するんだ」 |
| 静 子 | 「その通り!」 |
| 与志夫 | 「やめとけ。手でも怪我したらどうするんだ」 |
| 修 造 | 「でも........」 |
| 与志夫 | 「出前の注文があっても断ってくれ。それでいい」 |
| さより | 「........」 |
| 修 造 | 「........」 |
| □ 同・店内 | |
| ――夜の営業中。 | |
| 常連の松田他5、6人の客がいる。 | |
| 修造と与志夫がつけ場に立ち、さよりと静子がビールやお茶を出したりしている。 | |
| ドアが開く。 | |
| 「らっしゃい!」 | |
| と、目をやった修造、! | |
| さより | 「(見て)........」 |
| 入ってきたのは、小林である。 | |
| 修 造 | 「(ブ然と)申し訳ありません、満席です」 |
| 小 林 | 「(店内を見回し)開いてるじゃないか」 |
| □ 同・表 | |
| 修造、小林の腕を掴んで連れ出してくる。 | |
| 小 林 | 「(ムッと)離せよ」 |
| と、修造の手を振り払う。 | |
| 修 造 | 「(厳しい表情で)あんたに食べさせる寿司はないッ」 |
| 小 林 | 「(睨んで)客に向かってなんだ!」 |
| 修 造 | 「(カッと)客だと!? 客ってのはな!」 |
| と、詰め寄ろうとする。 | |
| さより | 「修ちゃん!」 |
| と、二人の間に割って入る。 | |
| 小 林 | 「二度と来るか!」 |
| と、捨て台詞で去って行く。 | |
| 修造、小林の後ろ姿を睨みつけている。 | |
| □ 同・全景(数日後) | |
| ――朝。 | |
| 目覚まし時計の音。 | |
| □ 同・夫婦の部屋 | |
| 修造、起き上がる。 | |
| さより | 「(半分眠っていて)早いよ、河岸に行くわけじゃないのに」 |
| 修 造 | 「行くよ」 |
| さより | 「あ?」 |
| 修 造 | 「出張握りだろ」 |
| さより | 「!?(起き上がって)ちょっと、今日日帰りで温泉行くんじゃなかった!?」 |
| 修 造 | 「延期しただろ?」 |
| さより | 「(ムッと)聞いてない」 |
| 修 造 | 「言ったよ」 |
| さより | 「聞いてない。正月休めなかったから最初の定休日に行こうって言った」 |
| 修 造 | 「だから延期だって........」 |
| さより | 「聞いてない!」 |
| 修造、部屋を出て行く。 | |
| さより、ブスッ。 | |
| □ 同・店内 | |
| 修造と与志夫、出張握りの準備を整え、出かけようとしいる。 | |
| フテ腐れたさよりが静子とお見送り。 | |
| 修 造 | 「(ちょっと気にして)さより、一緒に行くか?」 |
| さより | 「行くなら温泉。京都は寒いからイヤだ」 |
| 修 造 | 「(ったく)........」 |
| 静 子 | 「忘れ物ない?」 |
| 与志夫 | 「ああ」 |
| 静 子 | 「新幹線の切符、持ってる?」 |
| 修 造 | 「(確かめて)大丈夫です」 |
| 与志夫 | 「じゃ、行って来る」 |
| □ 小林のマンション・廊下 | |
| さよりが寿司桶を回収している。 | |
| 小林の隣の部屋の前に寿司桶がある。 | |
| さより、持ち上げて、!? | |
| 二段重ねの下の桶に、山のように吸いがらが入っている。 | |
| さより、ムカッ。玄関のチャイムを鳴らす。 | |
| しかし、なかなか出ない。 | |
| さより、中の様子を窺おうとドアに顔を近づける。 | |
| 突然ドアが開き、さより、額をぶつけてしまう。 | |
| くわえ煙草の男 | 「ウルサイなあ。何?」 |
| さより | 「(寿司桶を突き出し)寿司桶は灰皿じゃありません」 |
| 部屋の中から「おまえの番だぞ」と、麻雀中の仲間が。 | |
| 男、ドアを閉めようとする。 | |
| さより | 「あんた、隣の寿司桶も灰皿代わりに使ったでしょ」 |
| と、ドアのノブを引っ張る。 | |
| 男が急に手を離したため、さより、尻餅をついてしまう。 | |
| □ “すし・華”・茶の間 | |
| 静子、ムカムカが収まらないさよりの額に絆創膏を貼る。 | |
| さより | 「もう、火ィつけてやろうかと思った」 |
| 静 子 | 「じゃあ、小林さんに悪いことしたね」 |
| さより | 「(頷き)追い返したりして........」 |
| 電話が鳴る。 | |
| さより | 「(出て)はい、“すし・華”です! あいにくですが今日はお休みを........」 |
| 修造の声 | 「俺だよ、俺。何気取った声出してンだよ」 |
| さより | 「なんだ、修ちゃん」 |
| □ 東京駅・表 | |
| 修造が公衆電話でかけている。 | |
| 修 造 | 「財布忘れた!」 |
| その後ろで、与志夫がタクシー運転手に頭を下げている。 | |
| □ “すし・華”・茶の間 | |
| 静子、テーブルの下から財布を発見。 | |
| さより | 「あ、あったよ」 |
| 修造の声 | 「時間がないんだ、大至急持ってきてくれ」 |
| さより | 「えーッ」 |
| □ 東京駅・表 | |
| さより、出て来てあたりを見回す。 | |
| が、修造と与志夫の姿はない。 | |
| 「あのう、“すし・華”さんですか?」 | |
| 振り返ると、タクシーの運転手が立っている。 | |
| さより | 「(怪訝に)そうですけど........」 |
| 運転手 | 「旦那さんたち、間に合わないからって21分のひかりに乗るって........」 |
| さより、! 時計を見ると5分前である。 | |
| さより | 「ありがとうございました」 |
| と、駆け出そうとすると―― | |
| 運転手 | 「(掴まえて)タクシー代」 |
| さより | 「――」 |
| □ 同・連絡通路 | |
| 焦るさより、人混みを掻き分けて走る! | |
| □ 同・新幹線ホーム | |
| 発車のベルが鳴っている。 | |
| さより、階段を駆け上がって来る。 | |
| が、間一髪間に合わなかった。 | |
| さよりの目の前を、ひかり号が加速しながら走り去ってゆく。 | |
| さより、ガクッ。 | |
| □ “すし・華”・茶の間 | |
| 静子が電話に出ている。 | |
| さよりの声 | 「っていうわけで財布渡せなかった」 |
| 静 子 | 「京都まで届けなさい」 |
| □ 東京駅・通路 | |
| さより | 「なんで!? 向こうに行けばなんとかなるでしょ」 |
| 静子の声 | 「お客様に迷惑をかけることになるし、恰好がつかないじゃないか」 |
| さより | 「だって........私、出前の恰好だよ」 |
| 静子の声 | 「親方に恥をかかせないでおくれ」 |
| さより | 「........」 |
| □ 駅名表示板 | |
| “東京” | |
| 新幹線の発車音。 | |
| 駅名表示、パンすると、“京都” | |
| □ 京都駅・構内の通路 | |
| さより、出口に向かっている。 | |
| さより | 「どうして汽車に乗ると駅弁食べたくなるんだろ。あー、食べすぎだ」 |
| と、ごみ箱に駅弁の空き箱2、3個を放り込む。 | |
| □ 同・表 | |
| 駅ビルからさよりが出てくる。 | |
| さより | 「のぞみは早いなあ........えーと、どこに行けばいいんだっけ?」 |
| と、ポケットを探り、!? | |
| さより | 「なんで!? なんでメモがないの!?」 |
| さより、財布の中やポケットを確かめるが―― | |
| さより | 「(アッとなり)駅弁の空、捨てた時だ!?」 |
| □ 同・通路 | |
| さより、ゴミ箱に駆け寄るが―― | |
| ゴミが回収された後だった。 | |
| さより | 「――」 |
| × × | |
| さより、思い出そうとしている。 | |
| さより | 「どこのホテルだったかなあ」 |
| 公衆電話が目に入り、電話帳をめくる。 | |
| その後ろを、大きな荷物を抱えた修造と与志夫が通り過ぎる。 | |
| さよりも修造たちも気づかない。 | |
| 修 造 | 「(与志夫に)のぞみの方がひかりより早く着くんですね」 |
| □ あるホテル・玄関 | |
| ベルスタッフ | 「佐竹様のパーティはこちらではお受けしておりませんが」 |
| さより | 「(落胆して)えーッ、じゃあどこのホテルだろ」 |
| □ 別のホテル・全景 | |
| ホテルマンの声 | 「うちではございませんが」 |
| □ またまた別のホテル・全景 | |
| さよりの声 | 「えー、ここも違うの!?」 |
| ホテルマンの声 | 「申し訳ございません」 |
| さよりの声 | 「だったらどこ?」 |
| □ ある山荘・全景 | |
| ――京都市内を一望出来るロケーションにある。 | |
| “京都・嵐山” | |
| □ 同・パーティスペース | |
| “宮脇賣扇堂・佐竹竜太郎氏の古稀を祝う会” | |
| 盛況である。 | |
| 修造と与志夫、即席のつけ場で寿司を握っている。 | |
| 「“すし・華”はん」 | |
| 気品漂う白髪の男(佐竹竜太郎)が微笑でやってくる。 | |
| 与志夫 | 「このたびはおめでとうございます」 |
| 修造も会釈する。 | |
| 竜太郎 | 「おおきに。ありがとうございます。遠いところ、ご苦労さんでございます」 |
| ――以下、竜太郎の科白は全て京都弁で。 | |
| 与志夫 | 「こちらこそすみません。財布を忘れて秘書の方に迷惑をかけて........」 |
| 竜太郎 | 「(気にするなと手を振り)わてもなんぞ握っもらいまひょか」 |
| 与志夫 | 「かしこまりました」 |
| 舞台に、華やかな芸妓と舞妓たちが登場する。 | |
| 三味線などの演奏と、踊り。 | |
| 修造、一瞬目を奪われるが、それどころではなく、握り続ける。 | |
| □ 京都の町 | |
| 風が冷たい。 | |
| さより、震えつつ、歩いている。 | |
| さより | 「寒いよォ........もォ、帰っちゃうよ」 |
| などとブチブチ言いながら道路を渡ろうとする。 | |
| 途端、けたたましいクラクションの音。 | |
| さより、迫ってくる車に立ちすくむ。 | |
| その時、さよりの腕が掴まれ、歩道に引き戻される。 | |
| 運転手 | 「アホンダラ!」 |
| さより | 「――」 |
| 車、走り去る。 | |
| さより | 「........すいませんでした」 |
| と、助けてくれた人物を見上げ、! | |
| さより | 「小林さん!」 |
| 小 林 | 「(も、驚き)“すし・華”の........!?」 |
| □ ある山荘・パーティスペース | |
| 修造と与志夫、忙しく握っている。 | |
| 舞台上では、客と芸妓たちが(例えば)投扇興(的に扇を投げて点数を競う)で遊んでいる。 | |
| 寿司の順番を待つ若い舞妓が一人、握る修造たちの手さばきを興味深げに瞶めている。 | |
| 舞 妓 | 「(京都弁で)すんまへん、ヅケと鯖とこはだ、握ってください」 |
| 修 造 | 「かしこまりました」 |
| と、握る。 | |
| 舞 妓 | 「どこで獲れた鯖どす?」 |
| 修 造 | 「神奈川県沖の........」 |
| 舞 妓 | 「ひょっとして、松輪!?」 |
| 修 造 | 「(戸惑って)え、ええ........」 |
| 舞 妓 | 「(笑顔で)へえ、松輪の鯖かあ........ほんなら穴子は羽田沖、でしょ」 |
| 修 造 | 「はい」 |
| と、握る。 | |
| 舞妓、ニコニコとその手つきを見ている。 | |
| □ 京都の町 | |
| さよりと小林。 | |
| 小 林 | 「それでわざわざ財布を届けに京都に?」 |
| さより | 「........ええ」 |
| 小林、携帯電話を取り出すと、さよりに背中を向けてダイヤルする。 | |
| さより | 「........」 |
| 小 林 | 「(電話に)ああ、俺だけど........」 |
| □ ある観光ポイント | |
| ――その風景。 | |
| 民芸品などを扱う観光客向けの小さな店“○○”がある。 | |
| 女性の声 | 「(怪訝に)どちら様ですか?」 |
| □ 京都の町 | |
| 小 林 | 「小林弘文です」 |
| □ “○○”・店内 | |
| さよりと同年代の女性が電話に出ている。 | |
| ――小林の妻・加代子。 | |
| 加代子 | 「(事務的に)なんや。ここに掛けてくるの珍しいから」 |
| ――以下、加代子は京都弁。 | |
| □ 京都の町 | |
| 小 林 | 「宮脇賣扇堂の佐竹竜太郎って知ってる?」 |
| □ “○○”・店内 | |
| 加代子 | 「もちろん。今日古稀のパーティが開かれてるんやけど、アルバイトの子が休んでていかれへんの。(待たせている客を気にして)ゴメン、忙しいの」 |
| □ 京都の町 | |
| 小 林 | 「(ちょっとムッと)それは判ってる。どこでやってるかだけでも教えてくれないかな」 |
| □ ある山荘・表 | |
| 修造と与志夫、持参の寿司道具をタクシーのトランクに積み込んでいる。 | |
| 竜太郎 | 「(出てきて)“すし・華”はん、帰ったらあきまへんがな。京都の夜、案内させてもらいます」 |
| 与志夫 | 「ありがたいんですが、明日の朝買い出しがございますんで」 |
| 竜太郎 | 「朝一番で帰ったらよろしいがな」 |
| 修 造 | 「親方、私一人で大丈夫です。佐竹様とつもる話も........」 |
| 与志夫 | 「ン........」 |
| □ 走るタクシー・車内 | |
| さよりと小林が乗っている。 | |
| さより | 「(恐縮して)すいません、付き合っていただいて」 |
| 小 林 | 「(首を竦め)この前どうして追い返されたのか知りたくてね」 |
| さより | 「(アッと)すいません! 私たちの勘違いでした」 |
| 小 林 | 「........」 |
| さより | 「犯人、隣の人だったんです。小林さん、煙草吸われないのに........ホントにすいませんでした」 |
| 小 林 | 「(微苦笑で)理由が判ってホッとしました」 |
| さより、恐縮しきっている。 | |
| □ ある山荘・表 | |
| さより、驚いて―― | |
| さより | 「えーッ、帰った!?」 |
| 従業員 | 「ええ。先ほど」 |
| さより、ガックリしゃがみ込む。 | |
| 小 林 | 「(同情して)........」 |
| □ 走るタクシー・車内 | |
| 修造が乗っている。 | |
| 修 造 | 「運転手さん、東京行きの最終は?」 |
| 運転手 | 「たしか九時半ぐらいまであったはずですよ」 |
| 修 造 | 「(時計を見て)........折角だから摘んでくか。どこか美味しい寿司屋知らないですか?」 |
| その途端、急停車するタクシー。 | |
| 修造、つんのめる。 | |
| 運転手 | 「(窓から顔を出し)コラ、危ないじゃないか」 |
| 修造、見ると、タクシーの前に若い女の子が両手を広げて立ちはだかっている。 | |
| 修造、!? | |
| 女の子、タクシーに乗り込んでくる。 | |
| 修 造 | 「え?」 |
| 女の子 | 「(歌う)私、待ーつわ」 |
| 修 造 | 「えっ!?」 |
| 女の子 | 「松輪の鯖、美味しかった」 |
| 修 造 | 「さっきの舞妓さん!?」 |
| 女の子 | 「そ。岩崎あかね。よろしく」 |
| と、修造の手を握る。 | |
| 修造、戸惑いつつ握手する。 | |
| ――以下、あかねの台詞はすべて京都弁。 | |
| □ 京都・繁華街 | |
| 寿司“○○”がある。 | |
| いかにも江戸前風の店構え。 | |
| □ 寿司屋・店内 | |
| カウンターに、修造とあかね。 | |
| 修 造 | 「(店内を見回し)ここが京都らしい寿司屋?」 |
| 寿司以外の料理のメニューが壁にベタベタと張ってある。 | |
| あかね | 「握りだけ出してる店なんてめったにないの。ま、他に色々あった方が変な寿司食べなくてすむし」 |
| 修 造 | 「(小声で)変な、って........いい寿司屋紹介するって........」 |
| あかね | 「食べれば判るよ」 |
| と、煮物や焼き物などを注文する。 | |
| 修造、カウンターの寿司メニューを見る。 | |
| あかね | 「ヅケ、ないよ。こはだ、ないよ」 |
| 修 造 | 「........」 |
| 修造、握りを何品か注文する。 | |
| × × | |
| 修造の前に握りが置かれる。 | |
| 修造、いつものように、穴が開きそうな勢いで寿司を眺める。 | |
| 板前たち、胡散臭げに修造を見ている。 | |
| 修造、寿司を口に放り込む。 | |
| あかね、修造を見ている。 | |
| 修造、何とも言えない顔になる。 | |
| ――決して美味しいという顔ではない。 | |
| □ 円山公園 | |
| ――全景。 | |
| “いもぼう 平野家本家”の看板。 | |
| □ 平野家本家・座敷 | |
| さよりと小林。 | |
| さより、落ちつかない様子である。 | |
| 小 林 | 「どうしました?」 |
| さより | 「修ちゃん以外の男の人と食事するの、初めてだから........」 |
| 小 林 | 「ご主人のこと、修ちゃんってお呼びなんですか」 |
| さより | 「あ........(赤面する)」 |
| 小林、そんなさよりを微笑ましく見ている。 | |
| 二人の前に膳が運ばれてくる。 | |
| さより、修造と同じように料理を眺める。 | |
| 小 林 | 「ここの名物のいもぼうです」 |
| さより | 「いもぼう........海老芋と、棒だら........あ、だからいもぼうですか」 |
| 小 林 | 「さすが寿司屋のおかみさんだな」 |
| さより | 「棒だら、よく煮込んでありますね」 |
| 小 林 | 「その割に芋が煮崩れてないでしょ」 |
| さより | 「ホントだ。(食べて)棒だらも柔らかい」 |
| 小 林 | 「海老芋の出すアクか棒だらを柔らかくし、棒だらのニカワ質が海老芋の煮崩れを防いでる........受け売りですけどね」 |
| さより | 「(感心して)へえ」 |
| 小 林 | 「このいもぼう、夫婦(めおと)炊きって呼び方もあるんです。夫婦で協力しあって美味しいものを........“すし・華”さん夫婦みたいですね」 |
| さより | 「(照れて)そんな........」 |
| 小 林 | 「羨ましいな」 |
| さより | 「あの........小林さん、結婚は........」 |
| 小 林 | 「してますよ」 |
| さより | 「でも、出前はいつも一人前だし........」 |
| 小 林 | 「単身赴任3年目。今日はこっちの本社で打ち合わせだったんです」 |
| さより | 「そうなんですか。大変でしょう」 |
| 小 林 | 「本当は妻も一緒に東京に来て欲しかったんですけど、店を放り出すわけにはいかないって」 |
| さより | 「店?」 |
| 小 林 | 「三年坂で小さな土産物屋をやってるんです。その店を放り出すわけにはいかない、ってね」 |
| さより | 「(恐縮して)すいません、食事まで付き合わせて。せっかく京都にお戻りなのに........」 |
| 小 林 | 「(首を竦め)まだ店を開けてる時間だし、あいつが終わる頃は新幹線に乗ってなきゃいけない」 |
| さより | 「........」 |
| 小 林 | 「........一人の家に帰るのは淋しいですからね」 |
| と、いもぼうをつつく。 | |
| さより、そんな小林を見て―― | |
| □ 寿司屋・店内 | |
| 修造とあかねの前に並んだ料理の数々。 | |
| 二人とも食欲旺盛に食べている。 | |
| 修 造 | 「ウン、うまいなあ。どれも味付けが繊細で........(ある料理を摘んで)これは........ぐじの酒蒸しか........」 |
| あかね | 「お寿司はどお?」 |
| 修 造 | 「(小声で)どうもこうも.......なんでこんなに甘いの?」 |
| あかね | 「(首を竦め)関西はみんなそう。だからイヤやの」 |
| 修 造 | 「酢飯というより砂糖飯........うちの店の二倍は入ってるな」 |
| と、つけ台の寿司を見る。 | |
| □ 同・表 | |
| 修造とあかねが出てくる。 | |
| あかね | 「(調子よく)ごちそうさま!」 |
| 修 造 | 「(時計を見て、あかねに)どうもありがとう」 |
| あかね | 「今度は私に付き合って」 |
| 修 造 | 「へ?」 |
| □ 京都・繁華街 | |
| さよりと小林が歩いている。 | |
| さより | 「(考えていて)........」 |
| 小 林 | 「どうしました?」 |
| さより | 「........帰ったら一人なのは、東京でも同じですよね」 |
| 小 林 | 「え?」 |
| さより | 「だったらお家の方が........奥さんが帰られたら一人じゃなくなるじゃないですか」 |
| 小 林 | 「(首を竦め)明日朝イチから会議なんですよね。新幹線の始発に乗っても間に合わない」 |
| さより | 「........」 |
| □ プリクラの画面 | |
| 修造、キョトンと画面を見ている。 | |
| あかねは、 | 「イエーイ!」と、Vサイン。 |
| シャッター音。 | |
| □ 京都・繁華街 | |
| 修造とあかねがゲームセンター店頭のプリクラで撮っている。 | |
| その後ろを―― | |
| さよりと小林が通り過ぎてゆく。 | |
| も | |