| □ プロローグ |
| ――デパートの玩具売場。 |
| 子供や主婦たち買物客でごった返している。様々なゲームの音や子供の泣き声などで、とにかくウルサイ場所である。 |
| タモリが登場する。 |
| 人混みの中を、歩きにくそうに進みながら―― |
| タモリ | 「人間には、本能的に恐怖や嫌悪感を感じるものがあります。例えばヘビ。アダムを唆して禁断の実を食べさせたから、というのがその原因だそうですが、聖書を信じない私には納得出来ません」 |
| 子供たちが傍若無人に走り回り、タモリ、ムッ。 |
| タモリ | 「それはともかく。暗闇もまた、人間が本能的に恐怖するものです。実験してみましょう」 |
| タモリ、指を鳴らす。 |
| 突然、照明が消え、真っ暗になる。 |
| 買物客たち、パニックに陥る。 |
| 悲鳴、泣き声、わめき声........阿鼻叫喚。 |
| タモリの、低く、不気味な笑い声が響いて―― |
| ――タイトル『真夜中』 |
| □ □□デパート・警備室 |
| 数人の警備員たちを前に、岩淵茂が敬礼する。 |
| 茂 | 「初めまして、岩淵です。よろしくお願いします」 |
| 保安課長 | 「というわけで、いきなり夜勤だけど頑張って下さい」 |
| 茂 | 「(張り切っていて)はい」 |
| 保安課長 | 「じゃ、吉田さん、あとはお願い」 |
| と、警備員の中では一番年配の吉田博に軽く手を上げ、出てゆく。 |
| 吉 田 | 「(どこか暗い翳がある)はい」 |
| □ 同・表 |
| ――閉店風景。 |
| デパートから吐き出されてゆく人の波。 |
| 吉田の声 | 「夜の場合、まず閉店直後、各出入口等の施錠を確認。店内にお客が残っていないかどうかチェック........」 |
| □ 警備風景 |
| 警備室のモニター設備や赤外線警報装置などの警備用設備、閉店直後から深夜に至る警備員たちの動きを短く見せる。 |
| 吉田の声 |
「(続いて)その後、赤外線警報装置のスイッチを入れ、各フロアを消灯し、二時間ごとに全館を巡回して回ることになってる」 |
| □ □□デパート・6階フロア |
| 玩具、子供服などの売場である。 |
| 常夜燈のみの暗闇。 |
| ショーケースにかけられた白い布。 |
| デパートは今、昼間からは想像できないほど静かで暗い眠りの中にいる。 |
| 茂と吉田が懐中電灯を頼りに巡回している。 |
| 茂、どことなく落ち着かない様子。 |
| 吉 田 | 「(怪訝に)どうした」 |
| 茂 | 「すいません、トイレ........」 |
| 吉 田 | 「(苦笑して頷き)この階はキミに任せる。私は上に移動するよ」 |
| 茂 | 「判りました!」 |
| と、小走りに行く。 |
| □ 同・男子トイレ |
| 茂、目の前の棚に懐中電灯を置くと、ジッパーを下ろすのももどかしく、便器に向かって放出する。 |
| 茂、気持ちよさそうに口笛を吹く。 |
|
――テレビアニメの主題歌(『サザエさん』)。 |
| 茂、フト、耳をそばだてる。 |
| 声 | 「........いっしょにあそぼ」 |
| ――少女の声だ。 |
| 茂 | 「え?」 |
| 少女の声 | 「........いっしょにあそぼ」 |
| 茂、振り返る。 |
| その声は、個室から聞こえてくるようだ。 |
| 茂、個室のドアを開ける。 |
| ――誰もいない。 |
| 茂、隣のドアも開けてみる。 |
| ――誰もいない。 |
| 茂 | 「(首をひねって)空耳かァ」 |
| 茂、さして気にとめずに出てゆく。 |
| □ 同・□階フロア(子供服売場) |
| 茂、巡回している。 |
| 懐中電灯の光を店内に走らせる。 |
| 光の中に――子供の姿。 |
| 茂、ギョッと立ち止まる。 |
| が、それは子供のマネキンだった。 |
| 茂 | 「(ホッと)脅かすなよ、まったく........」 |
| 再び歩き出す。 |
| 茂 | 「........一人だと結構不気味だなあ........」 |
| 茂、無意識にアニメの主題歌を口ずさむ。 |
| 再び、懐中電灯の光の中に白い服を着た少女のマネキン。後ろを向いている。 |
| 茂 | 「もう驚かないって........」 |
| と、懐中電灯の光を移動させようとした時―― |
| マネキンが振り返った。 |
| 茂 | 「――!!」 |
| いや、マネキンではなく、生身の少女だ。 |
| 少女、茂に微笑みかけると、誘うように駈け出した。 |
| 茂、! |
| 少女、闇に紛れる。 |
| 茂、ハッとなり、慌ててトランシーバーのスイッチを入れる。 |
| 茂 | 「6階の岩淵です。女の子が一人紛れ込んでました」 |
| □ 同・保安課 |
| 警備員A | 「了解」 |
| 警備員A、モニターの画面を□階に切り換える。 |
| 焦って急ぐ茂の姿が写し出される。 |
| 警備員B | 「赤外線は」 |
| 警備員A | 「反応なし」 |
| □ 同・□階フロア |
| 茂、少女を見失い、立ち止まる。 |
| 茂 | 「(舌打ちして)チクショー」 |
| と――まるで鬼ごっこでもしているように、懐中電灯の光の中に少女が顔を出す。 |
| 茂 | 「! キミ........そのまま。そこに居て」 |
| が、少女、再び駈け出す。 |
| 茂、追う。 |
| □ 同・男子トイレ |
| 茂、入ってくる。 |
| 少女の姿はない。 |
| 茂 | 「(荒い息で)はい、隠れんぼはお終い。出てきなさい」 |
| と、個室に向かって声をかける。 |
| 返事はない。 |
| 茂、端から個室のドアを開けてゆく。 |
| いない。 |
| いない。 |
| いない。 |
| そして最後の一つ。 |
| 茂、個室のドアを開ける。 |
| 少女は、いない。 |
| □ 同・警備室 |
| 茂が驚いて―― |
| 茂 | 「そんなバカな!」 |
| 警備員A | 「(シラけていて)ウソ言ったってしょうがないだろ」 |
| 茂 | 「ホントに、モニターには何も写ってなかったんですか」 |
| 警備員A | 「ビデオテープ、チェックしてみるか?」 |
| 茂 | 「........」 |
| 警備員A | 「寝惚けてたんじゃないのか?」 |
| 茂 | 「........だけど、俺........見ました」 |
| 自信なく呟く。 |
| □ 同・社員食堂(翌日) |
| 茂が同僚の警備員数人と食事をしている。 |
| 警備員B | 「へえ、やっぱり出たんだ」 |
| 茂 | 「え?」 |
| 警備員B |
「5年ぐらい前かなあ、このデパート、火事になったことあるだろ? 子供の日に」 |
| 茂、知らない。首を傾げる。 |
| 警備員B | 「玩具売場が中心に焼けて、何人も死んだらしいよ、母親とか子供とか。その時死んだ女の子の幽霊が出るって噂、知らなかった?」 |
| 茂 | 「(目を丸くして)マジかよ」 |
| 警備員C | 「先輩が何人か見てるって話だぜ」 |
| 茂 | 「........その先輩って........」 |
| 警備員C | 「辞めちゃったよ。ここ(頭)がおかしくなって」 |
| 茂 | 「(ゾッ)........」 |
| 警備員C | 「ちゅうのは冗談だけど」 |
| と、他の同僚と笑い合う。 |
| 茂、気味悪そうに顔をしかめる。 |
| ――離れた席で、吉田が一人で食事をしている。 |
| □ 新聞記事 |
| ――□□デパートの火災の記事。 |
|
六人の子供と母親が4人、犠牲になった、という内容。 |
| □ 図書館・新聞閲覧室 |
| 縮小版の記事に目を走らせていた茂、ドキッ。 |
| 犠牲者の顔写真が載っている。 |
| その中の一人の少女の写真。 |
| □ フラッシュ |
| 懐中電灯の光の中で振り向いた白い服の少女。 |
| □ 元の新聞閲覧室 |
| 不鮮明な写真だが、その少女に間違いない。 |
| 茂 | 「(凝然と)........」 |
| ――吉田加代子。 |
| □ □□デパート・6階フロア |
| 茂が一人で巡回している。 |
| ――ビビっている。 |
| 茂 | 「(ブツブツ)........玩具売場は嫌だって言ったのに」 |
| 茂、恐怖を紛らわそうと、アニメの主題歌を口ずさむ。 |
| 異様な音が聞こえてくる。 |
| ――キュルキュルと軋むような機械音。 |
| 床を這うように、茂目掛けて迫ってくる。 |
| 茂、ギョッと立ち竦む。 |
| 音、急速に迫ってくる。 |
| 茂、懐中電灯を音の方向に向ける。 |
| ラジコンカーだ。 |
| 物凄いスピードで茂目掛けて突進してくる。 |
| このままだと衝突する。 |
| が――茂、硬直して動けない。 |
| ラジコンカー、衝突寸前、ハンドルを切って茂を避け、闇の中へ走り去ってゆく。 |
| 茂、ア然と見送る。 |
| 静寂。 |
| 闇。 |
| 茂、震える手でトランシーバーのスイッチを入れようとする。 |
| が、やめた。 |
| 茂 | 「バカヤロオ、幽霊なんかいるわけないだろ!」 |
| と、自分に言い聞かせるように大声を出す。 |
| その時、物音がする。 |
| 茂、! |
| 子供服売場の方向だ。 |
| 茂、恐怖心を必死で抑え、音のした方向へ―― |
| × × |
| ――子供服売場。 |
| 茂、息をひそめ、ゆっくりと歩きながら懐中電灯で隅々を照らし出してゆく。 |
| 茂、!? |
| 試着室のカーテンが閉まっている。 |
| 茂 | 「(瞶めて)........」 |
| 茂、試着室に近づく。 |
| 茂 | 「(勇気を出して)だ、誰かいるなら出てこい」 |
| 返事はない。 |
| 茂、ドキドキしながら、カーテンに手をかける。 |
| 茂 | 「........」 |
| 茂、意を決し――力一杯カーテンを引いた! |
| 人がいた!? |
| 茂 | 「――!!」 |
| 茂、弾かれたように下がり、懐中電灯を向けた。 |
| 向こうからも強烈な光が―― |
| 茂、! |
| 人だと思ったのは、試着室の鏡に写った自分の姿だった。 |
| 茂、ホッと力が抜けるが、震えは止まらない。 |
| その時――茂の肩が叩かれる。 |
| 茂、ギョッ! と振り向く。 |
| 吉田が立っていた。 |
| 茂 | 「(全身の力が抜け)吉田さん........」 |
| 吉田、厳しい目で茂を見据えている。 |
| 茂 | 「(その様子に)........?」 |
| □ 同・仮眠室 |
| 吉田、ベッドに腰掛けた茂に、財布から取り出した写真を渡す。 |
| その写真を見た茂、息を呑む。 |
| 茂 | 「(顔を上げ)この子........」 |
| 吉 田 | 「本当にこの子なのか? キミが見たのは........」 |
| 茂、凝然と写真を瞶める。 |
| ――少女のスナップ写真。 |
| あの少女に間違いない。 |
| 茂、頷く。 |
| 吉 田 | 「私の娘なんだ。火事で死んだ........」 |
| 茂 | 「――!」 |
| 吉 田 | 「(苦渋に満ちた表情で)あの頃私は商社に勤めていた。忙しい毎日で、加代子と遊ぶ約束を何度も何度もすっぽかしていた。だからあの日は絶対に加代子と一緒に過ごすつもりだった。買物して、遊園地行って........加代子も楽しみにしてた。........しかし、どうしても外せない仕事が入ってしまって........。加代子は口を聞いてくれなかった。加代子が私に残してくれた最後の言葉が........パパなんか大ッ嫌い!」 |
| 茂 | 「........」 |
| 吉 田 | 「(激しい後悔で)あの日、私も付き合っていれば、妻も加代子も死なずにすんだかも知れない........」 |
| 茂 | 「(何と言ったらいいのか)........」 |
| 吉 田 | 「女の子の幽霊が出ると言う話を聞いて、私はここの警備員になった。しかし、私の前にはどうしても現れてくれないんだ」 |
| 茂 | 「どうして俺の前には........」 |
| 吉 田 | 「キミが口ずさむ歌、アニメの........」 |
| 茂 | 「ああ(あれですか?)」 |
| 吉 田 | 「加代子の好きな歌なんだ。それにキミは優しそうだし」 |
| 茂 | 「(顔を顰めて)幽霊に好かれても困っちゃうなあ」 |
| 吉 田 | 「........」 |
| 茂 | 「あ、すいません」 |
| 吉 田 | 「(必死に)頼む、加代子に会わせてくれ」 |
| 茂 | 「(困惑して)俺に言われても........」 |
| □ 同・□階フロア |
| 茂、懐中電灯を振り回しながら、大声でアニメの主題歌を歌いながら歩いてゆく。 |
| 吉田、物陰から茂を見守っている。 |
| 闇の中で、少女の楽しそうな笑い声。 |
| 茂、ドキッと立ち止まり、懐中電灯を向ける。 |
| 誰もいない。 |
| いや........光の中に........白い服の少女の姿がボーッと浮かび上がる。 |
| 茂、息を呑む。 |
| 少女・加代子の姿はやがて実像となる。 |
| 物陰の吉田、凝然と見守っている。 |
| 茂 | 「(恐怖を抑えて)........今晩は」 |
| 加代子 | 「まぶしいよ」 |
| 茂 | 「でも、キミが見えないから........」 |
| 加代子 | 「だいじょうぶ」 |
| 茂、懐中電灯を消してみる。 |
| ボッと、加代子のまわりだけ青白く光っている。 |
| 茂 | 「――」 |
| 加代子 | 「おにいちゃん、いっしょにあそんで!」 |
| 茂 | 「(必死の笑顔で)い、いいよ」 |
| 物陰の吉田、たまらず声をかけようとする。 |
| その時、加代子、駈け出している。 |
| 加代子 | 「おもちゃうりばまできょうそうよ」 |
| 茂、! 加代子を追い掛ける。 |
| 吉田も後を追う。 |
| × × |
| 玩具売場まで駈けてきた茂、ギョッと立ち竦む。 |
|
加代子の他に5人の子供たちが、つまり、火事で死んだ子供たちが、思い思いに遊んでいる。 |
| ――みんな、体が青白く発光している。 |
| ラジコンカーを走らせている男の子。 |
| 電源が入っていないのに作動しているTVゲームに熱中している男の子。 |
| 操り人形でもないのに、人形を踊らせている女の子。 |
| 加代子 | 「(振り向いて)ねえ、なにしてあそぼうか」 |
| 茂 | 「(言葉を失っている)........」 |
| その時、吉田が姿を現す。 |
| 吉 田 | 「加代子........」 |
| 加代子、吉田を見て、! |
| 吉 田 | 「パパだよ、判るかい?」 |
| 加代子、無言で後じさりする。 |
| 吉 田 | 「加代子........パパが悪かった」 |
| 加代子 | 「(首を振り)パパなんかだいッきらい!」 |
| 吉 田 | 「本当にごめん。パパだって加代子と遊びたかった。だけど、とっても大事なお仕事があったんだ」 |
| 加代子 | 「(フクれて)おしごとばっかり」 |
| 吉 田 | 「(必死に)もう言わない。もう、お仕事なんて言わないよ。パパね、加代子とずっと遊ぶつもりで来たんだ」 |
| 加代子 | 「........」 |
| 茂、見守っている。 |
| 男の子 | 「おとなはウソつきだから、しんようしないほうがいいよ」 |
| 加代子、その男の子を見る。 |
| 吉 田 | 「(すがるように)そんなことない。加代子、そんなことないよ」 |
| 加代子 | 「(試すように)........これ、かってくれる?」 |
| と、狸のぬいぐるみを指差す。 |
| 吉 田 | 「ああ、いいとも」 |
| 男の子 | 「フン、だ。ごきげんとっちゃって」 |
| 加代子 | 「(笑顔で)パパ、かくれんぼ!」 |
| 吉 田 | 「(嬉し涙で)加代子........」 |
| 加代子、駈け出す。 |
| 吉 田 | 「危ない、転ぶよ!」 |
| と、加代子を追い掛ける。 |
| 茂 | 「吉田さん!」 |
| 吉田、トイレの方向の闇に消えてゆく。 |
| 茂 | 「――」 |
| 子供たちが茂に近寄ってくる。 |
| 茂 | 「(ドキッと)な、なんだよ」 |
| 男の子 | 「オジさん、おれたちといっしょにあそぼうよ」 |
| 別の男の子 | 「おれたちのかくれがにおいでよ」 |
| と、茂の手を引っ張る。 |
| 茂、ヒエッと悲鳴を上げて手を振り払う。 |
| 茂 | 「(脅えて)お前たち、自分のこと、判ってンのかよ」 |
| 子供たち、キョトンと茂を見る。 |
| 茂 | 「お前たち、し、死んでンだぜ。手が冷たいじゃないか!」 |
| 別の女の子 | 「なあに? 死ぬって........」 |
| 茂 | 「――」 |
| 男の子 | 「ねえ、遊ぼうよ」 |
| と、寄ってくる。 |
| 茂、恐怖で絶叫する。 |
| 茂 | 「来るな! 俺はお前たちの仲間になんかなりたくない!」 |
| と、頭を抱えて蹲り、震える。 |
| あたりが静かになる。 |
| 茂、恐る恐る顔を上げる。 |
| 子供たち、いなくなっている。 |
| 茂、!? |
| 茂、床に落とした懐中電灯を拾い、あたりを照らす。 |
| 誰もいない、夜のおもちゃ売場。 |
| 茂、茫然と立ち尽くす。 |
| □ 同・仮眠室 |
| ――明け方。 |
| ベッドの茂、寝苦しそうに寝返りを打つ。 |
| 茂、揺り起こされる。 |
| 茂、ビクッとなって飛び起きる。 |
| 警備員A | 「お前、寝過ぎ。もうすぐ開店の時間だぞ」 |
| 茂 | 「あ........はい」 |
| 警備員A | 「どうした」 |
| 茂 | 「(気持ちを落ち着け)いえ........吉田さんは?」 |
| 警備員A | 「あれ? そういえば見てないなあ」 |
| 茂、怪訝。 |
| □ 同・□階フロア |
| 開店準備に忙しい店員たち。 |
| 茂、昨夜の出来事を確かめるように、歩いてゆく。 |
| ――なんの変哲もない、日常の風景。 |
| 茂 | 「........」 |
| □ 同・男子トイレ |
| 茂、入ってくる。 |
| 茂 | 「........」 |
| 茂、小便をしようとする。 |
| その時、個室の中で話し声がする。 |
| 微かに―― |
| 「パパ、ずーっといっしょにあそぼうね」 |
| 「ああ、いいよ。加代子........」 |
| 茂 | 「! 吉田さん!」 |
| 返事はない。 |
| 茂、個室のドアを開ける。 |
| ――誰もいない。 |
| 茂、隣の個室のドアを開ける。 |
| ――誰もいない。 |
| 茂、更に隣の個室のドアを開ける。 |
| ――誰もいない。 |
| 茂、最後の個室のドアを開ける。 |
| 途端――! |
| 物凄い勢いで火焔が吹き出す。 |
| 茂、驚愕。反射的に避けようとするがそのヒマもなく炎に飲み込まれる。 |
| が――その炎はアッという間に消えてしまう。 |
| 茂、!? 顔や衣服を確かめるが、炎の痕跡はどこにも残っていない。 |
| 茂、目の前に吉田がいることに気付いた。 |
| 茂、その様子に愕然となる。 |
| 吉田、トイレの便座の蓋の上に腰掛けている。 |
| 狸のぬいぐるみを抱いて、夢を見ているような、幸せそうな表情で――死んでいる。 |
| 凝然と目を瞠って立ち尽くす茂で―― |
| □ ――『真夜中』・終わり―― |